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双子

1月3日午前9時。

目が覚めた僕はスマホを見る。

目に入ったのは最近推してるアイドルのMV(ミュージックビデオ)

屋敷(やしき) 果凛(かりん)

同い年でありながら、歌唱力、ダンスのパフォーマンスがトップレベル。

紫のウェーブがかった長い髪。ぱっちりとした藍色の瞳。出るとこは出て、すらっとした体躯。

レインボーというグループに所属しており、そのセンターで今注目のアイドルだ。

普段ならアイドルなんて興味無いのだが、深夜たまたま起きてテレビを見ていたら彼女のMVが流れていた。

一目惚れだった。

見た目もそうだが、何より努力と才能に溢れた彼女のパフォーマンスに輝く何かを見出した。

彼女の事をもっと知りたい、と気がつけばCDを買っていた。

いつか生でライブを見れたらとひそかに夢を抱いている。


その後、SNSを見たりゴロゴロしてからようやくベッドから起き上がった。

伸びをして、テレビで適当に番組を流しながら洗面所へ向かう。

顔を洗って、歯を磨く。そして髪を纏めて、軽くシャワーを浴びた。

タオルで拭いて、着替えるとまたスマホを見た。


「よし、やるか」


スマホの再生リストから曲をかける。

その間にゴミを捨てたり、食器を洗ったり、洗濯物を回したり。湯船の栓を抜いたりと家事をこなしていく。

一通り終わるとふぅ、と息を吐いてリビングのソファに座った。


昼前なので、昼ご飯を作るか買おうと思うのだがどうしたものか。

正月らしく餅を食べよう。

不安なので一応スマホで確認しながら、雑煮を作っていく。

一人暮らししてからというもの、料理をする事が増えた。

実家に居た時はたまに母が教えてくれたりしたが、基本的にメイドである日夏がやってくれていたので、あまり料理するという事が無かった。後は授業で調理実習した時とか。


「よし、出来た」


見た目はいい感じに仕上がった。

問題は味だ。


「ふーふー………うん、美味しい」


お餅と出汁がいい感じに合わさって、温かい気持ちになる。

人参やほうれん草も相まって、飽きることなく美味しくいただけた。


「ごちそうさまでした」


シンクに食べ終わった食器を置き、それからは勉強とか読書をしていた。

そうして時間は14時半。

このまま家に居てもいいが、外に出て身体を動かしたい気持ちもあったので、斜めがけの鞄を持って、コートを羽織った。


「あ」


「うわ、びっくりした。

どうしたの?連絡も無しに来て」


扉を開けて目の前に居たのは、双子の姉の悠里(ゆうり)だった。

見た目は一卵性の為、そっくりだ。

髪は同じ黒で、長くいつも下ろしている。

ほとんど似ている僕達だけど、違う所はある。

それは瞳の色。僕は赤いけど、悠里は紫色。

体つきだって男と女だから当然違う。

程よく膨らんだ胸、すらっとした細身の体型。

身長は僕と似て高く、女性としては高い167cm。

あと違うとなれば、性格は正反対だと思う。

僕は色んな人と関わったり話す事が多いが、悠里は基本一人で、交友関係が狭い代わりに深い関わりのように見える。

悠里は実家に、僕は一人暮らしと今は別々に暮らしている。


「ん、特に用は無いんだけどどうしてるかなって。

正月帰らないって聞いてたから」


「様子見に来てくれたんだ。

ありがとう。

僕は元気でやってるよ。

悠里は?」


「うん。私も元気でやってる。

元気そうでよかった。

あと、これ。

母さんから」


渡された袋には、食料品やハンカチ、その他諸々が入っていた。

あと、両親や親戚からのお年玉も。


「ありがとう。

そうだ、僕今から出かけるんだけど一緒にどう?

行先を決めてる訳じゃないんだけど」


「いいよ。

それ、置いてきな」


「うん」


冷蔵庫に入れるものだけを早急に入れ、後は机の上に置いておいた。


***


「なんだかんだちゃんと話すのは久しぶりだね」


「そうだね。

学校ではクラス違うし、交流もほとんど無いしね」


僕は普通のクラスだが、悠里は特進クラス。

なのでそもそも一緒になる事が無い。

たまに悠里の噂を耳にする事はあるけれど。


「海でも行こっか」


「いいけど、遠いよ?

電車乗ろ」


駅に向かって歩く。

昔から悠里とはこんな感じだ。

特に話す事はなく、僕が一方的に話しかけて、それに返事をするだけ。

悠里から話しかけられる事はもちろんあるけれど、僕からの方がきっと多い。

正直、悠里は何を考えているのか分からない所がある。

今の環境についてどう思ってるのか、とか。

あの家に居て窮屈な思いをしているんじゃないかって。

まぁ、一人暮らしをして実質あの家から逃げるように離れたような僕が言える事じゃないけど。

誤解の無いように言うと、別に両親は僕の事が嫌になって一人暮らしを勧めたんじゃない。

僕も両親の事は嫌いじゃない。


駅や電車内にはそれなりに人がいた。

なんとか座る事ができた。

窓の外の景色は当然ながら見慣れたもので、緑が多い景色から街へ変わって、海がある工場が多い埋立地に辿り着く。

駅から少し歩いた最果てに海がある。


手前の方の手すりにもたれて、海を見る。

風が吹いて、冷たくて寒い。

波も少しだけ荒れているようだった。

空は明るい灰色で覆われている。


「家でどう?

ちゃんとやれてる?」


「うん、やれてるよ。

相変わらず期待が重い時があるけど、なんとかやってる。

しんどくは無いから大丈夫」


「そっか」


この海の先には一体何があるのだろうか。

ずっとずーっと行った先は海外なのか、はたまた国内のどこかなのか。

調べてしまえば答えは簡単に見つかる。

でも、そんなつまらない夢の無い事なんてしたくなかった。

あくまで想像で楽しむぐらいがよくて、ただ夢を見ていたいだけで。


「……そういえば悠里って人に囲まれて苦労とかしてないの?」


「何それ、嫌味?

……ていうのは冗談でそんな事無いよ。

まぁ、休み時間に人は集まってはくるけど。

朱里程じゃないよ」


悠里の落ち着いた、女性にしては低めの声が響く。


「同じ顔をした双子なのに、変なの」


「同じ顔でも、()()同じではないでしょ。

朱里もまつ毛長いけど、私の方が量も多くて長いし。

誰かさんみたいにずっと笑ってないし。

何より、あの砥峰 壱器って()が居るじゃん。

あの子に比べたらそりゃ劣るよ」


客観的に見れば、系統は違うが同じぐらい顔は整っていると思う。

でも、悠里は目立つ事をあまり好まない。

そして、話したくない人とは関わろうとしない為、誰にでも優しい砥峰さんに比べれば壁を感じやすい。

そういった様々な要因が重なって、今の状況になっているのだろう。


「今日会えて良かった」


「うん、僕もそう思うよ」


悠里は海に背を向け、空を見上げる。

雲の隙間から、淡い水色の空が見えていた。

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