66.金敷部(B)は乗せられやすい
「勝負方法は十五対十五の殲滅戦よ」
「聞いてねぇよ」
静かに告げられたその一言に強は呟く。大きく否定したら今度は本当に撃たれかねない。
「瀬名先輩は……一人で全員を相手にするつもりなんです」
「私は負けないわ」
誰の反応も待たず、瀬名が静かに断言した。
その言葉に虚勢は一切なかった。自分が勝てると心から信じている。
驕りや高慢とは無縁の自信という名の静かな火が彼女の瞳の奥で淡く燃えていた。
だがそれを許さなかったのが文芸部の後輩達だった。
勝負に絶対はない。どれほどの実力を持っていようと、たった一つの偶然が命取りになることもある。
その万が一を恐れた。瀬名を思うがゆえの慎重な提案だった。
「文芸部は瀬名先輩を入れて八人……あと七人足りないんです」
「それでうちの部に来たってわけか」
強が低く唸るように呟くと、門居は静かに申し訳なさそうに頷いた。
戦闘の経験がなくても人数が揃えば瀬名の負担が軽くなる。
彼女の後ろに立ち、支えとなる。それが門居の望む勝ち筋だった。
金敷部は問題解決を旨とするこの学校の風変わりなボランティア部だ。……少なくとも表向きはそうなっている。
門居は頼れる場所が限られている。選択肢が少ない中で彼らは藁にもすがる思いでここを訪れたのだろう。
「そうか……助けを求めるなら金敷部しかない。そう思ってここに来たんだな」
「いえ……最初は『射撃部』にお願いしてみたんですけど――」
「射撃部?」
聞き慣れない単語に美月が小首を傾げる。それを補足するように桐人が口を開いた。
「エアライフルとかビームライフルで的を撃つ競技が中心の部活だよ。実際、大会も開かれてるし、サバゲーよりは活動実績は充分あるね」
少し毒が混じっていたが穏やかな口調で語られたその説明に美月だけでなく他の面々も「なるほど」と頷いた。
静かに場が落ち着きを取り戻しかけたその瞬間、門居は小さく咳払いし、再び注目を集める。
「射撃部に頼んでみたのですが……私達は人を撃つために練習しているんじゃないと怒られてしまいました」
「……まぁ、そりゃそうだよな」
強が思わず苦笑しながら呟いた。
そうして彼らは選択肢が削られていく中、金敷部にたどり着いたというわけだった。
「どうか僕たちに力を貸してください!」
瀬名の隣で門居は深々と頭を下げた。
その姿を横目に瀬名は脚を組み、椅子にふんぞり返る。
まるで海外セレブのインタビューか何かのような、傲然たる態度だった。
「最悪、私の盾になってくれればそれでいいわ。あとは私が全部やるから」
その物言いはどう見ても助けを求める態度ではなかった。
だからこそ彼女の言葉はこの部の空気に火を付けた。
「ははっ……いいぜ。手を貸してやるよ」
強がバンとテーブルを叩いて立ち上がる。
指先は真っ直ぐに瀬名を差し、睨むように吠える。
「だけどな、俺はあんたの盾になるつもりなんか毛頭ねぇ! むしろ俺一人で全員ぶっ潰してやらあっ!!」
いつもの調子で感情を爆発させる強。
言葉遣いも敬語なんてどこ吹く風。
だがその裏には自分が彼女以上の戦果を挙げてみせるという負けん気が滲んでいた。
「ちょっと! あたしの獲物も残しておきなさいよね!」
「私もそんなこと言われて黙ってられないんだけど」
「道具の調達はわたくしにお任せくださいまし。練習は……明日からで良いですわね?」
炎のように燃え上がった空気が女子達に引火し、瞬く間に部屋全体を包み込む。
無言で拳を握るムックにも同じ熱が宿っていた。鉄将も瀬名の物言いに引っ掛かるものがあったようだ。その目は鋭い。
冷静でいられたのは皆人と桐人だけだった。
……とはいえその冷静さすら、少しばかり呆れているような類のものだったが。
「……良いわ。本番を楽しみにしてるわね」
「日程が決まり次第、また伺いますね」
瀬名は片方の唇をわずかに上げ、左側だけの微笑を浮かべる。
そして再び深々と頭を下げる門居を引き連れて、颯爽と部室を後にするのだった。
まるで台風のような訪問者が去り、部室に静寂が戻る。
皆、ほっとしたように息を吐き、次に何をするでもなく部長の言葉を待った。
「ってなわけで俺達の初仕事が決まったな」
「まさかのサバゲー……しかもなんか血生臭そうな……ほんとにまともなサバゲーなのかよ……」
皆人が苦笑混じりに呟いた。
勝手な偏見かもしれないが瀬名の言動、人間性を見るにどうしても既存のルールに則ったサバゲーとは思えなかった。
誰も怪我しなかったら良いな……そんな不吉な予感が頭を過り、各メンバーを見回す。
だが最終的にそれはムックに帰結し、彼だけが無事ならいいや、というエゴに落ち着くのだった。
「……ちょっと待てよ」
ここで皆人は気づく。
試合は十五人の殲滅戦と言っていた。
文芸部は八人、金敷部も八人。合わせたら十六人。一人余るのだ。
「俺達も八人いるけどどうすんだ? 文芸部と合わせたら十六人だぞ」
「だったら文芸部の誰かに抜けてもらえば――」
「待って」
強の言葉に桐人がすっと声を挟んだ。
「これは文芸部の問題でしょ。なら……彼らが抜けるのは違うと思う」
「なるほど、確かに」
皆人が静かに頷く中、強は桐人をじっと見据えて問いかけた。
「……本音は?」
「サバゲーに興味ないです」
「素直でよろしい」
あっけらかんとした声。
興味がなければどこまでも冷めているのが桐人だった。
だからこそ、あれほどの空気にも巻き込まれなかった。
誰よりも自分が戦場の外にいたいから。
「あー、もし実況席とかあるなら全然そっちやるんで、よろしく~」
勝手な言い分を残し、彼は早々とギャラリー側に回ることを宣言した。
「……まぁいいや、明日から練習開始な。そしてサバゲー同好会は俺達の手でぶっ潰す!」
強の拳が振り上げられ、それに連動するように熱のある声が続く。
もはや目的は文芸部を助けるではなくサバゲー同好会を倒すに変わりつつある気がするが――。
皆人も微笑を浮かべながらそっと拳を掲げたのだった。




