出会い
入学して早々、僕と彼女───砥峰 壱器、そして国道 羽葉は一躍有名人になった。
自分の容姿を客観的に見ると、切れ長の赤い瞳。筋の通った鼻にいつも弧を描いている唇。
長い黒髪は頭の後ろで結んでいる。
皆僕の事をイケメン、と言う。
声も低すぎず少し高いのが良いらしく、背も高い方、勉強も運動も得意だからか女性からは黄色い眼差しを。男性からは嫉妬の眼差しを向けられる。
そして先日、不良っぽい男子数人に絡まれ、武道を習っていた僕はそれを軽々と回避。
相手を上手く誘導する事で、こちらが一切手を出さずに勝手に相手が相手を殴って倒れ、解決した。
そんな事があったからか、余計に目立ってしまう。
砥峰 壱器。
ぱっちりとした少しつり上がった青い瞳に、整った鼻梁。きゅっと結ばれた桜色の唇。長いまつ毛にほんのり赤く染った頬。
薄い茶色の髪は長く、絹のようにさらさらしている。
豊かなラインに、細い腰、程よい太さに伸びた脚。
小柄で華奢。スタイルの良い彼女は言わば美少女だ。
文武両道で、誰にでも優しく、声も愛らしい。出来ない事は無いと言われる程完璧な彼女は、男女問わず羨望の眼差しを向けられていた。
おまけにお金持ちで、独自の武道を習っているとの噂も。
見た目も心も天使な存在が、この地に舞い降りたようだと誰もが言った。
そんな彼女なのだから、人気にならない訳が無かった。
国道 羽葉。
おっとりとした黄色の瞳に、中性的な顔立ち。
胸も膨らんでいるのか分からず、制服も上は女子が着用しているリボンを付けているが、下は男子と同じズボンを履いている。
声も女性とも声の高い男性とも取れる声。
身長も165cm。
そう、彼女……もしくは彼は中性的で性別が不明なのだ。
ここでは僕はあえて『彼』と言おう。
彼自身が自己紹介で、自分の事は女性としてでも、男性としてでも、好きなように解釈して接して欲しいと言ったのだ。
評価は賛否両論だった。
可愛いから、見た目は良いから別に気にならない。
話してみたけど別に普通にだった。
気持ち悪い。
なんでアイツだけ制服ごちゃごちゃで、許される訳?
理解できない。
そういう訳で僕達3人はクラスで、学年で瞬く間に噂が広がり、学校でちょっとした有名人になった。
だからと言って、同じような境遇の彼女と彼と一緒に話す事は無かった。
***
5月9日金曜日。
放課後、担任の先生である空野先生の前を通りがかった時の事だった。
「ちょうどいい、お前らこのノートを職員室に持って来てくれ」
「いい……ですけど、係の人は?」
「それが、あいつら揃いも揃って忘れたのか消えてしまってな」
空野 黎先生。
20代前半の、少し変わった女性の先生。
黒髪は長くいつもポニーテールにしている。
服装は主にズボンを履いており、割とシンプルな服装をしている。
「私も用事もないですし、良いですよ」
「さんきゅー!
じゃあ、よろしく〜」
そう言うと先生は教室を出て行った。
「…………」
「…………」
今まで互いの存在は知っていても、話した事なんて一度も無かった。
僕は気にせず彼女、砥峰さんに声をかけた。
「半分持って行くよ。
持てる?」
「う、うん。
ありがとう」
「別に僕も頼まれてるし」
「そうじゃなくて、気遣ってくれて。
噂通り優しいんだね」
砥峰さんは軽く微笑むと、先に教室を後にした。
***
6月12日木曜日。
突然だが僕には親友が居る。
駒川 栞太。
二重の大きな紫色の瞳。中性的で可愛らしい顔立ちと、一部の女子からは人気である。
ボブより少し短く、はねっ毛のあるように固めた髪。
髪の色は、上の方は黒いが下の方はグラデーションで青く染まっている。
制服も大きく着崩し、入学式の時もちゃんとブレザーを着るのが嫌でわざと遅れた程のオシャレ好き。
学校指定のワイシャツの下には、私服の好きなTシャツを着ており、上着にはお気に入りのパーカーを羽織っている。
ちなみにズボンはちゃんと制服の、薄青いズボンを履いている。
耳にピアス、首にチョーカー、メイクにネイルと流石に着崩しすぎだと注意されているが、無視しているらしい。
授業を遅れたり、サボるのも日常。
関西弁で、キツい態度は人を選ぶ。
そんな正反対な彼と出会いは良くなかった。
───けど、色々あって彼とは一転仲良くなった。
そんな彼は今、移動教室の途中、僕の隣でこう言った。
「俺、絶対いつかホストになって女からじゃんじゃん金を巻き上げる!
そんで金持ちになって、ぜっったい幸せになったる!」
「はは、その夢叶うといいね」
「……お前はそれでええんかよ。
偽善者なんやから、そういうのはやめとけって言うとこちゃうん?
まぁ、反論されるよりマシやけど」
「ん〜、女の子も好きで使ってるのならいいんじゃないかな。
無理に巻き上げるとかは、どうかと思うけど」
「流石、心が広いことで。
ま、そういうとこが好感持てるねんけどな」
歩いていると、窓の外を見つめる国道さんが居た。
「噂のジェンレスちゃんや」
「ジェンレスちゃん?」
「ジェンダーレスの略。
俺が勝手にそう呼んどるだけや」
国道さんは僕と目が合うと、微笑んだ。
こちらに歩いてくると、どうしたの?と声をかけてきた。
「窓の外を見てるからどうしたのかなって」
「あぁ、綺麗な白い鳥が飛んでたから思わず魅入っちゃって」
「そうなんだ」
「…………」
すると、少し不機嫌そうな栞太が口を開いた。
「ところで、ジェンレスちゃん男が好きなん?それとも女が好きなん?
どっち?」
流石に僕もそれは……と話に割って入ろうとしたが、その前に国道さんが口を開いた。
「僕は好きになった人が好きだよ。
だから性別なんて関係ないかな」
栞太は口をぽかーんと開き、へぇー……と消え入りそうな声をしていた。
「へ、へぇ……思ったよりはっきりモノ言えんのなぁ」
「別にこれくらい気にしてないよ。
日常茶飯事だから……。
それより早く行かないと遅れちゃうよ?」
これが初めて砥峰さんと国道さんと話した日の記録。




