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そしてB型の世界は始まる  作者: ぞっぴー
そしてB型の部活動は始まる
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76.開戦の狼煙

「一応、皆さんの分も用意しておいてよかったですわ」


 汗ばむ額を手の甲で拭いながらローズは誇らしげに微笑んだ。

 金敷部と文芸部の面々が彼女の後に続き、森の薄暗い獣道へと足を踏み入れていく。

 先頭を歩く瀬名が青フラッグへと向かうルートを示すたび、皆人の足取りには少しずつ緊張が滲んだ。


 全員はローズが用意した迷彩色の戦闘服に着替えていた。黒一色の相手に対し、こちらは自然に溶け込むリーフ柄で統一されている。

 膝当ても備わり、初心者にも優しい完全装備だ。

 ムックに至っては顔までドーランを塗られてひときわ異彩を放ち、移動中も二人のカメラマンから被写体にされていた。


 そんな一行の中でただ一人だけ場違いなほどラフな格好の者がいた。瀬名だ。

 長い髪は一つに束ね、袖を無造作にまくり上げたシャツの背中にはハンドガンとナイフが交差するように収まっている。

 ゴーグル越しの彼女の視線は獣のように鋭く静かだった。


「再確認しておくぞ。敵味方の離脱は必ず即時報告すること。いいな?」


 強の低い声が木々の間に響き、金敷部と文芸部の部員達は小さく頷いた。

 すると、それまで沈黙していた瀬名が不意に手を上げ、全員の視線を集める。


「ひとつ忠告しておくわ。……死んだふりには気をつけなさい」

「死んだふり……?」


 怪訝な顔をする美月の代わりに桐人が軽く補足する。


「自分でヒットを告知しないから、当たったフリができるんですね」


 それこそ死体の回収班が来るまでは気を抜かない方がいいだろう。

 美月が「なるほど」と手を打ち、それを見送った強が唐突に口を開いた。


「そういや鉄将、お前のハンドガンを貸してくれ」

「なんだよ求平?」


 鉄将から差し出された銃を、強は説明もなくシャツの中へ仕舞う、そして自分の物だと言わんばかりの態度で歩き出した。その背を鉄将が無言で掴む。


「……説明しろ」


 鬼のような形相で睨む鉄将に強は平然と笑みを浮かべる。


「お前が銃を持つと、みんなが危ないだろ」


 それはまるで駄々をこねる子どもをあやすような調子だった。


「鉄将」

「普済! お前からもーー」

「……強が正しい」


 皆人の短い言葉に鉄将は呆然とした。味方してくれると思ったが誰一人鉄将の肩を持つ者はいなかった。


 さらに進む内に森はより深く、より暗くなった。

 空を覆う枝葉の隙間から差す光はまばらで、昼だというのにほの暗い。

 進んでいくと中央に盛り土があり、そこに青い旗が突き立てられているのを確認した。


「フォーメーションでも決めるか?」

「決めたところでお前が真っ先に破るだろ」

「……まあな!」

「威張るな」


 軽口を交わす強と皆人。そのやりとりを見届けた瀬名はふと文芸部の面々に目を向けた。

 金敷部の目には瀬名の表情が曇って見えた。——戦ってほしくない。その思いが無言のまま彼女の視線に宿っているように見えた。


「先輩、一緒に勝ち取りましょう!」


 門居の力強い言葉に文芸部の面々が一様に頷く。

 それを見て、瀬名の胸に熱いものが込み上げた。

 絶対に、この居場所を失いたくない——。

 背中を向けた彼女の目元はほんのりと光る。


「私は良い後輩を持ったわ」


 静かな声に場がしんと静まる。しんみりとした空気に皆人は訝しげに桐人に耳打ちした。


「……あの人、入部してまだ数ヶ月だよな?」

「しっ! 聞こえたら撃たれるよ」


 桐人の囁きに思わず笑みが漏れる。心のどこかで共有できたその違和感に皆人の気が少し晴れた。


 そして、始まりの時が近づく。桜がぽつりと呟く。


「そろそろ……かしら?」


 装備の最終チェックに余念のない者、待ちきれずにそわそわする者、それぞれの表情が戦いへの決意で引き締まる。


 各自の武器は性格が滲み出る選択だった。

 強と皆人はアサルトライフル。鉄将はハンドガンのみだがすでに強に没収されている。


 美月は悩みに悩んで、スナイパーライフルを選んだ。ムックは彼の小さな背にぴったり収まる折り畳み式のサブマシンガン。


 ローズは期待通りにごついマシンガン二丁を抱え、今にも空に向かって乱射しそうだ。


 桜の両肩には縄が巻かれている。その手にあるのはショットガン。

 彼女は誰も使わないから、という理由で選んだのだ。一人だけの特別感。それが彼女には心地よかった。


 それと皆、一様にナイフを装備していた。

 桐人はというと、その手に銃は無く諦めたようにナイフ一本だけである。


 皆人は桜の肩を見回し、まるで宝を求めるトレジャーハンターみたいだな、と軽口を叩いた。

 そんな深い考えもなく、ただ感じた事を言っただけなのだが意外にも例の異名を気に入っていた桜は反論する。


「どこがよ? どうみても亀甲に相応しい乙女じゃない」


 そう返した桜の言葉を聞きながら、強は縄を駆使する彼女の戦いぶりを思い出した。あの技巧はもはや人間離れしている。

 彼女の技が上手いこと、この戦いにも嵌まってくれれば良いのだが。


 そんな事を考えていると突如無線が鳴った。


『パーティーの始まりだ。諸君、健闘を祈る』


 洒落た合図に強はにやりと笑みを浮かべた。


「敵との距離は?」

「そうねぇ、フラッグ間1500メートルってとこかしら」


 そう言って瀬名が指した先に目線を向けるが当然、敵の姿はまだ影も見えない。


「斥候を出してくる筈だし、接敵まではもう少し余裕があると思うわ」

「成る程な。じゃあこっちも偵察を出すぞ。敵がどう展開してくるか分からないが左右に二人ずつ、それでとりあえず挟撃されることはないだろ」

「意外に慎重ね」


 強の言葉に桜が呟く。


 慎重なのは戦いへの覚悟の裏返し。強は視線を上げ、選任を始めようとした——そのとき、木の上に桐人の姿が見えた。

 さらに上へ、上へと登り、枝の上で身体を横たえる。


「終わるまで寝てるね」


 もはや笑うしかない。強は仕方なく鉄将のハンドガンを投げ、桐人は危なげなくそれを受け取る。


「そこで潜伏してろ。敵が来たら狙ってくれ」

「任されたよ。リーダー」


 桐人は笑みを残して枝の影に消えた。


 強が皆へ向き直り、再び人員を選び出そうとしてーー次の瞬間、ガサリと草むらが揺れ、黒い異物が着地する。

 何事かと振り向いた一同だったが、そこにある銃を見て全てを察する。沈黙の中、強が呼びかけた。


「……桐人く~ん?」


 返事はない。


「……最初から彼はいなかったということで」


 いち早く戦線離脱した参謀を放置し選任を始めるのだった。


 斥候はムックと桜、そして文芸部の三俣と四子が立候補した。


 彼らを見送り、場に静寂が訪れる——。

 あとは斥候からの報告待ち、とそんなわけにはいかない。

 少しでも策を立てなければ……、このサバゲーは相手の土俵なのだ。

 真っ正面からぶつかっても勝機は薄い。


「……ダメですわ」


 低く絞り出された声に皆が振り返る。ローズだった。

 彼女は発作が起きたかのように小刻みに震えている。


「……ちまちま待つなんて、性に合いませんわぁぁぁああ!」


 お嬢様は突如、烈風のように走り出し空に向かって銃を乱射する。


「あの馬鹿……カバーするぞ!」


 強が指示を出すと同時に無線から桜の声が飛び込む。

 オーナーから渡された無線機は失格命令が下されると共に仲間間で連絡を取れるツールとしても役に立つのだ。


 桜の言葉は焦りの色が見え、強達へ注意を促した。


『敵が来てるわ。早い!』


 強がローズに声を上げる。無線からは桜の声が聞こえている筈なのに彼女は己の世界に没頭していた。


「わたくしだけで……終わらせて差し上げますわぁぁああ!」


 宛てもなく弾幕を張りながら走るその姿はどこか狂気を孕んでいた。


 そして——。


 高笑いの余韻が森に響く中、弾幕の隙間を抜けた弾丸がお嬢様の額を撃ち抜いた。

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