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そしてB型の世界は始まる  作者: ぞっぴー
そしてB型の部活動は始まる
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83.瀬名と戸呂の激突

 最大限に神経を研ぎ澄ませ、人目につかぬよう瀬名の背を追う鉄将と美月は静かに持ち場についた。


 草むらに腹這いになった美月はすでにライフルに指を添え、黒く輝くスコープ越しに二人の姿を射抜いている。

 吹きさらしの多い彼らが立つフィールドで狙撃手が潜むにはあまりに無防備だ。

 美月の視界の先では瀬名と戸呂が互いの気配を探り合い、空気を震わせていた。


 背後に身を寄せた鉄将は葉擦れの音にさえ怯えながら、無言で息を潜める。

 森の影に身を隠してはいるがその位置は敵味方の間、まさに交戦の渦中だ。

 いざ銃火が交われば、真っ先に炙り出されるのはこの自分達かもしれない——そんな不安が胸の内で膨れ上がっていた。


「守ってくれるんでしょ?」


 美月の口元に浮かぶのは不敵な笑み。闇の中でその目が薄青く光った。


「……仕方ねぇな」


 鉄将は小さく呟いた。無茶をする部員達に付き合うのはもはや日常だ。

 この盾はそのためにある。もとよりこの場所が二人を見通すには最適だった。一長一短、それでいい。


「けど鉄将君は大きいから別で隠れててね」


 巨人と呼ばれるその体躯は伏せてもなお丸見えだった。

 モヒカンが風に揺れ、彼の存在を主張する。美月の苦言に鉄将は無言で後方へ退き、息を押し殺した。


「そろそろ始まるかな」


 美月の声が森に溶ける。スコープの中で戸呂の輪郭が黒い影のように揺れた。

 見合う二人の口元は動きを止めた。いつ動き始めてもおかしくはない。


 美月は約束された時が訪れるのを待つ。

『瀬名の敗北と共に戸呂を撃つ』

 その約束が来ないことを願いながら。

 引き金にかけた指に微かな汗が滲む。


 ◇◇◇


 瀬名が視界に入っても戸呂は一歩も動かない。


 この男はスタートの合図を待つような殊勝な人間ではない。罠か何かを待っているのか。だが瀬名のセンサーは沈黙したまま。

 瀬名は銃に触れることなく、ゆっくりと戸呂との距離を詰める。


「なに? 勝負前に語るなんて性分じゃないでしょ?」


 低く冷えた声。対する戸呂の口元には獰猛な笑みが浮かぶ。


「いいじゃねぇか……この強敵と相対するこの高揚感。お前も感じるだろ?」


 瀬名の瞳が氷のように揺れた。


「……何も感じないわ。もう、何も」


 言い放った声は冷えきり、二人の間に深い温度差が広がる。


 戸呂は苦々しげに唇を噛み、そこに立つのがかつての仲間ではないことを悟る。

 この場にいるのは牙を失った獣。

 それを確かめるように彼は深く息を吐き、静かにハンドガンに手を伸ばした。


「お前に普通の日常は似合わねぇ。それを分からせてやる」

「やってみなさい。私はあなた達を降して、文芸部に戻る」


 刹那、二人の視線が交錯する。

 引き金が引かれ、弾丸が互いの頬をかすめる。続けざまに距離を詰め、刃が抜かれ、激しく打ち合った。


 ナイフが重なり、瀬名が圧し切る。

 戸呂は素早く後方に跳び、瀬名の弾が木の壁に吸い込まれた。

 そのままその姿を壁へと隠し、瀬名への隙を探る。


「見えてるわよ……」


 消し去れぬ足音、微かな衣擦れ、それらを総称して瀬名の視界には()()()()()


 壁を蹴って舞い上がる。すでに銃口は敵を捉え、鋭く輝いていた。


 だがそれは戸呂にとっても同じこと。

 彼女の動きは直線的で猛々しい。力と自信でねじ伏せるその性格は小細工など考えない。


 互いの眉間を狙った弾はナイフの一閃で弾かれる。

 至近距離の銃撃戦は撃っても当たらず、撃たれても届かず。

 全てを躱し、全てを叩き落とす。


 スコープ越しに見守る美月の背筋を冷たい汗が伝う。

 息を呑み、己の無力を痛感する。

 この二人のどちらとも、相対したら一分ももたずに沈むだろう——そう肌が告げている。


 震える意識を引き金に戻し、彼女は息を整えた。

 任務が訪れる、その瞬間まで。

 ——決して気配を殺すのを忘れずに。


 だがそんな彼女に忍び寄る影があった。

 視界の全てを前方に向けた彼女はまだその存在に気づいていなかった。


(津名先輩の予想通りっすね)


 梢の影に身を沈めながらサンは鋭い視線で木の上で狙撃者を見据えていた。風が吹くたび枝葉が揺れ、ちらりちらりと姿を覗かせる彼女の銃口が決闘の場にいる戸呂へと向けられているのが見える。

 サンの胸の奥がぐぐっと沸騰するように熱を帯びていった。


 サンの目には決闘に水を差すこの狙撃者の姿が何よりも許しがたく映った。

 戸呂がほんの一瞬でも隙を見せればその引き金が引かれるーーサンはそう思っている。

 だからこそこちらが先に殺らなければならない。決闘を守るために排除する。それがサンの矜持だった。


 揺れる枝葉の隙間から覗いたその顔を見た瞬間、サンの心は別の激情に震えた。


「あいつ……!」


 歯噛みするように低い声が無意識に漏れた。因縁のある相手だった。

 頭に血が上り、視界の端が赤く滲む。怒りが喉元までこみ上げ、青筋が浮かぶのも構わず、サンはゆっくりとライフルの引き金に指をかけた。


 鼓動が耳鳴りのように響いている。

 風が止む。時間が止まる。

 この一撃で決着をつける――そんな決意がサンの中でひときわ強く燃え上がっていた。

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