ウルクハイ
最初にオークハイの2体が同時に手にした片手剣を突いてきた。
その速さはオークとは比べ物にならない。
それをエキオンと隊長はギリギリで交わし、そのまま後列のカタブツと俺へと送るように体を入れ替え、背中で体当たりした。
よろけつつも2体はそのまま新たな目標を定めて突進してくる。
カタブツが1体の突撃を盾で受け、その動きを止めた。
ちょうど後ろにいたのは槍を持ったトータスだった。
トータスはカタブツの脇をすり抜けるように半身で前に出つつ、短く持っていた槍でオークハイの首の後ろ付近に刃を突き入れる。
血がトータスの頭を濡らした。
俺の方にも1体が突っ込んでくる。
俺の手にしている剣は両手剣だ。
リーチは俺の方が長い。
しかし、振りかぶるだけの天井の高さは無い。
迫り来るオークハイに対して俺は、そのまま前へと倒れ込んだ。
倒れゆく俺を見て、オークハイの口角が吊り上がる。
剣は俺の頭を目がけて突き進んできた。
その切っ先が当たるかどうかの所で、軽く上半身をひねる。
自然に。そしてほんの少しだけ。
頭をかすめるようにしてオークハイの突きが通り過ぎる。
刃こぼれしている様子までもが分かる距離で。
それを見たオークハイの表情は焦りを浮かべているだろう。
悪いが遅いよ。
今から剣を振り下ろしても間に合うまい。
右足を地面すれすれに踏み出して、体を起き上がらせる。
それに合わせて手にした剣をオークハイの腹へと押し当て、すれ違い様にそのまま剣を引いた。
金属鎧を着ていたにも関わらず、剣は鎧ごとオークハイを両断した。
オークハイにしては練度が低いな。
生まれたてか?
その間にもエキオンが2体、隊長が1体を斬り伏せた。
これで残るは2体。
だが、その2体はそのまま闇の中へと逃げ去った。
ふがいない。
「閣下。あまり今の技はお使いにならないようにして頂けますか?」
後ろで新米スケルトンの面倒を見ていたナーが近づいてきて、文句を言った。
「そうか?あまり剣を振り回せないダンジョンでは有効なんだがな」
あれならオークハイに小細工を使われる暇は無い。
一撃で済むから楽でもある。
「万が一と言う事もある技に見えました。あれは命を投げ出す類いの技ではありませんか」
どうやらナーは怒っているらしかった。
分からん。
何が気に入らないんだか。
「豚顔相手にどうこうなったりはしないさ」
「相手が問題なのではありません!とにかくあの技はお止めください!私は一瞬……」
一瞬?一瞬の先はなんだ?
刺されたとでも思ったのか?
それこそありえないだろう。
珍しく、ナーの語気が荒くなっていた。
何だ?俺が悪いのか?
思わず周りを見る。
新顔スケルトン達は棒立ちだ。
しかし、明らかにこちらを見つめている。
トータスはそろそろと、嫌にゆっくりとした動作で後列へと下がっていく。
ナーの視界を避けるようにしているのは気のせいだろうか?
隊長とエキオンはわざとらしく壁の方を向いていた。
壁には特に何もおかしい所は無い。
隊長までもがそうしているのは、エキオンが命じたのか?
その様子が妙にむかつく。
カタブツとゴキゲンは前方を警戒をしている風だったが、ゴキゲンはたまに頭を回してこちらをちらりと見る。
なんだ、お前ら。
誰も何も言っていないが、何となく俺が悪い的な雰囲気を全てのスケルトンから感じた。
「……悪かったな」
「閣下は後列をお願いします。私が前に参りますので」
何故か、後ろへと回された。
一体、何が不満なんだ?
まったく。




