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そしてB型の世界は始まる  作者: ぞっぴー
そしてB型は惹かれ会う
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28.巨人との再開

「次の目的だが――」

「くうちゃん、ほっぺにクリーム付いてますわよ」

「僕は少し寝るね。おやすみ~」

「ねぇ、あんたとの戦いであたし一段と強くなったと思うの、試してみて良い? ねぇ? ねぇってば!」

「皆人、助けてくれ」

「お前が集めたんだろが。自分で何とかしろ」


 強を含め、どうにも自由人ばかりだった。


 個々の()があまりに強すぎて同じ空間にいてもまるでバラバラのベクトルを持って生きているようにさえ思える。

 それを一纏めにして舵取りするなど誰の目にも骨の折れる仕事に映るだろう。


 だが今回はその強が珍しく振り回される側に立っていた。

 皆人は心のどこかでくすりと笑いを堪えながら傍観を決め込むことにした。


 たまには思い知れ。俺の気持ちも。ーーそんなちょっとした私怨を添えて。


「よし、灯に杏子よ。次の目的はな……」

「そっちに逃げるな」

「分かった。じゃあ次の目標を発表します!」

「いたーいっ!」

「痛いですわー!」


 強は桜とローズの頭を小脇に抱えむりやり場へ引き戻してきた。その姿だけでも十分に目立つというのにこれだけの騒ぎようだ。

 周囲の視線を釘付けにしてしまうのも当然だった。


「あれが例のカップルよ」

「人前でイチャイチャしやがって……」


 そんな声がチラチラと耳に届く。どうやら傍目には強と桜がただ仲睦まじくじゃれ合っているように見えるらしい。

 だが強にとってはそんなことはどうでもよかった。


 強は力業で無理やり話題を戻す。


「次の七不思議は【鍵盤奏でる呪言】だ!」


【鍵盤奏でる呪言】

 美しい音色に誘われたが最後、耳を傾けた者は聴いてはならぬ呪いの言葉を知ることになる。

 それが最後まで紡がれる前にその場から離れなければならない。あなたが呪われる前に。


「……初めて怪談っぽいのが出ましたわね。今まではやれ【亀甲乙女】だの、やれ【眠る男】だの、どこかネタに走った感じでしたのに」


 ローズは涼しい顔をしながらそう言ったが【放課後の哄笑】は自分も一役買っていたことは見て見ぬふりを決め込んでいるようだった。


「ローズ、あんたまたあたしと戦いたいのね?」

「あら、良い食後の運動になりますかしら?」

「そういうのはいいから!」


 強は二人の間に素早く割って入るときっぱりと話を切り上げた。


「今回は俺に妙案ありだ! というわけで放課後ここに集合な!」


 それだけ言い残すと急ぎ足でその場を離れていった。

 おそらく周囲のギャラリーが鬱陶しくなってきたのだろう。彼の背中はまるで逃げるように風を切って遠ざかっていった。


「俺は教室に戻るよ。みんなは?」

「わたくしはくうちゃんが食べ終わるまで待ちますわ」

「私達も久美ちゃんを待ちます」

「あたしはあいつを追いかけて技かけてくる」

「お、おう……桐人は?」


 返事はなかった。


「……死んでる!」

「寝てるだけだよ」


 予鈴が鳴ればきっと起きるだろう。皆人はその場をローズ達に任せて立ち上がる。

 するとすれ違いざま桜が風のように横を駆け抜けていった。


 何かを閃いた時、それを試さずにはいられない性分。

 強の後ろ姿を見つけた瞬間、彼女は躊躇なく床を蹴った。


「――殺気!?」


 寒気すら覚える気が背後から迫り、強の感覚が警鐘を鳴らす。


 バタバタと駆けてくる音が耳に届く。桜だ。強は即座にそう判断し、スピードを上げて中庭へと飛び出した。


「逃げるなぁっ!」

「なんで追ってくるんだよ!」

「愛ゆえに!」

「やかましい!!」


 このまま捕まれば尊厳は地に堕ち、観衆の前に晒される。絶対に、絶対に逃げ切らなければならない。


(くそっ……イチャイチャしやがって……)

(見せつけてんじゃねーよ……)

(間に割って入ったら咄嗟に縛られたりしないかな……)


 ――助けなど来るはずもない。


 逃げ切るためには自らの力だけを信じるしかなかった。


「あいつ速いわね。……仕方ない!」


 少しずつ距離が開いていくのを悟った桜は急停止した。

 そしてその手には重りを先端につけた縄が握られていた。あれは強との勝負で敗れた技の一つ。


「敗北から学んでちゃんと吸収するあたし偉いでしょ!」

「いらんことばっか学びやがって!」


 強は走りながらも決して目を逸らさなかった。そのため目の前に人が居ることに気づけなかった。


「くらいなさい!」


 縄が放たれる。反射的に強は身を低くし、ギリギリのところでそれを躱す。


「おまっ! 殺す気か! 首狙ってだろ!?」

「まだ練習中なの!」


 足を止めた強は縄の先を目で追う。そして――危うく飛び込むところだった。

 そこには巨人のような男が真後ろに立っていた。


 重りがその男の手に吸い込まれるようにして止まる。


「チャンス!」


 桜が腰を落とし、一気に縄を引いた。


「お前は……あの時の!」

「お前ら、周り見て遊べよ。すげぇ迷惑だぞ」


 図書室で強に助太刀したモヒカンの巨人――その男だった。

 彼は強の顔を見るなり露骨に顔をしかめた。


「げっ……お前、求平強か」

「おっ? 俺の名前をわざわざ覚えてんのか? 俺に惚れたんか~?」

「ぶっとばすぞ! お前とその女、嫌でも名前聞くんだよ。目立ち過ぎなんだよ!」


 巨人は凄むが怖気づくどころか強は軽く笑って受け流す。既に彼の優しさには一度触れているからだ。


「仕方ないなぁ。今度こそお前の名前、聞いといてやるよ」

「お前は話を聞けよ」

「いいから教えてくれよぉ」

「鬱陶しい……鉄将だ。鬼怒川鉄将(きぬがわてっしょう)

「おぉ、教えてくれんだな」

「もう絡むなよ。二度とだ」

「でも鉄将から来たんだけどなぁ~」

「うるさい、馴れ馴れしく呼ぶな」


 鉄将は縄を捨てくるりと背を向けて去っていった。


「てっしょーう! また今度なー!」


 呼びかけにも振り返らず鉄将は校舎の中へと姿を消す。その横で桜が顔を出し、縄を回収しながら訊ねた。


「ねぇ、あいつ何者?」

「優しい奴だよ。怖そうに見えるけど」

「……あいつ、ヤバいわよ」

「何が?」

「私はね、あの男に縄が掛かった瞬間、あんたを巻き込もうと思って引いたの。全力で。でも――」


 言葉を切って桜は睨むように空を見た。

 桜の表情は冗談ひとつ浮かべない真剣なものだった。


「……1ミリも動かなかったの。本気だったのに」


 あの状態で自分の引きに屈しなかった相手は初めてだった。


「悔しいわね。この学校にはまだあんな化物が居るのね」

「そうだな。……面白い男だよな」

「そうね……まぁいいわ。――捕まえた」

「……ヤサシクシテネ」


 この後、強は華麗な反撃もむなしく吊るし上げられる羽目になるのだった。

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