偶然
9月18日木曜日。
放課後隣町のショッピングモールで栞太と遊んでいた僕は、たまたま入口で砥峰さんとその友達の伊丹 りりと出会った。
「こんな所で奇遇だね」
「そうだね。
2人は今からここに?」
「うん。
芦遊君達は今からどこか行くの?」
「俺らはそこら辺でもぷら〜っと歩こうかなって」
「わは〜壱器。
学校一のイケメンとクズかわイケメンと知り合いだったなんてー。
言ってくれれば良かったのに」
伊丹りり。
ストロベリーブロンドの髪を2つに分けて結び、薄くメイクをしたいつも砥峰さんと一緒に居る女子。
ちょっと変わった性格で、周りからは重度のオタクと言われている。
「おい、誰がクズや。
そういうお前こそクズとちゃう?
よく言うやろ、クズって言う方がクズやって」
「キャハ〜クズかわイケメンにクズって言われちゃった☆
これはこれで……フフフ、ありよりのありなのかもしれない」
「え、何キモ……」
あの栞太が引いている。
いつも無理矢理にでも相手を言い負かしてしている栞太が、言葉を失う光景はかなり珍しいと思った。
「キモくて結構。
んじゃ、うちらこの後映画観たりショッピングで忙しいので〜。
行こ、壱器」
「2人共、じゃあね」
「うん、楽しんで」
手を軽く振り、栞太の方を見ると何か言いたげな目をしていた。
「どうしたの?」
「いやぁ、砥峰さんに気に入られてるように見えて」
「そうかな?
いつもあんな感じだと思うけど……と言ってもあんまり話さないから、客観的に見てとしか言えないけど」
「あの手の女は見とったら分かる。
普段他の奴に気ぃ許してへんもん。
伊丹とかいう女には許してるっぽいけど、なんか他の奴らには上辺〜みたいな」
「ほんとよく見てるね」
「女は嫌いやからな。
あ、やからと言って男に恋愛感情あるとかじゃないで」
「分かってるって」
なんて話しながら階段を下りて行った。
***
10月19日日曜日。
昼過ぎ、川沿いを散歩していた時の事だった。
「芦遊君!?
こんな所で会うなんて偶然だね」
声をかけてきたのは国道さんだった。
「国道さんもここで散歩?」
「うん。
ボク、学校近くに住んでるからさ」
今歩いているのは学校近くを流れる、この町と隣町を分断するようにある大きな川沿いだ。
僕の家は北の方にあるのだが、そこからここの南の方まで流れているのだ。
「という事は芦遊君も家この辺?」
「ううん。
僕は北の方、山の近くに住んでるから」
「え、まさかそこから歩いて来たの?
まぁまぁ距離あるよね」
「帰りは電車で帰ろうと思ってるから」
沈黙が流れる。
すると躊躇いがちに国道さんが口を開いた。
「あ、あのさ……嫌じゃなかったらだけど、一緒に散歩しない?」
「いいけど……どこに行く?
僕は南の方へ歩いて来たけど、国道さんは北の方へ歩いていたよね」
「うん。
だから、一旦川沿いを離れて隣町の南の方を歩かない?」
「いいよ。
あんまり行ったことないしね」
僕達が歩いていたのは隣町側の川沿い。
その道から逸れると、住宅街が広がっていた。
「芦遊君って散歩好きなの?」
「ん〜、そうだね。好きだよ。
歩いて景色見るのとか、風を感じるのとか好きだし」
「ちょうどこの季節だと風、気持ちいいよね」
涼し気な風が吹き抜け、髪を揺らした。
「芦遊君髪長いけど、綺麗だよね。
何か良い物使ってたりするの?」
「言われてみれば……シャンプーとかリンス高いの使ってるかも。
昔から良い物を使いなさいってお母さんに言われてたから」
「芦遊君ってお金持ちだったよね。
ボクは普通の家庭だから、そんないい物はあんまり使えなくて」
それに対して「普通の方が案外良いかもよ」という言葉を返そうかと思ったが、すぐに飲み込んだ。
相手も何気なく、恐らく選んで返した言葉だろうし、余計な事は言わない方が吉だ。
「ちなみにどこのシャンプー使ってるの?」
妙に目をキラキラさせて、ふんすと言い出しそうな勢いで聞いてきた。
思わず、その姿に笑ってしまう。
「ごめん、急に笑って。
あまりにも子供みたいだったから」
「むー、誰だって気になる物はあるよ」
「そうだね、僕が使ってるのは───」
なんて話しながら歩いて、気がつけば夕方になっていた。
暗くなる前に帰ろうと駅へ向かう。
「今日は楽しかった。
またこうして散歩出来たら嬉しいな」
「うん、僕も楽しかったよ」
「あ、あのね………れ、連絡先とか、交換してもいいかな?
ほ、ほら……今日みたいに偶然会える訳じゃないでしょ?」
「……全然いいよ。
連絡先聞かれるの嫌じゃないし」
「よ、良かった……人によっては聞かれるの嫌だし、僕とあんまり話した事ないのに変じゃないかと思って……」
「そんなに気にしなくて大丈夫だよ。
………これで、交換出来たね」
国道さんは今日一番に、顔を輝かせにこっと笑った。
「気をつけて帰ってね」
「国道さんも、気をつけてね」




