第１９話 どうしてもお泊りを強要される
騎士様は私に見つめられて照れた。
そして私の視線が騎士様の手元の鍵に集中していることに気づくと説明した。
「なぜって、合鍵を作っておいたんだよ、いつでも護衛に来れるようにね。心配じゃないか」
なぜ、みんなそんなに護衛したがる？ それになんで勝手に鍵なんか作った。
私がごちゃごちゃ文句を言おうとし始めたのを察してか、騎士様は私を押しとどめて料理に注目した。
「すごくおいしそうだね？ ローズが作ったの？ 食べてみてもいい？」
「ダメですよ、それ私の夕食なのに……」
「これから家に帰るだろ？ 夜は危険だから俺の家に来ることになってる。ウチのコックが夕食を用意しているんだから心配いらないよ。ローズの手作りだと思うと、なんだかうれしいな」
「いや、違うし」
食べ掛けなんですけど、という間もなく、騎士様は勝手に座って勝手に食べて絶叫した。
「うっまっ。すっごく。うわー、ローズ、料理の天才だなっ」
「そんなことは……ないと思います」
騎士様は目を輝かせて言った。
「謙遜するな。すばらしい！」
そして止める間もなく、料理を全部平らげてしまい満足そうに言った。
「でも、ちょっと少ないな。まあ、ローズはそんなに食べないだろうから」
量が少ないのは、私の残りだからです。
「さあ、帰ろうね。明日の分の薬はある？ 俺が運ぼう。ご馳走になったお礼だ」
「あの、面倒くさいので、ここで寝ます」
大体、家に帰る帰るってさっきから言っているけど、あの家はあなたの家で私の家じゃありません。
「あの晩は危なかったそうなので、お世話になりましたが、襲撃はありませんでしたし、もうご迷惑をかけるわけにはいきませんわ」
騎士様は指を振って反対した。
「ダメだ、ダメだ。バリー男爵家がいつ襲ってくるかわからない。昨日来なかったからって、今晩は大丈夫ってわけじゃない。危ないだろう」
グスマンおじさんは、モレル伯爵領はそんな物騒な町ではないと言ってましたよ？
「下女という触れ込みで暮らす用意は今晩も万全だ」
騎士様は跪いて、私の手を押し頂いた。
「ご招待申し上げる。ぜひ一緒に。あなたの安全のために」
下女に向かって、こんな招待の仕方ある？
顔はイケメンだしなあ。まあ、行ったら風呂くらいは用意してくれる場所だ。夕飯も結局中途半端にしか食べられなかったのて、お腹が減ってる。
こんな感じに流されてていいのだろうか。
薬の大荷物を背負った騎士様のシルエットは、せっかくのイケメンが台無しだったが、本人はご機嫌だった。
ご機嫌と言えば、最近はいつでも上機嫌だ。
「ローズといると楽しいな」
「そうですか」
ヘンリー君と言い、だんだん妙な関わりが増えていくなあ。
その後私は、騎士様の家に泊まり、そこからマッスル市場に出勤し、自分の家に帰って薬を作り、その後迎えに来た騎士様と一緒に騎士様の家に行くと言う謎のルーティン生活を送ることとなった。
薬の運搬問題は、ヘンリー君が解決してくれた。
彼は仕事が終わると、私と一緒に家に来てくれて、ご飯を作ってくれる。私は薬を作り、彼が自宅へ帰る時持って行って、朝、マッスル市場に持ってきてくれることで解決した。
なんか無駄に運搬距離が長い気がするが、それも修業だそうだ。
だが、市場の定休日の前の日、私はこの謎のルーティン生活の絶望的な真実の意味にようやく気付かされたのだった。
