甘味のち酸味
私、白井咲は華の大学生になり、彼氏もできて順風満帆の生活を送っていたはずだった。そう、数時間前までは…
「これ、どういうこと?」
事が起こったのは今日の昼間、まさにデート中だった。ひと休みしようかと寄ったカフェのテーブルに置かれた彼氏のスマホには『今度いつ会える?またどっかに連れて行って欲しいな♡』といった内容の明らかに普通の友人からではない通知が映っていた。そして私はそれを見てしまった。彼氏を問い詰めると途端に挙動がおかしくなり疑惑は確信に変わった。私は浮気をされたんだ。彼氏は必死になって謝ってきたが最早その言葉に意味はなかった。なんの感情も乗っていない上部だけの言葉、何も感じられなかった。そうして彼との幸せな時間は終わりを迎えた。
「なるほどねーそりゃ大変だったね」
私の前であぐらをかきながら話を聞いているのは紺野晶、中学からの親友だ。たまたま進学した大学が近い位置にあり、住んでいる場所も近かったため今でもよく遊んでいる。彼氏と別れたあと連絡すると私の家で飲もうということになり、2人で飲みながら愚痴を聞いてもらっていた。
「本当に酷いと思わない?あんな奴と付き合ってたなんて信じらんない、最悪…」
「そんなやつ別れて正解だよむしろ早く気付けて良かったんじゃない」
「まぁそうだけどさぁ…」
付き合っていた1年間は確かに彼が好きだった、彼も同じ気持ちだろうと思っていた。でも私が好きだった彼はただのハリボテだった。とても理解し難いが残念ながらその事実が否定されることはない。
「何が悪かったんだろうねー」
なんて呟くとより一層気持ちが沈んでいくような気がした。どうしてこうなったのか、自分の何がいけなかったのか何も分からなかった。
そんな様子の私を見て晶はこう言った。
「まあ、悲しいのは分かるけど一旦考えるのやめたら?」
「やめるって、そんなすぐには…」
あまりに唐突な晶の提案に理解が追いつかずにいると晶は更にこう言った。
「だから、今すぐに頭ん中整理しようとするのやめたらって話。咲のことだしどうせすぐには落ち着けないでしょ」
「どうせって、確かにそうかもしれないけどさぁ悲しいもんは悲しいんだよ!」
そんなにすぐに気持ちを切り替えられたら困っていないし相談もしていない。混乱して思わず声を荒げてしまった。
「あーごめん言い方が悪かった、私が言いたいのはゆっくりでいいんじゃないってこと」
「ゆっくり…?」
「悲しければ悲しめばいいし泣くことだってできるけどその場で無理に受け入れようとしたってすぐにはできないでしょ?ゆっくりでいいんじゃないかな、こういうのは時間が解決してくれるって言うし」
「そう、なのかな」
「そう!感情を抑えろってわけじゃないから泣いても笑っても怒ってもいいけど全部を一気に考えようとはしなくていい!ってこと。そんなことしたら誰でもパンクしちゃうよ」
「一気には考えなくていい…」
私はハッとした。そうか、ゆっくりでいいのか。考えるのは今じゃなくてもいいのか。なんなら放っておいてもいつかはこの気持ちに整理がつくのかもしれない、そう思うと少し楽になったような気がした。
「ありがとう、晶」
「どーも。あ、そうだ、気分転換になるかと思ってケーキ買ってきたんだけど食べる?」
「食べる!」
晶が取り出した箱の中には美味しそうなケーキが2つ並んでいて、箱を開けた途端甘い香りが漂ってきた。しかも私が1番好きないちごのショートケーキだ。いただきますと2人で手を合わせケーキを食べる。晶が買ってきてくれたショートケーキはとても甘く、季節外れのいちごのすっぱい味がした。その甘さに包まれるような感覚が今の私には刺激的過ぎたようでなぜかとっくに流し切ったはずの涙が溢れて止まらなかった。
フォークとお皿のぶつかる音が静かな部屋によく響く。ただ泣きながらケーキを食べ続ける私を晶は何も言わずに見ていた。
私は今日のことを忘れることは出来ないだろう、いや、忘れたく無い。あんなに辛かったはずなのに何故かそう思った。




