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そしてB型の世界は始まる  作者: ぞっぴー
そしてB型の部活動は始まる
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78.プランの崩壊は突然に

 撃たれたローズに駆け寄ろうとした美月を鉄将の大きな身体が覆いかぶさるように守った。

 直後、乾いた破裂音が響き、二人のすぐ頭上を弾丸が風を裂いて飛び抜けていく。


 その衝撃に息を呑みつつ、美月は鉄将に引きずられるようにして近くの太い木の陰へと飛び込んだ。

 背中を幹に押しつけ、ようやく呼吸を取り戻す。


 恐る恐る顔を覗かせると、視界の端にローズが黒子に抱えられながら後方へ運ばれていくのが見えた。

 あの気丈なお嬢様が戦場から離脱する姿は言いようのない空虚感を残す。

 だが美月の目に迷いはなかった。瞬き一つで表情を切り替えると、ライフルをしっかりと構え、隣の鉄将に小さな声で礼を言う。


「鬼怒川君……助かった、ありがとう」

「……やれるか?」


 低く、しかし確かめるように問う鉄将に美月は少しだけ口角を上げて答えた。


「任せーー」


 だがその言葉が終わるより早く、木の陰から銃口を出した瞬間、雨のように降り注ぐ敵弾が樹皮を削ぎ落とし、耳元を掠めていく。

 反射的に身を引くと美月は引き攣った笑顔で鉄将に小さく呟いた。


「……ちょっと無理かも」


 息苦しいほどの弾幕にその場から動けずにいる二人。

 少しでも身体を晒せば蜂の巣にされる。敵はここが狙い目だと見抜き、集中して潰しにかかってきていた。


「……おいおい、話が違うだろうが」


 別の木陰で戦況を睨んでいた強が低く唸るように不満を漏らす。

 瀬名は首を傾げながら、小さく息を吐いた。


「……おかしい。普段はこんな短期決戦なんて仕掛けないのに」


 気まぐれかしら、と瀬名が呟くとそれが火に油を注ぐように強の眉間に深い皺が寄る。

 ローズのマシンガンが無き今、頼みの弾幕はもう期待できない。


「なぁ……そりゃ全部が全部、俺の思い通りに行くなんて思ってねぇけどさ……なぁ?」


 強が横の皆人の肩に無理やり手を置くと即座に弾かれた。その動きの素早さに思わず苦笑する。

 強は後に「桜の縛りより速かった」と語っていた。


 敵は着実にじりじりと距離を詰めてきている。皆人は視線を走らせ、状況を確認する。


 両脇には桜とムック、三俣と四子が敵の部隊を牽制している……筈だ。ならば彼女らが敵陣を突破して合流してくれる可能性もある。


 それは希望的観測であるのは分かっている。しかしそれにすらすがりたい程に状況は著しくない。


 正面に取り残され、動けずにいるのが鉄将と美月。早く救い出さねばならない。

 皆人が強へ目配せすると、強はにやりと笑い無線機に手を伸ばした。


『鉄将君、助けてほしいかね? 私の犬になるなら考えてやろう』

『殴り飛ばすぞ』

『君は何故戦わない? 牽制だけでもするべきではないのかね?』

『お前が俺の銃を奪ったんだろうがよぉぉぉぉお!』


 鉄将が吠えた。そのやり取りに緊張がわずかに和らぐがしかし現実は厳しい。

 皆人達が撃ち返す弾は敵にまともに命中しても前進の勢いを止められなかった。


 この試合では一発でも当たれば即アウトのルールだ。

 なのに何故、敵は前進してくる?


 皆人と強は顔を見合わせ、同じ疑問が互いの目に宿る。

 そして瀬名に視線を向けた。木の隙間から敵の姿を指差し、唇を歪める。


「なぁ、瀬名さんよ。……あれはなんだ?」


 敵の最前列を覆う、透明な壁のようなもの。それはどう見ても分厚い盾だった。


「ライオットシールドよ。鎮圧用の防護盾。知らないの?」


 さも当たり前かのように瀬名は首を傾け、余計な補足まで付け加える始末。


「警察24時とかで見たことあるでしょ?」


 その言葉に強は目を剥き地団駄を踏んだ。


「ズルだろ、あれは!」

「ズルじゃないわよ。なんでもありなんだもの」

「知らねぇよ、そんなの聞いてねぇ!」

「聞かないからでしょ?」

「言わなかったんだろがぁぁぁ!」


 強の怒号が森の中に響く。


 確かに思い出せば強は相手の装備を聞いていた。瀬名は悪びれず、あどけない笑顔で囁いた。


「……ごめんね」


 強は堪えきれず、銃を地面に置き、瀬名の腰に腕を回して持ち上げようとしたところで皆人がそれを止める。


「戦力になる人だからやめとけ」


「……けど、気持ちは分かる」と、皆人が付け加えると瀬名は無事に釈放された。強は深く息をつき、頭を抱える。


「前だけしか防がないんだから横から撃てばいいじゃない」


 いけしゃあしゃあとほざく先輩の言葉に強は一瞬目を細める。そして次の瞬間、無線のスイッチを叩いた。


『桜、中央に盾を持った兵士がいる。俺達が釘付けにする。お前らは横から叩いてくれ!』


 焦りの色を見せながらも情報は確実に、しかし返ってきたのは冷たい声だった。


『無理』

『なんでだよ!?』

『こっちも三人相手してるのよ』


 桜とムックは草木を盾に必死の応戦を続けていた。ローズが撃たれたのと同時に敵の別動隊が襲いかかっていたのだ。


『……そっちに行かせないだけでもありがたく思いなさい』


 無線越しに銃撃の音が重なる。強はため息をつき首を垂れた。


「……報告くらいしろってのに」


 だが今は桜達が無事であることを喜ぶしかない。知らぬ間に倒されていたらそれこそ最悪だった。


 皆人は桜の状況を聞いて、ようやく自分の誤りに気づく。

 敵は中央一点ではなく、周りにも人を送っている。しかもこちらより一人多くだ。


 嫌な汗が頬を伝い落ちる。無線を掴み、三俣達に呼びかける。


「三俣先輩! 応答してくれ!」


 だが返事はない。

 不吉な沈黙に皆人の心拍が一気に跳ね上がる。それを見ていた強が森に響くような声で叫んだ。

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