第6話 騎士様の結婚プランを聞かされる
「あー、今のところ、何もなくてね」
は?
「いや、何にも知らせがない」
「新しい知らせがあるって言わなかったですか?」
「現在のところ、何もないんだよ。何もないってことが最新情報だね」
なんだかフツフツと怒りが湧いてきた。
「何のためにここまで来たのですか?」
「いやだって、ほら、重要な知らせだろう? 何もないってことは」
相手は真面目に答えてくる。
「しかもどうして夜中に来るんです?」
「目立たない方がいいって言ったじゃないか。だからわざわざ夜来た。まあ、俺も夜の方が暇なんで」
夜の方が暇?
「これ、お仕事でしょう? 伯爵様からのお知らせじゃないんですか?」
「いや、そうでもないかな。サービスなんだ。知りたいんじゃないかと思って」
サービスなの?
「それより最近どう? 仕事うまくいってる? あ、お茶ください」
騎士様は、飲みさしの私のティーカップを見て言った。
「どうして仕事をしていること、知っているんですか?」
「あ、それは、あの、そう、街で見かけたんだ」
騎士様は少し焦ったように答えた。
私、老婆に化けていたのに?
「薬がたまたま必要でね。なんでも薬屋としては有能だそうじゃないか。見かけによらず」
見かけによらず?
「えーっと、まあ、実はそれ以上に大切なお知らせがあってだね」
見ると騎士様がへらへらしている。
「実は内密なんだけど、実は俺、結婚しようかなーって考えてて……」
「はあ……」
騎士様は傲慢が照れたような顔をしてチラッとこっち見た。
「あんたでもいいかなって考えてて」
私は目を見張った。何を言うとるんだ。
「いえ。忙しいので」
騎士様は驚いた顔をした。ここ、驚くところ?
「えっ? 即OKじゃないの?」
「いえ。忙しいので」
「俺と結婚できたら、みんな大喜びだよ? なんでそんなこと言うの?」
私は冷たい目で、偽のお使い様を眺めた。
大体、名前も知らないのに、即OKする訳ないだろ。常識ないなー。
「結構です」
早よ帰れと言いたいところをものすごく我慢した。
私は明日の朝が早いのだ。明日はグスマンおじさんが新しい市場関係者を紹介したいと言っていたし。
「え? ねえ、お茶は? お茶くらい淹れて歓迎しようよ。せっかくこんなイケメンが来てくれたんだからさあ」
自分で言うな。問答無用。暇な騎士様は追い出された。
よくもよく知りもしない人ン家に夜中やって来て、結婚しろとか言えたもんだ。