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そしてB型の世界は始まる  作者: ぞっぴー
そしてB型の部活動は始まる
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64.初めての訪問者

「桜か? 鉄将か?」

「あいつらならノックなんてしねぇだろ」

「……冗談だよ。客かと思わせて実はチビでか先輩とかじゃないか?」


 口元を歪める強の冗談に皆人は肩をすくめながらも笑みを浮かべた。

 軽口を交わすその雰囲気のまま、強はノブに手を掛け勢いよく扉を開け放った。


 だがそこにいたのは誰もが知らない人物であった。


「ここって……金敷部の部室ですよね?」


 柔らかく整えられた坊ちゃん刈りの少年が控えめに声をかけた。

 彼の背後から凛とした佇まいの黒髪ロングの少女が一歩控えて続いてくる。

 二人共、制服の着こなしはきっちりしており、どこか異質なほど清潔感が漂っていた。


 彼は部室に足を踏み入れるなり、興味深そうに辺りを見回している。

 まるで迷い込んだ小動物のようにキョロキョロと視線を巡らせながら。


「その通りだよ」


 強の声にどこか小さな喜びが滲む。来訪者は歓迎すべき客人。すなわち面白い何かの前触れだ。


 勢いよく席へと戻ると強はわざとらしいほどに咳払いを一つ。その仕草には一種の役者じみた構えすら感じられる。


「ようこそ金敷部へ。さてお主ら、何用かの?」


 まるで城の主のような語り口に皆人は心の中で苦笑する。

 すると自然な流れのようにローズが優雅な手つきで紅茶を淹れ始めていた。


 お嬢様にお茶汲みなどさせて良いのかと一瞬思ったが彼女の所作があまりにも板についているため、皆人はすぐにその疑問を手放した。

 何より香り立つ紅茶は素晴らしいものだった。


「そうだ、良い茶菓子があるんだ」


 思いついたように強が手を叩き、勢いよく立ち上がる。そしてムックのハウスへと消えていく。

 その後を追い、ムックもぴょこぴょことついていった。


 程なくして、


「あったあった」


 と口にしながら強は戻ってきた。

 その右手には大きなクッキー缶。そして左手には……噛みついたまま離れないムックの姿があった。


「……あの、噛まれてますよ」


 坊ちゃん刈りの少年が流石に放っておけずに声をかける。


 だが強は痛みなど意に介さぬ様子でそのまま座り、堂々と机にクッキー缶を置いた。

 ムックはまだ噛みついたままだが誰もツッコまない。というかツッコむ気力が追いつかない。


「強さん! くーちゃんのお菓子を取らなくても、こちらにありますわよ!」

「やだもん! ムックのやつの方が高級なんだもん!」

「ムックよ。そんなもん食ったら腹壊すぞ」

「えっ、僕の感覚がずれてる感じ……?」


 頬を膨らませたムックの顔を誰かがすかさず撮影するシャッター音が響いた。どうやらこの光景は金敷部名物の一つとして記録されるらしい。


 ――ともあれ、閑話休題。


 クッキーを頬張りながら強は改めて問い直す。


「で、何用で?」

「一応言っとくけどお相手先輩だからね」

「……何用ですか?」


 桐人の冷静な補足に強は足元を見ながら口をすぼめた。


 坊ちゃん刈りの少年はどうやら二年生。黒髪ロングの女性は三年生のようだ。


「僕は文芸部の部長、門居(かどい)です。そしてこちらが瀬名(せな)先輩です」

「まあ、二年生の貴方が部長なんですのね?」

「ええ……。瀬名先輩は最近入部されたばかりで。今日ご相談に来たのは実はその瀬名先輩のことでして……」


 門居が話を切り出そうとした、その時だった。


 まるで何かのスイッチが入ったかのように瀬名は静かに後ろ手を回し、スカートの内側から何かを取り出す。


 そして次の瞬間、無言のまま強の額に銃口を突きつけた。


「な、なにごとッ!?」


 美月が思わず声を上げる。目の前のそれはどう見ても拳銃。それも重厚で無機質な、現実感のない危険な光沢を帯びていた。


 銃口は強の額にぴたりと押し当てられている。まるで彼女の瞳からも冷たい金属が覗いているかのようだ。


「私が知りたいのは、君が強いかどうか。それだけ」


 言葉に感情はなかった。命令でも脅しでもなく、ただ無感情に情報を求める声。

 その異様さに皆人は背筋を冷たい何かが走るのを感じた。


 ローズは音もなく椅子を引き、戦闘態勢に入っていた。

 桐人は不動のまま静かに空気を読み取っている。

 ムックだけが空気を読まずにクッキーを咀嚼し続けていた。


 強はというと額に押し当てられた鉄の感触にも動じず、ただ真っ直ぐ瀬名を見返していた。


「ちょ、ちょっと瀬名先輩! やめてください! 今日は力を貸してもらいに来たんですよ!?」

「だから試すのよ」


 門居が慌てて制止に入るが瀬名はその声にも動じず、指をゆっくりとトリガーへとかけた。


 このままでは本当に死闘が始まる――。そう思った時、静寂を破る声が室内に響いた。


「強いわよ。あたし達の次にね」

「俺を巻き込むなよ……」


 不意に現れたその二人、一色桜と鬼怒川鉄将。気配を感じさせず現れた彼らに瀬名が息を呑む。


「何者!?」


 瀬名が反射的に振り返る。バンッ――軽い音が室内に響き、銃声のようで銃声でない、乾いた音が壁に吸い込まれていく。


 空気が緩んだ。


 玩具。つまりそれはエアガンだった。


 皆人は椅子にもたれかかり、胸をなで下ろす。そしてその弾の行き先を見守った。


 瀬名が振り向いた瞬間、彼女の撃ったBB弾は桜の縄によって叩き落とされていた。

 続く弾が放たれる前に鉄将が距離を詰め、迷いなく銃口を封じる。

  鉄将の力に常人が抗える筈もなく、瀬名がどれだけ押そうが引こうがぴくりとも動かない。


 どちらの判断も見事であった。

 たった一拍の中で弾を打ち落とした桜の反射神経。すぐに相手の武器を押さえた鉄将。


 少なくとも皆人の目には二人が怪物に映っていた。

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