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そしてB型の世界は始まる  作者: ぞっぴー
そしてB型は惹かれ会う
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29.鍵盤奏でる呪言

 放課後の柔らかな陽射しが食堂の窓を斜めに射し込んでいた。


 強達は再び集まっていた。もちろん目的はただ一つ【鍵盤奏でる呪言】の謎を解くこと。

 そのはずなのにまず桐人が出遅れた。

 寝ぼけ眼を擦って引きずり出された彼は今やテラスのベンチでぐったりと項垂れていた。顔には無気力という文字が書いてあるかのようでまるでエネルギーの供給を絶たれた機械のようだ。


 ムックはというといつもと変わらず、口を動かしながら無言で菓子を頬張り続けている。

 桜は膝の上に自慢の縄を乗せ、指先でくるくると器用に弄びながら何やら物思いに沈んでいた。


 実質的に話し合いとして機能しているのは強、皆人、ローズの三人だけだった。


「で、結局その妙案ってのは何ですの?」


 ローズが半眼で問いかけると強はニヤリとした自信満々の笑みを浮かべて胸を張った。


「ふっ、よくぞ聞いてくれた! 見返してみな! 鍵盤奏でるとは、これはピアノを弾いてるって意味だ!」

「……まぁ、だろうな」

「つまり星は音楽室だ!」


 星という言葉が出た時、皆人は小さくため息を吐いた。

 強の中ではこれはもはや推理ごっこなのだろう。誰が刑事で誰が鑑識か、勝手に配役まで決めているに違いない。


「では今回の【鍵盤奏でる呪言】は吹奏楽部の誰かが怪しいって睨んでますの?」

「その可能性が高いな」


 強は確信に満ちた口調で言い切る。まるで真実が既に目の前にあるかのように。


 それには皆人も同意だった。


 過去の七不思議の騒動の裏にも常に人為的な企てがあった。今回も例外ではないというわけだ。

 もはやこの謎解きは幽霊や呪いといった怪異を暴くものではなく、ただの人探しに変貌していた。


「でもさ、桜の時とはちょっと訳が違うよな。部活の最中に乗り込むわけにもいかないし……」


 皆人が眉をひそめると強は涼しい顔で言った。


「だから今すぐ行こうぜ。部活が始まる前なら邪魔にならないだろ」

「いや、そんなことはないと思うが……」


 強の浅い提案に誰もが一瞬呆気に取られたが結局付き合うことになる。


 北校舎の最上階。廊下の奥にある音楽室は放課後の静けさの中でぽつねんと佇んでいた。

 壁には分厚い吸音材が貼られ、扉の向こうにはグランドピアノの存在感が沈黙のように漂っている。


 強が迷わずそのドアを開けた。


「すいませーん、呪言師いらっしゃいますかーっ!」

「……巨傲チョークスリーパー!」

「ぐぇぇっ!?」


 瞬間、ローズが鋭く強の首に腕を回し、無理やり沈黙させた。ご丁寧に背負い投げ気味に床へ倒し、場の空気を引き締める。


「空気を読めって何度言えば……」


 皆人の呟きに桜が鼻で笑う。


 入れ替わるように皆人が音楽室へ一歩足を踏み入れた。

 部屋の奥にいたのは雪のように白い髪を肩まで垂らした穏やかな女性。見たところ吹奏楽部の顧問教師だろう。

 部員達は突如現れた来訪者に視線を注ぎ、その目は少しだけ警戒を含んでいた。


 皆人は即座に場の空気を読み取る。ここは不用意に時間をかければかけるほど警戒心が高まる。


「こんにちは、新聞部の者なんですけど、今、学園の七不思議を取材してまして……けんば……じゃなくて、ピアノに関する噂を調べてるんです」


 自然な笑顔で嘘八百を並べながら皆人はグランドピアノに視線を送る。周囲の部員達もつられるように同じ方向を見た。


「このピアノはどなたが弾いていらっしゃるんですか?」


 その問いに女生徒三人と顧問が手を挙げた。


「では……ピアノから何か変な音とか……声のようなものが聴こえたりしたことは?」


 皆人の問いかけに彼女らは一斉に首を振った。予想通り、確定的な反応は無い。


「怪談めいたことで構いません。何か違和感とか、見ていて普通じゃないと思うようなことは……」


 沈黙。今度も否定のジェスチャーが返ってくるだけだった。


 ーー打つ手なし、か。


 そう思いかけたその時、顧問がふと呟いた。


「ピアノって……音楽室だけの話かしら?」

「と、言いますと?」

「体育館にもピアノがあるし、倉庫にも古いアップライトピアノが眠ってるのよ」


 その言葉に皆人の脳は高速に回転する。自分達は音楽室に囚われすぎていたのではないか?


 鍵盤ーーそれはピアノとは限らない。

 オルガン、アコーディオンだって鍵盤を持つ。

 むしろピアノと断定したのは早計だったのかもしれない。


 そしてその時。


「あ、そういえば……」


 一人の女生徒が何かを思い出したように手を挙げた。


妬根(とね)さんが弾いてる時、何か……変な声聴こえない?」


 その一言を皮切りに周囲の部員達がざわめき始めた。


「確かに……綺麗な音の中に、時たま……何か……」

「僕、通りすがりに聴いたんだよ。はっきりと『セ・ツ・ダ・ン』って」


 空気が変わった。情報が一気に濃密になる。


「妬根さんって……その方は?」

「吹奏楽部には所属してないけど、すごくピアノが上手なの。よく折り畳みの電子ピアノを借りてどこかで弾いてるみたい」

「ええ、確かに。あの子の演奏には魅了されるものがあるの。ぜひ入部してほしいのだけど……」


 妬根という女生徒は電子ピアノを弾いている。当然、電子ピアノも()()だ。七不思議の一つに繋がる、新たな()が現れた瞬間だった。


「今どこにいるか、分かりますか?」

「偶然さっき電子ピアノを持ち出していったわ。でもどこで弾いているかは分からないの。……人の少ない場所、静かなところを好む子だから、探せば見つかるかもしれないわね」

「ありがとうございます!」


 皆人は深々と頭を下げて音楽室を後にする。


 扉の外では強が「次こそ俺の出番だ」と言わんばかりに身構えていたがローズが必死にそれを押しとどめていた。

 あのまま突入していたら今の情報は得られなかっただろう。


 他の面々が待ち構える中、皆人は静かに口角を上げた。


【鍵盤奏でる呪言】

 音が導くその先にまた一つ、秘密が蠢いている。

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