闇の中へ
ダンジョンへと向かったのは、俺とエキオン、そしてナー。
後は隊長、ゴキゲン、カタブツ、トータス、ガサツだ。
ルークとバンザイは村で留守役にしてある。
ダンジョンの中ではあまり弓矢の出番は無いので、ドジッ子も留守番だ。
村の警備を頼む軍の人間を待ってからソリアのダンジョンへと向かった。
ソリア山の麓までは骨の馬を2頭だてにした馬車で向かい、山の麓からは歩く。
山に入れない馬車にはガサツを残して任せ、さらにダンジョンを目指した。
ソリア山には広葉樹が覆い茂っていた。
その葉は青々としていて、そこだけ見ると豊かな自然が生み出す美しさが感じられる。
しかし実際に山の中を歩くと昼でも暗く、どこかじめじめとしていて、ここが人の住む土地では無い事を嫌でも実感させられる。
獣道よりはマシという程度の道が続いた。
途中、何度かゴブリンが現れ、隊長達が蹴散らし、進む。
確かに現れるモンスターの数は多かった。
人間だけなら、ここに来るまでに結構な消耗をしていたかもしれない。
疲労の無いスケルトンに戦闘を任せ、問題なく進んだ。
「着いたな」
特に誰に言うとも無く口にする。
斜面にぽっかりと暗闇が口を開けていた。
ダンジョンの入り口。
下手に崩れてダンジョンの入り口の場所が変わっても困るので、入り口にはしっかりと補強がされていて、それは鉱山の採掘道の入り口によく似ていた。
中からは湿ったカビ臭い空気が流れ出している。
ここからが本番だ。
「さて、今回はモンスターの数を減らすのが目的だからな。1階層ずつ回って、手当り次第に奴らを殺して回るぞ。1階層終える毎に外に出て、休む事にする」
スケルトンは闇でも見通せる。
明かりも魔法も必要無い。
しかし、俺やナーは人間だ。
暗闇の中に長時間、身を浸すだけでも消耗する。
体力以上に精神力が削られていくのだ。
「長期戦になると分かっているのに、無理をする必要は無い。浅い階層はスケルトンに任せて、深い階層に入ったらナーにも働いてもらう。質問はあるか?」
「ありません。僭越ながらソリアの内部構造は全て記憶して参りましたので、ご案内させて頂ければ幸いです」
「そうか。なら任せる」
俺もここには何度も潜っている。
中の構造も、ある程度は把握していた。
しかし、全て覚えて来たとは律儀な奴だ。
俺もナーもダークヴィジョンを使う。
暗闇を見通す魔法は、さすがにどこまでも見通せる訳では無かったが、これで戦うのに十分な距離まで見通せる。
明るさは満月の夜程度、見通せない先は雨の日の夜のような見え方である。
エキオンが暗闇の入り口へと足を踏み入れ、そこに隊長が続き、そして俺たちも中へと入る。
そう広くない坑道にも似たダンジョンへと足を踏み出した。
ゴブリンやオーク、弱過ぎるモンスターを苦もなく斬り飛ばして進んで行く。
1階層から3階層までは他の冒険者にひとりも出くわさなかった。
その代わり、何度か既に死んでいる冒険者は見つけられたので、スケルトンへと変えていく。
ダンジョンで死んだからといって、そのまますぐにアンデッドになるとは限らない。
アンデッドになるにはいつくかの条件が必要なのだ。
ひとつは死ぬ間際に強い呪詛、生への願望などを残した上で、アンデッドになれるだけの十分な魔力があった場合。
これは意外に少ない。
死ぬ間際の感情なんて、それこそ「あ」くらいの何の感情も残らない場合が多いのかもしれない。
ひとつはネクロマンサーがいる場合。
モンスターのネクロマンサーは種類が少ないので、これは特殊な場所にしかいない事が多い。
一番有名なのは言うまでもなく、リッチだ。
ひとつは憑依系のモンスターがいる場合。
人の死体に取り付き、変異させ、別のモンスターに進化するタイプが稀にいる。
ソリアでは確認されていないので、気にする必要な無いだろう。
そして最後のひとつは多くの死体が集まっている場合だ。
ひとつひとつの死、ひとつひとつの感情や呪詛は僅かでも、それが集まれば大きな力になる。
その場合はまとめてアンデッドが生まれる事になる。
アーレスの村が廃村だった頃、教会跡でスケルトンが大量発生しなかったのは僥倖だった。
これらの条件はダンジョンではなかなか揃わないため、食い荒らされたりしない限りはそのままで残っている事が多い。
ダンジョンは俺に取っては都合が良い奴隷市場だった。
創造したスケルトンは最初の5体がたまった時点で一度、ガサツの元まで戻り、馬車の護衛に当たらせ、以降は探索を手伝わせた。
スケルトンソルジャーよりもただのスケルトンの割合の方が高い。
これは骸次第なので仕方無いだろう。
モンスターの数はやはり多い。
ゴブリン、ホブゴブリン、オーク、オーガ。
造ったスケルトン達は後方の警戒に当たらせ、隊長達を前衛に押し出して、問題なく殺して回った。
途中、生きている冒険者にもあった。
あまりにも数が多いので、もう上がろうかと思っていた所だったらしい。
数が多い事以外は特に変わった様子は感じはしないようだ。
さすがに、この狭いダンジョンの中で生まれたばかりのグレンデルに出くわしても困る。
変わった事が無いならその方が良い。
7階層を超えた辺りで、奇妙なオークの一団が現れた。
豚顔の亜人種には違いない。
普通のオークはどこかだらしない中年を思わせるような出っ張ったお腹をしている。
しかし、今現れたオークはその体系が引き締まり、筋肉質だった。
オークハイか。
嘘か本当か、オークと人間の配合種とも言われている。
さすがに言葉を話すような知性は無いが、普通のオークよりも頭が良く、その攻撃にもフェイントや技のようなものが表れる。
冒険者にとっての難関であり、これを倒せるかどうかで一人前かどうかが分かるとも言われている。
オークハイの数は7体だ。
何体かが冒険者から奪い取った物であろう、金属鎧や革鎧を着ている。
出くわした場所は広く、お互いに正面からぶつかり合えるだけの十分な広さがあった。
最初はやや狭かったダンジョンも、奥へと進むにつれて、現れるモンスターの体格に合わせたように広くなっていく。
オークハイが仲間を鼓舞するように叫びを上げ、武器を抜いた。




