大凶
1月1日。
カーテンの隙間から漏れる光で目を覚ました。
スマホを見ると時刻は7時45分。
うんと伸びをして、欠伸をした。
少しだけ寝転んだままスマホを見て、ベッドから立ち上がる。
カーテンを開けて、部屋を出る。
軽く朝ごはんを食べて、歯磨きをする。ついでにシャワーも浴びる。
緑色の袴に着替えて、外に出た。
実は先程ベッドでスマホを見ていた時に、急遽神社に行かないかという誘いが来た。しかも全員着物か袴を着てとの事。
3人のグループで砥峰さんが言い始め、僕も国道さんもそれに同意した。
9時に大きな神社がある駅で集合となっている。
電車に乗る事10分。
駅の東出口を出ると、既に国道さんと砥峰さんがたって待っていた。
砥峰さんは着物姿だった。
赤い生地に白い花が描かれた華やかなもので、髪型もいつもと違って編み込んでいる。
ほんのり薄くメイクされた顔はいつもより更に磨きがかかっていて、通りがかる人皆の目を奪うような輝きだった。
国道さんは和風のロリータ着物というらしい。
白の鳥が描かれた裾が着物のようなトップスに、紺の丈の長いスカート。
髪の一部、左側が三つ編みになっている。
「芦遊君はいつもの髪型なんだね」
「せっかくだから、私が即興でだけどアレンジしてあげるよ」
砥峰さんが僕の方へ近づいてくる。
「別にしなくてもいいけど」
「だーめ。
1人だけいつも通りだと浮いちゃうよ。
国道さんもそう思うよね?」
「うん。
ボクも変えた方がいいと思うなぁ」
砥峰さんが僕の髪を下ろし、慣れた手つきで髪を結んでいく。
どうやら頭の後ろで結び、髪を三つ編みにしたようだ。
「これで3人とも三つ編みアレンジ、だね」
砥峰さんは満足したように微笑むと、神社がある方へ歩き出した。
僕も国道さんもそれに続く。
神社に近づく程人が増え、出店も増える。
まずは先に参拝しようと拝殿へ向かった。
お賽銭に500円玉を入れ、手を合わせた。
目を閉じて、願ったのは……感謝。それと小さな愚痴だった。ちゃんとお願い事も忘れずに。
お焚き上げに去年のおみくじなどを入れ、火にあたる。
そしておみくじやお守りを売っている所へ。
「こういうの聞いちゃダメって分かってるんだけど、皆は何を願ったのかなって」
「私は……そうだな、強いて言うなら感謝かな」
「僕も似たようなものだよ」
「そっか、そうだよね」
おみくじを引くために並ぶ。
去年はよく分からない事が書いてあったが、今年はどうなのだろうか。
「せーので開こう。
せーのっ」
砥峰さんの合図でおみくじを開いた。
運勢は───『大凶』。
去年とは正反対だった。
書いてあるのは、だんだんと良くない方へゆくって。
それを回避するためには人に頼れ、と。
「なんて書いてあったの?
あ、ごめん。見られたくなかった?」
国道さんが覗いてきて、咄嗟におみくじを閉じてしまった。
何故だろう。
これは誰にも見せたくないと思った。
「ご、ごめん。
僕のはあんまり良くなくて」
「……そんなに悪かったんだ。
まぁ、私も似たようなものかな」
悪いおみくじは上の方に結んだ方が良い、とか聞いた事がある。
正式にはそういうのは無いらしいが、一番上に結んだ。
砥峰さんがその隣に結ぶ。
そして砥峰さんと目が合った。
「実はね、私も大凶だったの」
彼女は僕にしか聞こえないような小さな声で言った。
出店の方へ行き、唐揚げやたい焼き、ベビーカステラ。
食べたい物を食べて、分け合って。
そういえば、幼い頃よく家族で神社に来てはこうして食べたい物を食べて、分け合っていたな。
「たくさん食べたね」
「あーあ、正月過ぎたら運動しなきゃなあ」
「だね。
………この後どうする?」
神社を出た僕達は、道の端に止まった。
「実は私昼から予定があって」
「ボクも、家族と神社に来ようって言ってるから」
「ならここで、解散する?」
「私は電車で帰るよ。
国道さんは?」
「んーボクはここに残っていようかな。
昼まであと少しだし」
「じゃあ、またね」
「うん、また!」
駅へ向かう途中、砥峰さんが口を開いた。
「芦遊君さぁ、明日私の事連れ去ってくれない?」
「……え?」
彼女は前を向いたまま、表情を変えず言った。
「どこか遠く。
国道さんが一緒でもいいから。
予定が無いなら……無理かな?」
つぶらな青い瞳が僕を捉える。
「……分かった。
行こう、明日。遠くへ」
電車に揺られて駅に着いて別れる時まで、僕も彼女も黙っていた。
「明日、よろしくね」
「うん。
じゃあ、また明日」
どうして僕は砥峰さんの話を了承したのか。
何故砥峰さんは遠くへ行こうと提案してきたのか。
何も分からないまま帰宅した。




