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そしてB型の世界は始まる  作者: ぞっぴー
そしてB型の部活動は始まる
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88.狙撃手の決着

 美月は手応えを確かめるように右手を掲げた。森がそれに呼応するようにざわめく。

 枝葉を縫う風はヒュウ、ヒュウと鳴り、まるで勝者を祝福するように吹きすさぶ。


「私は……鬼怒川君みたいに相手の動きを見てから反応できるタイプじゃない。だから読むの。場を、思考を……」


 その言葉は自らを鼓舞するようでもあり、確信の宣言でもあった。

 美月が積み重ねてきたもの――それは兄を倒すため、格闘ゲームの中で磨き抜いた()()の技術。

 戦場の空気が一瞬、静まる。彼女は深く息を吐いた。


「あなたが鬼怒川君を罠に掛けようとした、その瞬間に読み合いは始まったのよ」


 この勝利は全て噛み合った結果だった。敵が待ち伏せではなくヒットアンドアウェイに徹していたら結果は分からなかった。こちらの防衛線はいずれ崩壊していたかもしれない。

 だがそれを阻んだのは鉄将の存在だ。いつカウンターを貰ってもおかしくない。

 そう思わせたことでこの結果が生まれたのだ。

 彼の支えがあってこそ、美月は読みの一手を打てた。

 美月は淡々と続ける。


「そして私を戦力外と見なした、その時点であなたの敗北は決まったのよ」


 美月の声は静かだった。

 けれどその響きには昂ぶる熱が滲んでいた。

 言葉は誰に向けたものでもない。自分自身を陶酔させるように、美月の胸は高鳴っていた。

 読み通りに進む展開が脳を痺れさせる。

 兄との戦いで勝利を掴んだあの瞬間と酷似した感覚――。

 その震えを見て、鉄将は思わず顔を引き攣らせた。


「……やった、のか?」


 鉄将が気づいた時にはすでに勝負は決していた。

 音を頼りに振り返ると、そこには構えを解いた美月。

 彼女の銃口の先には倒れ伏す狙撃手の姿があった。

 美月の言葉を聞き、美月の小さな頷きを見て確信する。


 ――勝った。


 鉄将は静かに震え、その感情がふつふつと胸の奥からあふれ出す。

 そして(せき)を切ったように叫んだ。


「やったな、妬根!」

「う、うぇぇぇぇえええっ!?」


 突如両脇から抱え上げられた美月は次の瞬間上空に舞った。

 一人胴上げだ。

 長い浮遊感の中で悲鳴を上げる美月を鉄将はしっかりと受け止める。


 彼女は驚きで頬を紅潮させたが鉄将の満面の笑みに釣られるように思わず笑みを零した。

 二人の間を流れる空気が柔らかく溶け合う。

 敵のスナイパーを共に打ち倒した達成感が胸の奥を熱く染める。

 気づけば、二人の距離は極端に近かった。

 鼻先が触れそうになり、鉄将はハッと我に返る。

 慌てて美月を地面に下ろす。その顔は湯で蛸のように真っ赤だった。


「わ、悪ぃっ!」

「だ、だいじょーぶだよっ!」


 しどろもどろな返答。

 美月の頬も同じように火照り、視線を逸らす。

 沈黙が一瞬だけ流れ、それを破ったのは鉄将の乾いた声だった。


「も、求平に報告しないとな!」


 その言葉に美月も勢いよく頷く。


「そうね! 移動しながら済ませましょ。私達の任務はまだ続いてるもの。きっと求平君もそう言うはずよ」

「ああ、そうだな!」


 笑いながら、二人は歩き出した。

 互いの背中を追い、森の奥へと戻っていく。


 ――だが、それを良しとしない影が一つ。


 森の隙間から冷ややかな視線が二人を追っていた。

 彼らは気を抜いていた。勝利と安堵がほんのわずかな隙を生んでいた。

 瀬名からの忠告もあったはずなのに気づけなかったのは未熟な二人の失態だ。


 冷静に物事が進めば確認していた筈だ。このおかしい事態に、()()()()()()()()()()()――その事実に。


 敵の狙撃手、サンはまだ息絶えていなかった。

 美月の弾を愛銃で受け止め、あえて倒れたふりをしていたのだ。

 それは状況で不利を悟ったから、戦場における最後の策略――死んだふり。

 そして今、その罠が見事に嵌まった。


「……所詮、素人っすね。消えるっす」


 サンは口の端を歪めた。

 引き金にかかる指がゆっくりと絞られる。

 照準は鉄将の後頭部。


 だが――その瞬間。


「はい、残念でした」


 耳元に囁くような声。

 直後、狙撃銃の銃口がふわりと浮き上がり、サンの手が上へと引かれる。

 何が起こったのか理解できぬまま、彼女は太腿に固定したナイフを反射的に抜き放つ。


 振り向いた先。

 そこには枝に逆さにぶら下がる一人の少女がいた。

 桜色の髪を白いリボンでひとつに束ね、長い髪が直下に線を描く。

 その瞳は獲物を見据えるように鋭く、けれどどこか楽しげでもある。


「一色桜、参上でござる」


 逆さのまま、彼女はニンニンと忍者の真似事をしてみせた。

 だがサンは笑わない。笑えなかった。

 己の手元を見る――ナイフも、銃も、何かに絡め取られて動かない。

 ロープのようなものが全ての武器を封じていた。


 逃げ場はもうない。この女にこの距離では勝てない、サンの本能がそう警鐘を鳴らしている。

 咄嗟に出た悪足掻きの一手だった。サンは無線に手を伸ばそうとした、その瞬間――。


 桜の髪がふわりと揺れた。

 サンの視界が闇に染まり、音が遠ざかる。


 そして全てが静寂に包まれた。

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