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そしてB型の世界は始まる  作者: ぞっぴー
そしてB型は惹かれ会う
25/89

25.打算と信頼の提案

「彼氏さんは桜さんのどこに惚れたのでしょうか?」


 茶化すような笑みを浮かべながらゴシップ部の女子が問いかける。紙面の一面を飾るには十分すぎるネタが今、目の前で踊っている。


「そりゃああたし、可愛いんで! 一目惚れってやつですよ!」


 桜は胸を張って堂々と答えた。照れ笑いの一つも見せず、まるで自分の可愛さに一切の疑いがないかのように。

 背景にはキラキラと光る星が飛び交っているような錯覚さえある。


「なるほど。ちなみに初デートはどちらへ?」

「そうですねぇ……道場破りがしたいって言ってます」

「なるほど、やはりそっちですか」

「もがーーー!!!」


 最後の悲鳴のような声は言うまでもなく強からだ。だが口を挟む暇すら与えず全て桜が勝手に喋っていた。これは代弁と呼んでいいのかさえ怪しい。


 ゴシップ部の茶番はいつものことらしいがそれに乗っかる新聞部の姿に皆人は何とも言えない気分になった。

 真面目ぶっていても結局はネタに弱いのだ。

 記者魂とは一体何なのか。そう疑問を抱きつつも彼は何も言わなかった。自分には関係のないことだ。


 いくつかの質問が終わると部長達は満足げにノートを閉じる。強からの発言は皆無だったがそんなことはどうでも良いらしい。

 新聞部、ゴシップ部、広報部、マスコミというものは名前が変わっても本質は変わらない。そう痛感する一幕だった。


(自分が何かしでかしても絶対に彼女達の取材には応じない。何があってもな!)


 皆人は心の中で固く誓った。


「良い記事が書けそうです。強さんも桜さんもありがとうございました。では失礼します。お幸せに!」


 三人はにこやかに一礼し、教室から去っていった。手を振って見送る桜の笑顔はどこまでも鮮やかでどこか底知れない。


 その笑みに善意を感じる者もいれば底意の香りを感じる者もいただろう。


 マスコミという嵐が去り、一段落ついた桜はふぅ、と静かに息を吐く。


 見回せば騒がしい余韻がそこかしこに残っていた。名勝負に満足そうな顔で解散する生徒、恋愛話に夢中になる女生徒たち。

 だが一方で失恋に泣き崩れる男子、地べたを転がりながら泣き叫ぶ柔道部員の姿もあった。


「オーッホッホッホッホ! どうですか、強さん。その芋虫のような無力なお姿で足蹴にされるお気分は?」


 そのど真ん中で高らかに笑い声を響かせるのはお嬢様。敗者に鞭を打つかのような仕打ちにこの世の終わりが訪れたかのようだ。


 皆人は思わず隣を見る。杏子とチビでか先輩なら止めるだろうと期待して。しかしそこには放心状態の二人が立ち尽くしていた。

 口は半開き、視線は虚空を彷徨っている。魂が抜け出たとしか思えない。


 その二人に向かってムックが静かにゼリーを口へと運ぼうとしていた。彼なりの優しさなのだろうがさすがに窒息死されては困る。皆人は慌てて止めに入る。

 代わりに灯が食べさせてもらっていた。

 それを羨ましそうに指を咥えて見ている皆人だった。


 そんな騒がしさの中、桜は静かに、しかし力強く歩みを進めた。向かった先は泣き崩れる柔道部員。


「男がぐだぐだ泣かない!」


 その一喝は雷鳴のように場を貫いた。一瞬にして空気が凍りつき、ざわめきは霧のように消え失せる。


「あたしは負けた! でもそれで試合をやめる気なんてない。戦いたい奴はいつでもかかってきなさい!」

「い、一色! それって……!」

「果たし愛はもう無いけど……あたしにやられたい奴はいつでも縛ってあげるわ」


 片目をウィンクし、腰に手を当てる桜。その姿に先ほどまで泣いていた男子達が歓声を上げる。

 絶望の涙は歓喜の涙へと変わり、今日一番の奇声が道場にこだました。


「……という訳で場所を変えましょうか」

「どういう訳だ。話をはしょるな」


 騒がしさの中、皆人が冷静にツッコミを入れる。その登場に彼の眉がピクリと動く。もう一人強が増えたような気分だった。


「おい桜よ。俺に何か言うことはあるか?」


 ぬるりと現れた強の顔。倒れていた場所には桐人が丹念に縄を巻いており、その横でローズが頭を押さえている。

 何があったか説明は不要だった。


「特にないけど、まぁ許しなさいよ。あたしと付き合えるのよ? 光栄でしょ?」

「求めてないんだが?」


 怒気を含んだ声に桜は小さく身をくねらせ、上目遣いで強を見上げた。


「ねぇ、ゆ・る・し・て?」


 ほんの少し胸元を強調しながらウィンクをひとつ。次の瞬間。


 ゴンッ


 鈍い音が響く。拳骨が桜の頭頂に落ちた。


「いたーい! 普通、女の子を殴る!?」

「お前を()()()女の子として誰が見るんだ?」

「な、何ですって!? ……まぁ、いいわ」


 やや涙目の桜が肩をすくめる。怒りを捨て、彼女は真剣な眼差しで強に向き直った。


「お願いがあるの。話を聞いてほしい」


 その真っ直ぐな声に強も思わず眉を上げる。


 そして舞台は食堂のテラス席へと移った。


 そこは静かで夕陽が柔らかく差し込んでいる。丸テーブルに強、桜、ローズ、桐人が腰を掛ける。隣の席では皆人、ムック、杏子、灯、そしてチビでか先輩が座っていた。


 二人の少女はムックと灯に手を引かれるままここまでやって来たものの心ここにあらず。焦点の合わない目、未だあの修羅場を彷徨っている。


「さて、話って何だよ」

「単刀直入に言うわ。――あたしと交際をしてほしいの。表面上だけで良いから」

「それってどういうことですか!?」


 いの一番に立ち上がったのは杏子だった。テーブルを揺らし椅子が後方に吹き飛んだ。


 チビでか先輩は静かに何食わぬ顔で座っているが足元が震えていた。


「勢いで果たし愛なんてのが出来ちゃったけど……もうやめたいの。分かる? 大した信念も志もないおちゃらけた連中がまぐれを期待してあたしに挑んでくるのよ! あたしはちゃんと向き合ってくるやつと勝ち負けを決めたいのよ」


 彼女なりに悩みがあるらしい。それは自分で蒔いた種なのだが実りすぎた稲はもう全部刈りたいのだろう。


「だからあんたに偽の彼氏役をしてもらいたいの」

「要するに弾除けか」

「そう。で、その代わりにあんた達の謎探しってのに協力してあげる。……あ、もしかして彼女とかいる?」

「いや、いないが――」

「じゃあ決まりね!」


 見事な畳みかけ。まるで彼の答えなど最初から想定内とばかりに進めていく。


 皆人はムックの口元を拭きながら背中で聞いた言葉を杏子と先輩に小声で語る。


「付き合うみたいですね」

「ま、まぁ、表面上のお付き合いでしょ?」

「求平君は恋愛とか興味なさそうでしょうし……良いんじゃないんでしょうか?」

「……偽物の恋」

「そうだな、小野さん。略すなよ?」

「ニセコイ」

「こらっ!!」


 騒がしくなった裏に強が目線を向けると残り少ない蝋燭の火のように静かになった。

 その静けさの中で強が口を開く。


「……まぁ、いいか。あと三つの謎探し、ちゃんと協力してくれよ」

「よし、契約成立ね!」


 二人は手を取り合った。打算と信頼の混ざった握手。

 一色桜の加入で強達一行の騒がしさがさらに増すのだった。

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