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スケルトンの奴隷商  作者: ぎじえ・いり
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27/67

水路と新たな耕作地の開発

「それで閣下はこれからどうされるおつもりですか?」


その呼び方はやめろとルークに言ってから、答えた。


領地をもらった以上はやらなければならない義務がある。

特に税収の面はしっかりやる必要があった。


「普通の領主と変わらんさ。麦を育て、税を取り、村を大きくする。後は交易だな」

「それはスケルトンの売り買いですか?」

「それを普通の農民、商人が出来るなら、俺の商売が成り立たんよ」


村人にやらせるのは普通の交易を考えている。

とは言え、特に特産物も技術も無いのが現状である。

まずは麦を育て、の部分だ。


現在の農地は、最初の廃村で残された畑を再び使えるようにしたものだ。

村人達が入植してすぐに蒔いた夏麦の収穫は既に終えている。

税率は最初の年なので、低めにしてるにも関わらず、そのほとんどが俺の元に来た。


村人達は税の支払いの遅延を理由にこの村に送られてきていた。

つまりそれをこれで払う訳だ。


村人達が以前に滞納していた分をエイディアスに支払っても、かなりの量が残った。


今の所、金に換えたりはせずに、デカブツの封印倉庫の余剰スペースに放り込んでそのままだ。


冬麦が同じように実るとは限らない。

何しろ、この村に蓄えは何も無いのだ。

何かあった時に備えて、こちらでも備蓄しておいて損は無いはずだろう。


今の面積の畑ではいずれ休耕させた時に、飢える事にもなりかねない。

冬麦を蒔くまでにまだ時間はある。

それならば。


「策がある。前任は嫌がったが、お前はどうかな?」

「頭は柔らかい方ですよ。でなければ貴族と平民の間なんて半端な立場でやっていけないので」


朗らかに笑う目の奥に、しっかりとした意志を感じさせた。

何となくだが、コイツはやり手な気がする。


それで半端な身分のくせに、と貴族院あたりに疎まれてここへ寄越されたのではないだろうか?などと邪推した。


「良し。ならまずは面白いものを見せてやろう」


向かったのは、デカブツことヒュージスケルトンが封印してある小屋の前だった。


「でか!いや、これは大きいですね!」


久しぶりに魔力を注ぎ込み、呼び起こしたデカブツを見て、ルークがテンションを上げる。


デカブツには早速、村の外の一角を掘り起こさせた。

そして持って来ていたクワで線を引いていく。


それは今の畑を取り囲む。

線は今の畑よりもふた周りほど大きい。


「堀ですか?」


それを見ていたナーが問いかける。


「そういう面もあるが違う。これは水路だ。大きな農地を作りたいならそれに見合った量の水が必要だろう?」


村として発展を考えるならまず人を増やさなくてはならない。

そして人には食料が必要になる。

ならばより大きな農地が必要だろう。


「しかし、その水はどうされるのです?まさか」

「そう。川から引いてくる。ここから馬で半日の距離にあるだろう?」


それを聞いて、ルークは目を丸くした。






デカブツがどんどんと堀を掘っていく。

スケルトンと村の人間とで協力して、土を運び、水路へと変えていく。


水路の材料には封印小屋の脇に放置されていたガレキの山が使われた。

昼夜を問わずデカブツが掘り続けた結果、2週間を待たずに堀は川の近くまで到達する。


その頃には資材が足りなくなったので、デカブツに今度は岩を集めさせた。

水路を掘る、そんな大事業が恐るべき早さで進んで行く。

平行して村人が眠っている間にもスケルトン達に新たな耕作地を耕させた。


川に近づくにつれて、モンスターが増えていく。

平野に下りてくるモンスターに加えて、川から上がってくるモンスターも現れるようになるからだ。

姿を現した水棲の魔獣は隊長達やエキオン、俺が始末した。


あまりにもしょっちゅう襲われるので、処理がてらに有効活用出来ないか?と考え、村人達には内緒で肥料の試作を始めた。

倒したモンスターを、加熱し、デカブツにすりつぶさせて、単に肥料とだけ伝えて村人達に畑に蒔かせた。


スケルトンを作る時に死体から肉を取り除くために使う焼却魔法、インシネレイション。

手で触れた物しか燃やせないが、その火力はファイアーボールにも劣らない。

それをアレンジして加熱しているので、恐らく安全なはずだ。

衛生上、問題が無ければ、別に呪われたりはしないだろう。

これはルークにもナーにも秘密にしている。

エキオンから、合理的だとしてもどうかとは思うがな、とだけ言われた。


モンスターの襲撃は続いたが、問題なく開発は進んでいく

この世界で人が住める土地はあまりにも少ない。

それこそ平野だけだろう。


そして平野ですらどこでも人が住めるとは限らないのが現状だった。

山、森、川、海、そのいずれもがモンスター達の国土だ。

だからこそ数少ない人間が住める土地を巡って人同士でも争いが起こる。


ラグボーネはその典型だろう。

あの国は長い事、人口過多に悩まされている。

飢える人間が後を立たない。


それでカルヴァの領地を欲しがり、進攻してくる。

進攻には別の意味もあった。


人減らしだ。

人と人が争えば人が減る。

簡単な引き算だ。


ラグボーネが進攻を諦める訳が無く、この国との小競り合いが絶えないのはそういう事情だった。


モンスターに襲われない環境を整えれば、農地は増える。

農地が増えれば食料が増える。

食料が増えれば人も増える。


結局、モンスター対策と食料対策さえ何とかなれば、領地開発は簡単だとずっと思っていた。


モンスターを狩りとれるだけの戦力も、耕作地を広げる労働力もスケルトンの部隊を使えばこんなにも早い。

時間を掛けるからうまく行かなくなるのだ。


この地で奴隷商として商売を始めてからずっと、どうしてそれが分からないのかとずっと思ってきた。


「何だか色々な事が馬鹿らしくなる光景ですね」

「そうだな。考えていた事とはいえ、俺も実際に目にしてそう思った」


ルークと、あっという間に広がる畑を見ながら話す。


「普通、これだけの事業をやろうとすれば、相当な人死にが出ますよ。川に近づいた時点で水棲のモンスターが寄ってきますからね。デカブツが一撃でそれを沈めた時には笑ってしまいました」

「あれは痛快だったな」


水を一時的にためておく池も造り、水路の完成が大分終わりに近づいて来た時に、それは起こった。


凶悪な事で知られる水棲の肉食馬が陸へと上がって来た。

今まで村の周囲に現れたモンスターの中で、グレンデルを除けば最も危険なモンスターだった。


手練の冒険者が6人で当たっても、簡単に倒せる敵では無い。


それをたまたま近くにいたデカブツが叩き潰したのだ。

手にはエキオンが作ったツルハシ。


その一振りで片付いてしまった。

まるで虫でも叩き潰すような気軽さで。


あまりにも馬鹿馬鹿しい光景に、俺も周りにいた村人も笑い出した。

普通だったら、大混乱に陥っていただろう。


人が死に、死ねばそれだけ工期が遅れる。

遅れればまたモンスターに襲われ、やがては事業の存続自体が難しくなる。

それくらいの危険なモンスターが何の障害にもならなかったのだから、笑わずにはいられない。


「なぜこれを前任者が嫌ったのかが良く分かりませんね。いや、分かりはしますが、やらない方がおかしい」

「そうだな。それこそ実は土地が呪われるとでも思っていたのかもな」


一度、ノヴァクにも計画を話してはいた。


そういう事業には貴族院の了承が必要だ、そう言って結局は放置されたままだった。

実際の理由は実績を俺に上げられては困るという、その程度のものだったのだろう。


ルークが着任したあの日、ルークにその事を話すと、必ず了承を取ってくるから、そのまま水路を掘り進めていて構わないと言って、街に向かった。


そしてルークは言葉通りにあっという間に根回しをして、了承を取り、村へと戻ってきた。

それも水路の開発に時が掛からなかった理由だろう。






水路と広い農地の開発を始めてからふた月と掛からず、まさしくあっという間と言える期間で完成を迎えた。


デカブツがツルハシの一振りをすると、川と水路を隔てていた最後の土が吹き飛び、そして勢い良く水路に水が流れ出す。

それはあっという間に村へと到達した。


村では歓声が上がっていた。

大はしゃぎして水路に飛び込む者もいたようだ。

誰もが喜び、そして騒いだ。


水路の完成には農地に用いる他に別の利点も生まれた。


モンスターから逃れられるからか、結構な数の魚が水路の中に住み着いた。

魚は獲ってもまた川から入り込んで来るので、獲って2、3日もすればまた獲れた。


魚は食料になり、そして肥料にもなった。

これは思ってもみない事だった。


ただし、良い事ばかりではない。

水路を通って時折モンスターが現れるようになった。


大物は水路に入れないが、どうしても小物の侵入を防ぐのは難しい。

そのための警備にスケルトンを常に水路に配備する必要が生まれた。


村にいた8体のスケルトン、そして隊長達も畑の警備に手が離せなくなる。

さすがにデカブツを常駐させるのは貴族院から待ったが掛かったため、他のスケルトン達で何とかするしかない。


今では村から選抜した人間にスケルトンを任せ警備させている。

いずれ警備を担当させる村人を選出するつもりではあったので、都合が良いと言えば良かった。


ただし現状、スケルトンの数が全然足りていない。


タイミングの悪さは重なるものである。


エイディアスの街のビフロンスでもスケルトンの在庫が尽きていた。


水路を完成させ、畑の効率化をスケルトンによって成功させた事が徐々に広まり、さらにスケルトンの需要が増えたようだ。


とにもかくにもスケルトンの確保が急務となってしまった。

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