デュラハン
戻ってすぐに、バンザイにマナポーションを出させる。
今回のコイツの役割は荷物持ちだ。
一応、完全武装させているけれども、肝心なのは背嚢に入ったアイテムである。
消費した魔力を戻しておく。
作戦はまだまだこれからだ。
一息ついていると、ゴキゲンが戻って来た。
がっくりと肩を落とし、首を下げる。
どうやら失敗したらしい。
まあ良いだろう。
糧食の処分はついでみたいなものだ。
しばらく野営地を覗いていると、完全にとは言えずとも、やがて騒ぎが収まる。
ゾンビが全て討ち取られたのだろう。
まあ、こんなものか。
それを眺めていると、エキオンと隊長が戻って来た。
その姿は血に濡れている。
「首尾は?」
「向こうに窪地があって、影になっている場所がある。そこに数が7」
「そうか。被害は?」
エキオンはやれやれと言うように首をかしげた。
「見た通りさ」
「一目で分からん。ちゃんと報告しろ」
「勿論無い」
「良し。それじゃあ移動するぞ」
窪地には馬の死体とそれに乗っていた兵の死体が転がっていた。
エキオン達に頼んだのは、潜入しやすくするために騒ぎを起こす事。
そして、出来れば騎兵を誘い出して、何人か死体を手に入れる事だった。
浅い突撃を繰り返し、被害を出してやると、やがてエキオン達の馬に対抗するために、向こうも騎兵を出して来たらしい。
それを引っぱり、この場所で始末したという事だった。
「全員で見張れ。万が一、ここに近づいて来る敵がいるようなら、エキオンと隊長で遠くに引っ張れ。残りは事態が急変するまで手を出さなくていい」
今度は適当に造る訳にはいかない。
魔法式を展開する。
腰に下げたリングから古鍵のひとつを手に取る。
さあ首無し騎士の登場だ。
ひとつ、またひとつと俺は死体に造られた魂を吹き込み、再構築して回った。
◇
野営地は大混乱に陥った。
騎乗したスケルトンソルジャーが2体現れ、幾度と突撃を仕掛けられる内に被害が増えていく。
それに焦れた小隊長のひとりが幾人かに命令を下し、騎兵を出した。
スケルトンソルジャーが去り、それでようやく騒ぎが収まるかに見えた頃、今度はゾンビ騒ぎである。
これにも少なからず被害が出た。
ラグボーネの兵達の間に今回の遠征は呪われているのではないか?そんな話が出始める。
見回りの数が増やされ、ようやく静かな夜が戻ろうか、そんな時に新たな脅威が現れた。
首無し馬にまたがった首無し騎士。
デュラハン。
滅多に見られるアンデッドではない。
モンスターの格で言うなら中級に分類される大物だ。
しかもそれが1体では無かった。
現れたのは何体ものデュラハン。
野営地の深くにまで突撃され、被害がどんどん拡大していく。
中には小隊長、中隊長クラスの人間にも被害が出た。
魔法使いが出て来て、1体ずつ集中して攻撃を重ね、ようやく全てのデュラハンを撃破した頃には日が昇ろうとしていた。
◇
高笑いしたくなるような光景だった。
例の林の中からデュラハンが思うままに蹂躙していく様を眺めていた。
正確には首のあるゾンビソルジャーとデュラハンの混成部隊だったけれども、それに気付いた人間は少ないだろう。
素体としてのレベルが足りずに、格下になってしまった者が出てしまった。
それでも目にした光景は十分に満足出来るものだった。
最終的には今回造ったアンデッドの依り代である古鍵は全て壊れた。
完全に討ち取られてしまったのがこれで分かる。
しかし、元はあいつらの死体で造った物。
こちらの損害はゼロに等しい。
ただひとつ、失ったのは俺の魔力だ。
途中、マナポーションで回復しつつデュラハン達を造ったが、疲労は少なくない。
マナポーションで魔力を回復させると、その効き目は段々と薄れてくる。
疲労し、思考はぼやけ、気力が抜け落ちてくる。
まだ、最後の仕事が残っている。
その前に回復しておく必要があった。
エキオン達に命じて見張らせ、敵が移動するまで眠る事にする。
浅い眠りの中で、首無し馬のいななきを聞いた気がした。
日が完全に昇り、ラグボーネ軍は準備を整えると、エイディアスに向かって出発した。
それを遠く離れた場所から観察する。
完全に敵軍の姿が遠くなってから、野営を行っていた場所へと近づいた。
そこには果たして、テントとして使われていた大きな布が小さな山に掛けられていた。
テントをめくると、その下にあったのは多数の死体だった。
戦場に死体を担いで向かう馬鹿はいない。
昨夜の被害者達だろう。
それを見て、俺はにやりと笑った。




