第18話 料理名人
仕方がないので、私はヘンリー君を家に連れて帰った。
「台所はここですか?」
ヘンリー君はぶよぶよしながら狭い台所に体を押し込んだ。よく入ったな。
「夕食にはスープと鶏のローストを作ります。ブーケガルニ持ってきました」
「ええ。じゃあ私は薬作っているから」
私はヘンリー君に見つからないように二階に退散することにした。
「パウンドケーキ作って持ってきました」
途端に目がキラッと光った。パウンドケーキは好物だ。
「私、薬作りするので、入ってきてはダメよ。でも、ケーキとコーヒーはいただくわ」
よし。二階で思い切りダラダラしてやる。
「夕食のデザートはアップルパイに生クリーム添えです」
私は出来るだけ気がなさそうにうなずいたが、成功したか自信がない。
難関のパイ生地を突破してくれるらしい。
わー、楽しみ。アップルパイ大好き。
夕食時になると、素晴らしい料理が私を待っていた。
美味しそう!
美味しそうなんではなくて、美味しいわ! いや、ほんとウマイわ!
なんてことだ。一人暮らしで培った私の料理の自信は木っ端微塵だ。
「ヘンリー君、すごい! 美味しい!」
「ええ? 本当ですか? 僕はこれ、好きなんですけど、家族からは高カロリー高脂肪で非難轟々なんです」
「こんなに美味しいのに?」
ヘンリー君は寂しそうな顔になった。そして、自宅に帰って行った。
「家で食事しないといけないんで」
事情が事情なだけに、そうそう引き留めるわけにも……って言うか、この料理、一人前しかないの。
ヘンリー君は、最初から自分は食べるつもりはなかったらしい。家でササミを食べなくちゃいけないらしい。
うーん。そう言われれば仕方ないよね。
私は、ヘンリー君が帰るや否や、お行儀なんかほっといて、バリバリ食べ始めた。うまいっ。
家庭料理の素朴さを残しつつ、味にひねりとメリハリを効かせたプロな味わい。これがヘンリー君の脂肪の源か!
「おっ? おいしそうじゃない!」
ガチャリとドアの音を派手に立てて、なんと騎士様が不法侵入してきた。
私はスプーンとフォークを両手に持ったまま、あまりのことに目を見張った。
めっちゃナチュラルに入って来た。
なぜ?




