望み
分岐点でした。aルートとbルート、迷って結局はbルートへ。
村に俺がいなくとも、何とかなるようになってきたので、ナーとサストレ、ルークに村の事を任せ、スケルトンの補充にも出た。
いくつかのダンジョンへと向かい、ビフロンスにたまっていたスケルトンの予約分を無事に揃え、さらに在庫として8体のスケルトンと1体のスケルトンソルジャーを用意した。
それでひとまずは近隣の需要は満たせたのか、すぐにスケルトンが足りなくなる事は無さそうだった。
村に戻り、久しぶりに執務室の席に着くと、それを待っていたかのようにナーが現れ、報告を始めた。
ちょうど報告が終わる頃にルークとバンザイが姿を現す。
「交易につきましてですが、案が形になりましたので、お持ちしました」
バンザイが書類を差し出す。
それを受け取り、一通り目を通した。
提示された案は農作物の売買がほとんどだ。
広い耕作地を用意したので、余剰作物を売るだけでもかなりの利益は出るだろう。
ギルドから親方を招いて、農民の中から徒弟を募り、技術を習得させる案については困難であると示されていた。
現状、村の住人のほとんどが身分で言うなら、農奴である。
まともな財産を持っている者も少なく、修行料をきちんと払える余裕があり、年齢的にも適している人間はほとんどいなかった。
酪農案も一部含まれていたが、それも難しいようだ。
牛や豚は現在も村の中にいるものの、その数を増やせるだけの余裕は無い。
村の外に農場を作るにはモンスター対策に、また壁を作る必要がある。
それは村が軌道に乗ってからの話という事になった。
そうなれば考えるべきは、その余裕のある耕作地で何を作るかだ。
勿論、麦でもそれは構わない。
しかし、折角広い耕作地を用意したのだから、利益の出やすい、貴族や富裕層が口にするような物も合わせて生産したかった。
そう思って広げた案書を見ていると、バンザイがその中からひとつを選び、差し出した。
「私もそれが一番可能性が高いと考えました」
ルークも推すその案は茶の木の栽培だった。
「茶か。あてはあるのか?」
俺は煙草の方が正直、気にはなったが。
あまりこのあたりで、栽培しているという話しは聞いた事が無い。
「国内では無理ですね。色々と当たってみた結果、エイルマーニでの視察、交渉ならば割とすぐに出来そうです」
さすがにルークは動きが早いな。
エイルマーニは南西のイルファ商業同盟に属する国だ。
確かに修道院主導で茶の栽培を行っているとは聞いた事があった。
「良し。それじゃあそれで準備に取りかかってくれ」
「かしこまりました」
バンザイも礼をして、立ち去った。
茶か。
一般に茶と言えば、大体が野草を煎じて飲む程度の物だろう。
貴族や富裕層が飲む紅茶などは木の葉から作る物だ。
そしてそれは輸入に頼っていて、どこから輸入した物でもその値段は恐ろしく高い。
解毒作用があるという話はどこまで本当だか分からないが、俺はそういう薬効以上に味が気に入っていた。
香りが良く、率直に言って、美味い。
菓子などとは違った甘さが飲んだ後、口の中に残るのが心地よい。
あれをこの辺で作れるのなら、大きな利益を生むだろう。
「ナーは茶を飲む機会は今までにあったか?」
「いいえ。ほとんどございません。閣下のために、この館にも用意してあるようではございますが」
「なに?あるのか。それなら飲ませてやろう」
いれさせるように言うと、ナーは閣下と客人のために用意した物なので飲めませんと固辞した。
仕方無いので、ナーを出て行ったばかりのルークを呼び戻しに行かせる。
ルークは飲めと言えば、断らないだろう。
そのついでにナーにもいれてやれば良い。
何も言わずに傍らに立っていたエキオンが、誰もいなくなって声を掛けてくる。
「私が飲めないのは残念だな」
「香りも分からないのか?」
首を振って答える。
「もう少し潤いのある楽しみが欲しい所だ」
「贅沢な奴だな。スケルトンのくせに」
「スケルトンにも望みくらいあるさ。他のスケルトンはどうだか知らないけどな」
楽して暮らしたいとか考えるスケルトンもいるのだろうか?
バンザイの姿が思い浮かんだ。
いや、アイツもそこまで飛んでる奴じゃないだろう。
「エキオンの望みは何なんだ?」
特に深く考えずに問い返すと。
「それを察するのもマスターの勤めだろう?」
と、返された。
エキオンはたまに面倒くさい奴になるな。
そう思いつつも、それを考えてやるのも悪く無いかとも思っていた。




