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第5話 訪問客

店からの帰りに買い物も済ませ、私はコソコソと家にたどり着いた。茂みの陰になるよう気をつけて裏口から家に入る。


「あー、良かった」


こんなにうまくいくなんて。グスマンおじさんは見かけによらずいい人だった。市場の管理人だけあって、悪い客への押さえもきく。


薬は売れまくって、すぐに完売御礼。

市場にいる時間が短いので、家に帰ってから、お茶をしたり本を読む時間も十分ある。


「もしかしたら、家で使用人がいた時より、気楽かも」


礼儀作法が、とか叱られないもんね。一人暮らし最高。


でも、お客様とお話する機会が多いので、気になる噂もいろいろ聞いてしまった。


まず、バリー男爵家。つまり伯父の一家だけど、新居披露のパーティーをしたんですって! 誰の家だと思ってるのかしら! 私の邸よ!


あのエリザベスとリンダは身分相応なくらい着飾って、噂になったらしい。


両親の乗った船について、新しい噂はなかった。どこかの港に無事に着いたという噂を期待していたのだけど。


「ねえ、それより伯爵様のご子息の話、聞いた?」


伯爵様には大変にイケメンな息子がいるらしい。


「その方がバリー男爵家の新邸披露の会に出席されたんだって!」


「へええ!」


「下の娘さんのリンダ様は大変な美女だそうで、その方狙いじゃないかって噂になってる」


へー。


伯爵様には息子がいたのか。

そして、リンダ狙いなのか。


ちょっと私は暗くなった。


リンダは美人だ。そりゃ若い男性なら夢中になるかも。

でも、息子の嫁の一家のためなら、私の財産なんか伯爵家の権力で没収されちゃうかもしれない。


もう外は暗くなっていた。私の心も真っ暗になった。


父になんとなく恩義を感じているらしい伯爵様だけが頼りだったのに。息子がリンダに夢中なら、叔父一家の味方になってしまうかもしれない。まあ、私の味方になる理由もないけど、せめて銀行らしく適正に預かり金の管理をしてくれないだろうか。




その時、家の扉を元気よくたたく音がした。


私は震えあがった。泥棒? 怖くて動けなかった。するとしばらく間をおいて、


「開けろ。いないのか?」


誰? 男の声だ。それから独り言のように、


「ローズ、夜遊びか? まったくあの家は変な女ばっかりだな。みんなでたかってきて。いくら俺がイケメンで将来有望だからって」


声ではわからなかったが、独り言の内容に心当たりがあった。


私はそーっとそーっとカーテンの隙間からのぞいた。多分間違いない。


うん。あの髪のハネ方。いつもの騎士様だ。


私はそーっと灯りを消した。無視。


「ドアを開けろ。両親の知らせを持ってきたんだが……」


騎士様が怒鳴った。


なんですって?


私はドアに突進して、ガンッとドアを開け、ドアにもたれかかっていた騎士様は突き飛ばされて地面に手をついた。


「痛い!」


「なんの知らせですか?」


騎士様は立ち上がろうとしていた。


「この乱暴者。わざわざ来てやったのに」


確かにそれは申し訳ない。そうか。伯爵様のお使いだったのね。


「申し訳ありません」


私は平謝りに謝った。


あの家出以来、すっかり忘れていたが、この騎士様は本来伯爵様のお使いが仕事だった。


来ないでくれとあんなに頼んだのに家まで来られて腹が立ったのだけど、両親について何かわかったのだったら、知らせてくれてありがたい。


「申し訳ございません。ようこそ来てくださいました」


私はもう一度謝って、騎士様を家に入れ、椅子を勧めた。


騎士様はしきりと手をフーフーしている。土が床に飛ぶんで止めて欲しいんだけど、つっころばしたのは私なのであまり文句も言えない。


「何か手を拭くものない?」


きれいなハンカチを濡らしたものを渡すと、彼は言った。


「拭いて」


うーむ。なんとなく性格に難があると言うか、めんどくさい騎士様だ。

伯爵様も別な人をお使いにしてくれればいいのに。


しかし、土を拭き取って、私はびっくりした。意外なことに血が出ていた。弱っちいいな、騎士のくせに。私の突きごときで転んでケガするだなんて。


「申し訳ございません」


急いでケガ用の薬を持ってきて渡した。すると彼はケガした左手を突き出した。


「塗って」


子どもか!


手を取って塗ってやるとニンマリして満足そう。どこかのいい家の坊ちゃまなのかしら。いつも使用人に甘やかされているとか。


「それで騎士様、どのような知らせが伯爵様のところに届いたのでしょうか」


私は改めて騎士様に尋ねた。いい知らせなのか、悪い知らせなのか、ドキドキする。

あれほど情報が飛び交う市場でも、バリー商会の会長夫妻については新しい話は何もなかった。


どんな知らせでもびっくりしない。嘆かない。指先が冷たくなってくるのを感じながら私は騎士様の顔を見つめた。








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