ソリアへ
「さて、ルーク、村の様子はどうだ?」
「概ね、支持されております。農作物の生産性は大幅に上がってますからね。種を蒔けば面白いように芽が出ると好評です。ただ、水路に時折現れるモンスターを恐れる声は根強いです」
そこまでルークが報告すると、ナーが後を引き継いだ。
「現状、スケルトンが良く防いでいるので被害はゼロですが、平野と水路で運悪くモンスターの襲撃が重なると、この限りでは無くなるかと思われます。余剰戦力がヒュージスケルトンだけではいざと言う時に小回りがききません。今の内に対策を講じておくのが得策かと」
「そうだな」
現状は、俺とエキオン、ナーとで村の周囲のモンスターを狩り取っていた。
数日に一度はやらないと、いつの間にかモンスターは村の近くへと接近してくる。
いくら壁で村を覆ってあるからといって、放置するのは危ういだろう。
その効果で平野から村へのモンスターの接近を許していない。
ただ、出来たらこれは隊長達に引き継ぎたい。
今のままでは俺が動く事もままならない。
水路からモンスターが現れる以上、予想外の大物や複数同時出現に備えて、現状では隊長達は畑の警備から外せなかった。
スケルトンだけじゃなく、スケルトンソルジャーも欲しい所だ。
そう考えつつも、なかなかその機会は訪れなかった。
1ヶ月が過ぎ、新しく増やした畑からもいくつかの作物が収穫された。
肥料もそれなりに効果があったのだろう。
この調子ならかなりの収穫が望める。
村ではこれからに備えて冬麦の種まきが始まっていた。
次の段階に進むためにもスケルトンを手に入れなければ。
そのチャンスは、街に行き、貴族院への報告を終えて戻って来たルークによってもたらされた。
「貴族院から要請がひとつ来ました。ソリアのダンジョンに向かえとの事です」
ソリアのダンジョンはエイディアスの街から北に数日進んだ先にあるソリア山の中腹に口を開けるダンジョンだ。
モンスターはここから湧き出すと言われていて、実際にこの辺りのオーガやゴブリン、オークはここから野へと下り、さらに増え、そして人を襲う。
モンスターが出ると分かっているなら、塞いでしまえば良い。
そう考え、過去には実際に塞がれた事もある。
その結果、別の場所から口が開き、そしてやはりモンスターは湧き出した。
ならばと、魔法使いを結集させ、封印魔法を施した事もあった。
結果は、数年後、モンスターによって封印は破られた。
それも容易には手に負えない強力なモンスターが湧き出した事によってだった。
そこで当時の人間が新たな対策を考え出した。
最初の数年は軍が率先して潜り、とにかくモンスターの数を減らし、ある程度の数で安定するようにモンスターの討伐を行う。
モンスターの数が安定してきた所でそれを傭兵へと委託し、そこで討伐して来たモンスターの強さに応じて報酬を国が支払う事にした。
これが今で言う冒険者の起こりと言われている。
危険なダンジョンの調査とモンスターの討伐を専門に行う職業の誕生だった。
当時、モンスターの対処に熱心な国が、軍をそちらに向けている間に他国から侵略される事態が起こり、それが冒険者の仕組みが世界中に広がる契機にもなった。
その仕組みは現在でも続いていて、冒険者が常にダンジョンに潜り、モンスターの数を減らし続ける事で、モンスターによる大災害が防がれている。
ダンジョンは世界中に、いくつもある。
ソリアのダンジョンはそうしたダンジョンの中ではそれほど厳しいダンジョンでは無い。
地下へと向かって広がる全12階層の中難易度のダンジョンだった。
「それで、わざわざご指名で潜ってこいとは何があったんだ?」
何も無ければ冒険者へ、何かあっても軍へ話が行くのが普通の筋だろう。
それがわざわざ俺にお鉢が回ってくるとはどういう事だ?
「ソリアに潜る冒険者の数がここ数年、減っていたようです。報酬を上げる等、対策を取っていたようですが、国内の冒険者の減少とも相まって、効果はあまり無かったようです」
冒険者の仕組みも100年以上経った現在では、綻びが生じているとは一部で言われていた。
3年から5年も潜り続ければ大金が手に入る反面、最初の一度で命を落とす者も少なく無い。
そんなダンジョンよりも、ある程度、街の中で安全に暮らせる軍を志望する人間の割合が徐々に増えていた。
「なるほど。グレンデルがどこから出て来たのかと思えば」
ダンジョンの中でモンスターが増えると、野に放たれるモンスターの数も増える。
それがある程度を超えると、ダンジョンから湧き出すモンスターの数がぴたりと止まる。
ダンジョン内に増えた小物をエサに大物が生まれるらしい。
それを実際に確認した人間は歴史上、ひとりとして存在してはいなかったが、ダンジョンから大物が出てくる事は何度も確認されている。
そして最近、この地には大物が現れた。
「グレンデルの出現はあそこからだったのは、ほぼ間違いないようです。最近、またダンジョン内部が活性化して、小物の数が増えています。2体目のグレンデルが出て来る前に内部のモンスターの数を減らし、大物の出現を抑えるようにと特命が下されました」
なるほどね。
今回はスケルトンと共に潜って良いとの事だ。
軍に余裕が無いから、便利に使える俺に回って来たのか。
それはそれで好都合かもしれない。
ダンジョンには死体が転がっている事が多い。
それもスケルトンソルジャーを作れるような死体が。
聞けば、ダンジョン探索中は、村の警備は軍で請け負ってくれるらしい。
人を割く必要があって、ダンジョンに潜らせるのと、村の警備とでどちらが危険か?それを天秤に掛けて、それくらいなら労力を出そうと判断されたのだろう。
おかげで隊長達を連れて行ける。
さすがにデカブツは大きすぎてダンジョンに入れないので連れては行けないが。
要請と言いつつ、実際には命令に違いないそれに反発心が芽生えなくも無いが、行く理由もあるし、拒む理由も無い。
久しぶりのダンジョン探索だ。
ほんの少し、心が躍った。




