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買い物

11月17日月曜日。

文化祭が終わって落ち着きを取り戻したかと思えば、テストが近づいて来て皆が(だる)そうに勉強する中。

自習のこの時間は先生が居るものの、こそこそと小さな声で話している声が聞こえる。

僕の左隣、窓際の一番後ろの席に座る砥峰さんはどこか憂い気な表情で窓の外を見ていた。

不覚にもそれを見て、絵になるなと思ってしまった。

今までなんとも思ってなかったのに、ほんの一瞬だけ見惚れてしまったのだ。

こちらを向きそうな所で机に視線を戻し、再び勉強を始めた。


放課後の事だった。

今日は栞太がバイトの為、僕1人で買い物をしていた時の事。

ばったりと、またいつかのように砥峰さんと出会ってしまった。


「やぁ、またまた奇遇だね」


「そうだね。

芦遊君ってここの近くに住んでるの?」


同じような言葉を違う誰か、国道さんから問われたのを思い出す。


「ううん。

僕は北の山の方。

砥峰さんはこの辺?」


「うん。

この辺りで一人暮らししてて」


「僕も一人暮らししてるんだ。

まさか同じ境遇だったとは」


「そうだね。

高校生で一人暮らししてる人ってあんまり居ないし」


無言になった。

互いに私服姿で会うのは初めてだった。

前は制服のまま隣町に遊びに来ていたから。

白のニットのセーターに、グレーのスカート。ピンクのコートに、黒のタイツに茶色のブーツ。

暖かそうで、髪型も普段と違いお団子にしていて、メイクもしてあるので余計に美人に拍車をかけていた。

普段と違う甘い香りもした。

僕はと言えば、髪型は変わらず、シンプルに赤のトレーナーに黒のパンツ。カーキのロングコートを羽織っている。

華やかな印象の彼女とは正反対だ。


「その服似合ってるね」


「……そう?

あり、がと」


褒められ慣れてないのか、目を逸らした。

ほんのり頬も赤く見える。


「あ、そうだ。

私この後本屋さんに行くんだけど」


「僕も行こうと思ってた」


「……なら、一緒に行く?

別れてまた会っても気まずいし」


「だね」


彼女と他愛ない話をした。

好きな芸能人はとか、好きな歌はとか。

話しててあぁこの()も普通の女の子だと実感した。

それは当たり前の事なんだけど、いつも遠巻きに見てる事しかしてなかったから。


「着いた。

私は雑誌のコーナー見るけど芦遊君は?」


「僕は小説のコーナーを見ようかなって」


「多分、私の方が先に終わると思うからそこで待ってて」


「う、うん」


まさかそんな事を言われるとは思ってもみなかったので、少し驚いた。

てっきりここで解散するものと思っていたから。


5分程して彼女がやって来た。


「お待たせ」


「そんなに急がなくても良かったのに」


「あらかじめ買うものは決めてたから。

でも、あれもこれも目移りしちゃって」


「分かる。

買う物決めてても、いざ実際に見ると欲しい物増えちゃうよね」


そんな感じで意気投合して、なんだか流れで一緒に有名なコーヒーチェーン店まで来てしまった。

彼女はカフェラテを、僕は抹茶ラテを頼み、飲み物片手にショッピングモールを後にした。


「寒い。

ここからだんだん冬になっていくんだもんね」


「だね。

けど、飲み物が温かいからそれが救い」


「うん。

あ、駅まで送るよ」


「いいよ。

日も暮れてきたし、女の子は早く帰らないと。

僕が送るから」


彼女は頑なに首を横に振る。


「ううん、いいの。

今日楽しかったから、送らせて?

お礼、みたいな感じで受け取って欲しい」


「お礼って……僕は逆に1人のショッピングを邪魔してしまったんじゃないかって」


「ふふふ、そんな風に考えてたんだ。

そういう気遣い出来るとこ、ほんといいね」


彼女は目を細めて、潤んだ瞳でこっちを見た。


「さて、行こうか」


先を歩く彼女に続いて僕も並んで歩き始めた。


歩きながら話して、話題は普段の学校の話になった。


「これ、芦遊君だからこそ言えるというか、分かってもらえるって勝手に期待しちゃってるんだけど。

私、皆からモテる……じゃん?

普通に接しただけなのに、勘違いされて好意を持たれるとかそういうの多くて。

……こういう話も、友達相手だと嫌味とか自慢に聞こえちゃうから、真剣に聞いてくれる人も居なくて」


「うん。

僕もそういうのあるよ」


「そういう時、芦遊君はどうしてる?」


「ん〜……気づかないフリをしたり、それとなく流して済ませてるよ。

最初の頃は真剣に悩んでたけど、そうしてたら自分の心が疲れちゃうから。

他人に振り回されすぎちゃうのも、良くないなって。

こんな事言うと、冷たい奴って思うかもだけど」


「そんな事ない。

……そっか、そんな考え方もあるんだね」


駅前に着いた。

そして、彼女はこう言った。


「良かった、芦遊君が()()()しない人で」


そう、僕自身も感じていた事。

照れて頬を染めたのも、目を潤ませて微笑んだのも、彼女の自然な仕草に過ぎない。

僕も普通に話してるだけなのに、女の子から勘違いされるからよく分かる。

振り返って僕も、微笑んでこう言った。


「僕も、砥峰さんが勘違いしない人で安心してる」


「私達、これからもこういう軽い関係でいようね」


「こちらこそ」


連絡先は交換せず、あくまでクラスライムでどのアカウントかは互いに把握していながら、何もしない。

ただの知り合いとして。


***


12月23日火曜日。

この日は放課後国道さんと遊ぶ約束をしていた。

一旦着替える為に帰り、準備をして待ち合わせ場所へ向かった。


「ごめん、待った?」


「ふふ、待ってないよ」


国道さんはなんだか嬉しそうに笑った。

緑のタートルネックに、ブラウンのパンツ。白のロングコートに赤のマフラー。

当然ながら私服も中性的なんだと思った。


「今日は、ほら……クリスマスイブイブって言うでしょ?」


「イブイブ?」


「そう。

23日、イブの前だからイブイブ」


そんなの初耳だった。

世の中何があるか分からないものだ。


「だから、それっぽい事したいなって。

ダメ、かな?」


「ううん、全然構わないよ。

誘ってくれて嬉しかったし」


ぱあっと顔を明るくすると、僕の手首を掴んで引っ張った。


「じゃあ、まずはね───」


クリスマスの飾り付けされた道や店。

大きなツリーに、そこかしこに彩られたイルミネーション。

僕達が立ち寄ったのは、まさにクリスマスのグッズがずらっと並んだ雑貨屋さんだった。

ココアやマシュマロ、チョコレート。

コップ、蝋燭、マフラー。

クリスマス以外は普段何を売ってるのだろうと考えながら、国道さんについていく。


「ここのお店お洒落で好きなんだ」


「落ち着いた雰囲気で良いね」


「でしょ!?

ここで買い物したいなぁってずーっと思ってて」


「憧れ?」


「うん」


国道さんは買い物かごに食べ物やマグカップなどを入れていく。

僕も何かそれらしい物を買おうかと辺りを見回す。

目に入ったのは、中に可愛らしいサンタとツリーが入ったスノードームだった。

手のひらに収まる小さなサイズで、値段は550円。


「わぁ、それ可愛いね。

スノードームかぁ……ん〜悩む」


「こんな事聞くのはあれだけど……もしかして家族でクリスマスパーティーとかするの?」


「バレちゃったか。

こんな歳なのに未だに親とクリスマスパーティーとか恥ずかしくて。

で、でも嫌とかじゃないんだよ!

ただ人に言うのが恥ずかしいだけで……」


「ごめん。

……でも家族とクリスマスパーティーなんて素敵じゃないか」


「えへへ……毎年プレゼントを交換し合ったり、日々の感謝を告げるいい日だなって。

好きなんだクリスマス」


国道さんの家庭はきっと温かいのだろう。

それはなんて羨ましくて、柔い光なのにこんなに眩しく見えるのか不思議でならなかった。


「芦遊君はクリスマス何かしないの?

ほら、例えば友達とか。

特に駒川君とかと」


「あー、どうだろう。

最近栞太……用事があるって言ってるから、放課後遊ぶ回数減ってて」


用事がある、というのは本当だ。

最近彼女が出来たらしく、内心驚いたのだがなんだかんだ上手くいっているらしい。

誰にも言うな、と言われた為国道さんに言う訳にもいかない。

どうやら他校の、女子校に通う1年生だそうだ。


「そっか。

……ん〜スノードームは予算的に無理そうかな。

来年買おうっと」


「……そうしなよ」


僕はこっそりスノードームを手に取り、国道さんに気づかれない事を願ってレジへ並んだ。


晩御飯は近くのファミレスにした。

僕はハンバーグで、国道さんはオムライス。


「美味しい〜」


「お腹空いてたから余計に美味しく感じるよね」


そして食べ終わると国道さんが僕にプレゼントという事で紙袋を渡してきた。


「本当にいいの?」


「うん。

今日遊んでくれたし、何よりこういうの友達……としてみたかったから」


「開けてもいい?」


「うん!」


中をそっと開けると、紺色のマフラーだった。


「生地も良いし、暖かそう。

ありがとう、外出たら早速つけてもいい?」


「………!

うん、ぜひそうして」


僕は小さな紙袋を国道さんに渡す。


「え、ぼ、ボクに?」


「うん。

実は僕も用意してて」


「………っ!!

本当にありがとう」


「開けてみて」


国道さんは丁寧に開けると、中から出てきたのはチョコレートと雪だるまのぬいぐるみだ。


「〜〜~っ!!」


言葉にならない声を出して、ぎゅっとチョコレートと雪だるまを抱きしめた。


「あんまりするとチョコ溶けちゃうよ」


「あはは、そうだね。

でも……すごく嬉しい!」


「雪だるまのぬいぐるみ羨ましそうに見てたから」


「気づいてくれてたんだ。

……本当に嬉しいな」


ファミレスを出ると、空は完全に真っ暗でちらほら雪が降ってきた。


「この辺りで雪って珍しいよね」


「うん。

すごく綺麗」


歩いて駅に行き、電車に乗る。


「どうしよう……ボクこんなに幸せで大丈夫かな。

だ、大丈夫だよね??」


「大袈裟だって。

大丈夫だから」


国道さんはそわそわしながら、うんと頷いた。

電車を降りて乗り換えへ。

国道さんは南、僕は北へ。


「今日はほんっっとうにありがとう!

ちょっと早いけどメリークリスマス」


「こちらこそありがとう。

メリークリスマス」


家に帰り、誰も居ない部屋の明かりをつける。

コートを掛けて、鞄を床へ。

袋から、今日買ったあのスノードームを窓際に置いた。

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