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スケルトンの奴隷商  作者: ぎじえ・いり
エイディアスの英雄
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種明かし

戦闘が終わると、まるで緊張が解かれたように何人かの騎乗する馬が崩れ落ちた。

積極的に動き回っていた馬が、まるで限界とでも言うように崩れ落ちていた。


筋を痛めたか、体力の限界だったか。

馬だけではないだろう。

俺も含めて、全員に凄まじい緊張と疲労が吹き出していた。


ナーも馬から下り、へたりこんでいた。


巨人に刺さったままの槍を回収にも行かない。

やれやれ。仕方無いな。


俺も座り込みたかったが、ナーの元へと歩いた。


「しっかりしろ」

「すみません。正直、アレはこの人数では無理だろうと思いました」

「ふん。信頼が無いな。俺は出来ないと思う事は引き受けない」


その言葉にナーが改めて俺の顔を見た。

まじまじと見つめた後、やがて笑い出した。

ナーが笑う所を初めて見た気がする。


「感服致しました。さすがです」


ナーは晴れやかな笑顔でそう言った。


馬が使い物にならなかったので、そのまま野営する事になった。


一番の脅威は始末したのだから、危険は少ないだろう。

ただ、気になる事もある。


ノヴァクの事だ。


どこへ消えたのかノヴァクの姿が無い。

それに、グレンデルを探しに出た3人の騎兵も戻って来なかった。


改めて考える。


ノヴァクの策はグレンデルに無謀な人数で挑ませての俺の戦死だったのだろうか?

なら、ノヴァクは何故そんな死地に付いて来たのか?


その点が腑に落ちないけれども、それくらいしか考えられない。

ただ、あの青ざめたノヴァクの顔が妙に印象的だった。


アイツはここにグレンデルが出るのを知らされていなかったようだ。

では、今回のこれは一体なんだったのか?


分からないまま、日付が変わり、そして朝日が昇った。

やはり何も起こらないまま、街へと戻った。






街に戻ると、すぐにエイディアス公に呼び出された。

そしてそこにはノヴァクがいた。

その表情は明らかに憔悴しきっていた。


「やあ。良くやったね。君ならやってくれると信じていたよ」


ノヴァクを取り押さえていたのは、消えた騎兵3人だった。


つまり、グレンデルを発見出来なかった騎兵は元からノヴァクの捕縛へとその任務を変更する手はずだったのか。


「やはり、コイツは私の暗殺を目論んでいたのですか?」

「そうだ。勿論、ここにいる彼だけでは無いよ。貴族院の何人かの有力貴族が企んでいたようだね。偽のグレンデル出現情報を用意して、そこに暗殺者と共に向かわせる。その上で、君を始末する計画だったらしい。途中で、暗殺者は全て始末して、グレンデルの情報も本物にすり替えさせてもらったが」


改めて、エイディアス公の力の大きさが見える話だった。


俺もノヴァクの書いた筋書きはそんな所だろうとは思っていた。


しかし、俺はそれが起こってからしか、対処のしようが無いと考えていたが、エイディアス公は未然に事を防いでしまった。


「しかし、ノヴァクは不審に思わなかったのですかね?周りの暗殺者が本物の精鋭にすり替わっていた事を?」

「それらしい演技をするように言っておいたからね。騎兵がグレンデルを探しに行き、戻って来た騎兵が伏兵20人を引き連れ、総勢50人で君に襲いかかる、そう考えていた彼の前にグレンデルが現れた時の顔は是非、私も見たかったものだ」


それを聞いて、思わず笑ってしまった。

エイディアス公も笑う。


「最高でしたよ」

「そうか。君が楽しんでくれたなら、それで良しとしよう」

「しかし、30人でグレンデル相手というのはちょっと厳しいと思いましたがね」

「そうかね?むしろそれくらいで無ければ君を英雄として祭り上げられないではないか。エイディアス領内ならともかく、カルヴァにはそれくらいの功績が無くてはね。誰もが英雄に、そして貴族になれると勘違いされては困る。見合った伝説が無ければね。それに君は成し遂げたではないか」


狸爺め。


それは俺を試しただけではないか。


ノヴァクの策として最初からグレンデルは出ないと高をくくっているならその程度、実際にグレンデルが出て来る可能性を考慮していながら倒せないならその程度、死んだら死んだで元々使う価値も無いという所か。


それで失敗するならその程度、軍を100人でも200人でも後から差し向けて、ワグナー将軍なり、甘ちゃんシードなりの手柄として、さらなる犠牲者を出したグレンデルを討伐した事にすれば良いと考えたのだろう。


「今日は疲れました。後の話は後ほどとさせて頂いても宜しいでしょうか?」

「ああ。勿論だとも。これで君は貴族になる。いや、この国の英雄になる。防衛戦の事は非公式にさせてもらったが、グレンデルを簡単に倒したという事実はカルヴァ本国にも大きな驚きを与えるはずだ。さらなる君の活躍を期待するよ」

「ありがとうございます。それでは失礼します」


愉快な事もあったが、正直腹に据えかねる事の方が大きい気がする。


正直言って、貴族にならずに済む方法も探していた。

適当に失敗をして興味を無くさせ、器では無かったとでも言えば良いかと考えていたのだ。


権力が手に入れば出来る事は増える。

それは今回の村の開発もそうだ。

スケルトンの能力、単に戦闘力だけでなく、事業や日々の生活の手伝いなど、奴隷としてのスケルトンのそれを最大限に周囲にアピール出来るチャンスでもあったし、自分自身がああいう光景を眺めるのも純粋に面白かった。


スケルトンを奴隷として認めさせるまでには、10年とは言わないまでも、それなりに時間が掛かった。

今回のそれはあっという間にその有効性を広められただろう。

何せ、動員したスケルトンの質と量が違うのだから。

そういう意味では今回の村の開発は大きなプラスになった。


しかし、権力を手に入れれば出来ない事も増える。

政治に関われ、なんて言われた日には最悪だ。

まだイスに座って時を過ごすだけの生活などしたくはない。


まだまだ試したい事はたくさんある。

それがままならなくなるのは避けたかった。


今回は見事にエイディアス公にしてやられた形になってしまった。


あそこで失敗したら、軍の精鋭30人が、さらに俺自身も死ぬ事になっただろう。

あれでは失敗のしようが無い。


元々、グレンデルは出ないだろうと思って、簡単にノヴァクの話に乗ったのに、それが見事に裏目に出た。


そんな俺の考えも読まれていたのだろうか?

あの貴族はグレンデル以上の化け物なのかもしれない。


権力を手に入れつつ、自身の思惑を実行に移す。

こうなってしまった以上、簡単ではないだろうが、そっちに進むしかないだろう。


都合の良い手駒にされないように、警戒を強めないとならないな。

邸を後にしつつ、そう思った。

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