スパルトイ
村の中を歩き回ると、いくつかの骨を見つけた。
しかし、それはスケルトンを造るには使えない物がほとんどだった。
状態があまりにもひどい。
今、目の前にある骨は、頭から肩にかけてがまるごと無くなっていて、明らかに大型の何かにかじられたようだった。
無くなった先は何かの腹の中か。
残った部分は投げ捨てられたのだろう。
壊れた家に飛び込み、くずれたガレキの下敷きになっていた。
他にはこんな骨もあった。
先程の無惨な骨と同じように上半身が無くなっている骨。
ただ、こちらは上半身だけではなく、足も無くなっている。
この骨はひとつやふたつではなかった。
何でこうしたのかは想像がついた。
これをやった奴はまず足をつぶして、逃げられないようにしたのだ。
あらかたをそうやって逃げられなくしてから、戻って来て、順に頭を食べて回ったのだろう。
人を襲い、食べるモンスター。
獣型のモンスターならいくらでもいる。
しかし、これをやったのは人型のモンスターだ。
村の至る所にこれをやった奴の足跡が残っていた。
有名どころだとオーガがいる。
後はグールなども有名どころだろうか。
しかし、これをやったのはどうにもそれらでは無さそうだ。
残っている足跡はあまりにも大きかった。
まさかな。
心当たりのモンスターに思い至って否定する。
突如としてそんな大物がこんな所に現れるなんて。
中には革鎧らしき物を着ている者もいた。
旅の冒険者か?
村の印象からすると、鎧や剣を持った人間が何人かいたようなのが、何となく違和感がある。
考えていた所で、新顔が俺の前に現れた。
身振り手振りで何かを示す。
何やら見つけたらしい。
案内しろ、と命じて、後に付いて行く。
そこにあったのは教会の残骸だった。
見事に焼け落ち、風化し、かろうじて残っていた十字架が、ここが教会である事を示している。
今では全てが露出してしまっているが、元々の中だった場所には無数の骸骨があった。
ひとつふたつではない。
数十人分の骸骨だ。
集団自殺?
骸骨の状態は外の物と比べて、はるかに良かった。
モンスターに襲われ、食われて死ぬくらいならと火を放ち、ここで死んだのだろうか。
これだけの骸骨が並んでいて、ひとつもアンデッド化していないのは場所が教会だからかもしれない。
昔ながらのアンデッド化を防ぐための地脈操作がしてあったのか。
至る所に積み重なる骸骨に対して特に感情は湧いてこなかった。
冷静に、淡々とひとつひとつの骸骨を確認して回ると、やがてひとつの考えが頭に登る。
これは。
ヒュージスケルトンが造れるな。
ヒュージスケルトンの創造には無数の骸骨が必要だ。
山のような骸骨を素材に造られるスケルトンは、通常のスケルトンのサイズを遥かに超える。
それはちょっとした平屋が持ち上げられる程の大きさにもなる。
ただし、無数の骸骨が必要になるので、今まで一度も造った事は無かった。
さすがにそこら辺の国や街の墓で使えばお尋ね者になってしまう。
正直、巨大骸骨なんてあまり需要があるとは思えない。
見た目の不気味さ以上に、通常の消費魔力が大き過ぎるのだ。
それでもこれはロマンだろう。
そういうスケルトンがいると知っていて、未だ見た事無い。
そういう物に憧れて何が悪い?
良し。
やるか。
背負っていたバッグから、ひとつの巨大な牙を取り出した。
腰に下げている古鍵とは素性が違う。
何しろこれはドラゴンの牙なのだから。
昔、とあるツテから貰った物で、売ればかなりのお金になると分かっていたけれども、何かの時に使えないか、そう思ってずっと持ち歩いていた。
偽物だとは思わない事にしている。
実際にこれから感じられる魔力は尋常では無い。
特別なスケルトンを造るのなら、これくらい強力な依り代を使っても良いだろう。
依り代にはスケルトンの魂の一部が封じられる。
さっきの場合なら古鍵の中にスケルトンの魂の一部が封じられるのだ。
それによって造られたスケルトンを束縛し、使役する人間が自由に扱う事が出来る。
ただし、依り代を破壊されれば、スケルトン本体も破壊されてしまうという難点があるのは仕方無いだろう。
依り代に良い素材を使えば、それだけ破壊されにくく、そして本体の能力にも補正が掛かる。
良い物を使って悪い事は何ひとつ無い。
隊長達に命じて、全ての骸骨を教会から運び出し、広場へと集め、ヒュージスケルトンを造る準備を始めた。
集まった骸骨の山の前に立つ。
教会の外にもいくつかあった骸骨も全て持ってきた。
手には竜の牙。
後ろには隊長達、7体のスケルトンが立っている。
万が一にも巻き込まれては困るので、離れさせた。
目を閉じ、開く。
そして魔法式を展開する。
応えよ。
力を求めよ。
我が求めに応えよ。
放たれたコードに反応して骸骨の山が赤く輝いた。
まるで夕陽。
それと相反するように手に持つ牙から真っ黒な渦が生まれた。
これは何だ?
いつもとは様子が違う。
体中の生気が吸われる。
途端、体が重くなる。
今、気を失う訳にはいかない。
強く念じる。
応えよ。
世界に産声を上げ、意志を宿せ。
我は世界。
我が世界に其を迎える。
我が命に従え。
下れ。
「ネクロドライブ!」
瞬間、牙を持つ手が闇に包まれた。
な!?
意志を保て!と自分に激する。
ヒュージスケルトンを造るには、ここからネクロドライブを強化しなければならない。
さらなる魔法式を頭の中に展開する。
門を開け。
ここに現れろ。
途端、牙を手に持つ感触が無くなった。
持っていた右手に痛みが走る。
現れろ!
下れ!!
夕陽と化した骸骨の山は今では直視出来ない程の閃光を放っていた。
目を開けていられない。
それでも念じ続ける。
ただ一言を。
下れ。
「下れ!オーバードライブ!!」
その瞬間、世界が茜色に染まった。
見えない。
目を開けられない。
ひどい耳鳴りがしていた。
何も分からない。
いつまでそれが続いたのか。
やがて耳鳴りがやみ、視界が戻ってきた。
そこに立っていたのは、身の丈5メートルの巨大スケルトン、ではなかった。
普通の成人男性サイズのスケルトンだ。
その姿は茜色。
「私の名前はエキオン。スパルトイに名を連ねる者のひとりなり。身命を賭して、主に仕えよう」
「は?」
そう言い、茜色のスケルトンは礼をする。
スパルトイ。
ハイスケルトンよりも上位のデスナイトとかと近い格の高位のスケルトン。
それが俺の目の前に立っていた。
訳が分からない。
どうしてこうなった?