61.強がB型にこだわる訳
嫌々ながらも強は朝日と向かい合った。
もともと、勝算があるからこその多数決だった。ローズと桜を納得させる為の多数決になる筈だった。
だが予想外にも票は拮抗し、そして何よりも最後に裏切ったのは誰よりも信じていた皆人だった。
これなら最初から問答無用で追い返しておけばよかった。強く出れば、雰囲気で押し切れたかもしれない。
そんな後悔がちらつくがもう遅い。
だが自分で蒔いた種だ。ならば最後まで回収してこそ男だと強は心を決める。
「変なことは書くなよ。まじで」
睨むような視線と共に彼は朝日に念を押す。その姿には半ば諦めと半ば居直りのような覚悟が滲んでいた。
「部活名ですが、金敷部(仮)でよろしいですか?」
「いや、まだ未定だよ。仮って付いてるでしょ。まぁ、近日中にはちゃんと決めますよ。……多分、ね」
「では部活内容を詳しく教えていただけますか?」
「う~ん……そうだな。ローズが放送で言ってた通り、面白いことに首を突っ込んでいく部かな」
「そんなこと言ってませんわ」
強がどこか誇らしげに語る姿にローズが思わず口を挟む。
朝日は穏やかに微笑みながら、ノートに走らせたペンを止めることなく、淡々といくつかの質問を続けていく。
その一つ一つに強が飾らぬ言葉で応じていくのだった。
ひととおり聞き終えた朝日はふと顔を上げ、皆人達の方へ向き直る。
「では、皆さんの自己紹介も載せましょうか」
まるで今ふと思い出したかのような軽さで告げられたその提案には淡い期待と鋭い探求心、ジャーナリスト特有の熱が滲んでいた。
軽く応じれば、その奥にある引き出しまでこじ開けられるかもしれない。そんな危惧に誰もが一瞬ためらいを見せる。
だが先陣を切ったのはやはり我らが部長だった。
「部長、求平強。好きな四字熟語は一撃必殺。好きなクリームはカスタードクリーム。好きな骨は肩甲骨だ」
誰も頼んでいない、誰も望んでいない、誰も聞いていない自己紹介。
聞く者全てを置き去りにするような独自の世界観を漂わせながら、強は鉄将に視線を向けてバトンを渡そうと腕を伸ばした――が、そこでふと動きを止める。
忘れ物でも思い出したかのように彼は再び朝日の方へと向き直った。
「……大事なことを言い忘れてたな」
言葉に溜めを作りながら、強は胸を張り、堂々と両腕を組んだ。
「俺は――B型だ!」
どこまでも誇らしげに、それはまるで世界に向けて掲げる旗のように。
「……そんなに溜めること?」
呆れ混じりに呟いたのは桜だった。その反応に他の部員達も頷く。
だがただ一人だけ。皆人は黙って彼の背を見つめていた。
「あいつにとっては大事なことなんだよ」
ぽつりと呟く声には懐かしい記憶が滲んでいた。
◇◇◇
それは彼らがまだ小学三年の頃。
皆人はある日突然、女子二人に言われた。
「B型って自己チューらしいよー」
「確かに、普済君ってマイペースかも」
その時の皆人は反論しようとして言葉に詰まった。言い返したかった。
でもどんな言葉で? 何をどう言えばいい? 声は喉の奥で詰まり、心の中には悔しさと悲しさが渦巻いていた。
その時だった。
ガタン、と机の上から飛び降りるように現れたのが強だった。
「皆人がマイペースで自己中? だったら俺はどうだ!? その上を行く俺はなんて言われるんだ?」
どこからか持ってきた布をマント代わりにヒーロー気取りで女子達の前に立ちはだかる。
「……いや、よく分かんない」
女子二人は戸惑いながら距離を取ろうとするが強の勢いは止まらない。
「誰も彼もが血液型に当てはまるわけがねぇだろ! まずは俺を見な! どうだ? Bぽいだろ?」
「そうだね……」
そのやりとりに皆人の心が少しずつ軽くなっていくのを感じた。
目の前の支離滅裂な男がとてつもなくかっこよく見えてきたのだ。
照明に照らされ、それは後光が差しているように見えた。
そして極めつけの一言。
「そんな枠組みを作るなら俺がB型の頂点に立ってやる。Bの支配者は俺だ!」
「もう勝手にして……」
女子達は唖然とし、そしてどこか呆れながらその顔は引きつっていた。
「……確かに、血液型で決めつけるのはよくないよね。ごめんね」
過ちに気づいた女子達の謝罪に皆人はようやく笑顔を返すことができた。
あの時の強は誰かのためではなく、ただ自分の心に従って行動した。
けれどそれが子供の皆人には大きく映った。
芯のある、ぶれない男の子。今でもあの瞬間のことは思い出す。しかしこの年齢になってもあの時の彼を笑うことはなかった。
強は今でも、ことあるごとに自分がB型であることを誇らしげに口にする。
あれは皆人を助けたという意識ではない。ただ、自分が信じる姿を貫いているだけなのだろう。
だがそれでいい。彼の目指すB型はもっとも自由でもっとも独創性がある。そんな人間なのだから。




