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スター・マイン・エンドロール

 ☆Melty Engage End.


「進路をどうしたって? 知ってるでしょ、普通に進学した。で、普通に就職した。そんなふうに、あの日も書いたわよ」


 櫻井――その旧姓で呼ばれた少女は、昇っていく白煙を目で追う。その視界に、遅れて散る桜の花弁を見た。


「普通。それだけが手に入ればいいのよ、私の人生は。それだって特別なんだから。望まなくても手に入ったかもしれないけど、望んで手に入れた今よ」

 快晴。空は澄んで青を広げている。高いところにある太陽を見るためかざした左手の薬指に、星のごとく光る輪があった。


「永遠は手に入らなくても、人生くらいはどうにか手に入るってわけね」


 そうして早季は、過ぎた刻に片笑んだ。




 ☆Falling Star End.


「鳴かず飛ばずってわけじゃないけどー。十周年に武道館は果てしないねー」


 夕架璃は相変わらず間延びした口調で空を追った。雲ひとつない空に、白煙は溶けて消えてしまった。


「ロックスターってなんなのー? って聞かれるよー。だれのことかは答えられるのにー、それが何かがわからないひとがたくさんだったー」


 音楽のない駐車場の端っこで、まるで落ちていく日の様子でも観測しようとするように少女は西の空を望んでいた。

 一日の終わり。そこから出るはじまりを夢見るかのごとく、瞳を光らせて。


「二十七でステージライトに身を捧げることができるのかー。不謹慎かもだけどさー。そんなふうにも考えてー。でもー、そうじゃないよねー。死んじゃたら仕方ないじゃんかー。生きなきゃさー」


 風が吹く。黒く染まった髪が肩の上でたなびいた。


「生き抜こうぜーって、死にそうなときに歌えるやつがロックスターでしょ」


 そうして夕架璃は、過ぎた刻に挑むように笑った。




 ☆Story Teller End.


「売れねーのよ。ぜんぜんこの世界は物語ってやつを求めてないのよ。神がいなくて哲学もない時代に神を作るのは簡単だ――なんて言う芸術家もいるけどね。あれは嘘だよ。ぜんぜん嘘」


 かつて夢を手探りひとつの台本を紡いだ、いまは女性と呼ぶべき元少女は呻いた。鼻先をかすめる桜の花弁に弄ばれてくしゃみをする。


「売れないなりにいろいろ書いてきてさ。支倉さんにはお世話になったよ。まさか、こんなひとたちが集まるとは思ってなかったけど」


 遠く、呼びかける声がする。燃えるような赤色の声だった。

 女性は背を大きく伸ばして、太陽へ手を重ねる。


「赤い血潮……奇縁だよね。こうして当て書きをしたくなるひとと出逢えた。売れなくたって、未来がなくたって、いま書かない理由になるわけじゃない」


 刻む名は台本の記述する筆名のみ――自らの名前を世界に(そう)さない女性は、アスファルトにリズムを刻む。


「書くか、書かないか。人生の問いはそれだけだよ」


 そうして女性は、唇を結んで建物に入っていった。




 ☆Make ReDreaming.Other.


「進路とか知らねえよ。何年前の出来事だって思ってんだよ」


 莉彩はホールの中央で――当然であるが端に寄ろうが赤い存在感は変わらないのでどこにいても同じだ

――外を放浪していた面々に行き先を示していた。


「今は適当に絵を描いて暮らしてるよ。まあ案外、なんとかなるもんだ。勝手に物語を見いだす。価値ってやつも大概どうして適当だってわかってきておもしれえよ」


 迷子の余地がなくなったのを見届けて、彼女たちが行った階段を莉彩も上っていく。


「さあ、どうしてんだろうな。病院突っ込んでからはそれまでだからな。面会行ったところで何かがあるわけでもねえしよ。ま、莉彩と一緒だよ。どこかで元気にしてるなら、それでいい。そう信じてる」


 開けた空間に出る。いくつかの部屋が点在していた。待合室と書かれたプレートを目指す。廊下の窓から青い空が見れた。赤い瞳がわずかに揺れる。反射する窓には変わらない貌。静かにつぶやいた。


「生きてりゃいいよ。どうせいつか死ぬんだろ。だったらわざわざ自分でそいつを叶えてやることはないだろ。……ま、それでも自分を否定したいなら、出逢ってやる。その命の先にあたしはいる。赤く化粧してやるよ」


 そうして莉彩は、赤い唇の端を上げた。




 ☆Idol Nova End.


「休みくらい差し込めるよ。うちのマネージャーは優秀だからね」


 奏は待合室で用意されたお弁当に箸を運んでいた。

 黒く長い髪を束ねないまま、口の端に一本咥え込みながら咀嚼をする。


「救う。夢を叶える……まあ、上手くいってるとは言えないかな。みんな私を応援してくれるからさ。いいことなんだけど、口惜しいよね」


 からっぽのお弁当箱を閉ざし、年度末に武道館を埋めたばかりのシンガーアイドルは唇を尖らせた。


「ただ……うん、ちょっと前にさ、あるアイドルに逢えたんだ……もうとっくにアイドルじゃないんだけど、私にとってのアイドルに。だから聞いてみた。アイドルを辞めたこと後悔してないのかって……デリカシー? 今さらでしょ。そう。後悔してるって。叶えられなかった夢を何度も夢に見るって。夢にやぶれた後にも、生きていけたって、笑ってた。私の活躍を喜んでくれてた」


 怜悧な面立ちから想像できない、いじけた子供のように目線を逸らす。


「だからまあ……あのひとのために、死ななくてよかったなって、少しだけ思えたかな」


 そうして奏は、まぶたを伏せた。




 ☆Knockin' On End.


「忙しい、と言ってもライブの後。インタビューが重なってるくらい。かなでがすごくがんばれば問題ない。問題なくなったから来れた」


 瑠依は職員からの呼びかけに従って階段を降りた。揺れた銀の髪は思い出の中。すっかり肩上で切り揃えられていた。


「べつに……ただ、わた……瑠依には舞台は合わない。あの一回で知った。あの一回で十分。あの一回を超えるものはないってわかってる。ただ、その夢を追うひとを支えたいとは思った。かなではアイドルを続けるって言った。かなでの夢を叶えると言った。進路は必然」


 たどり着いた先は、火葬上。葬儀場のスタッフによって、骨となった老女が砕かれ、納骨の列が形成される。


「そう、希望は失われる。永遠じゃない。でも、繋げる。永遠にしていける。そういう仕事を――命を、瑠依は選んだ」


 瑠依は、箸で骨をつまんだ。




 ☆Starlight Shot End.


 遥はこの十年を聞いて回った。

 三年へと進級し、そして盛大な別れ話となった卒業式は記憶として割愛するが、その衝撃ですべての関係性を使い果たしてしまったように、遥はここに再開しただれとも合わずに過ごしてきた。

 活躍をふと目にすることはあっても、それは遠くの星の光に目が奪われるようなもの。縁の残り香は支倉であった。

 その彼女が、この十年という年月によって残る命を燃やし尽くし、落命した。

 彼女の繋いだ縁の一部として、知ってる顔があった。

 再開を喜ぶというより、あの決意の日にだれもが何を選んだのか興味があった。

 進路希望表に書いた自分になっているのか。理想とはほど遠い人生だ。でも、きっと、決めた未来だけが自分ではない。決めた過去だって自分だ。叶えていく。それは、叶えようとした瞬間にだって叶っている。思い描くこと。その想像は、世界だって創造できる。現実として描き変えるには、飛ばなくてはいけないのだとしても。

 夢と希望が失われないとわかっているなら、どこへだって行ける。

 その道のりこそが、自分だって誇るべきだ。

 骨壺を瑠依が抱える。その前、先頭を遺影を持って歩くのは奏だった。

 その遺影は、遥の撮った笑みだった。




 ☆End roll.


 まばゆい光の交点は、少し未来。

 銀幕にいくつかの夢を見た。

 ある終わりを予見した。

 ただそれは、未知だ。いずれ行く道だとしても、今ではない。

 今はただ、燈る照明の暖かさに目を細めた。


「仲直り記念、ってことでいいのよね」


 茶目っ気を含ませて後ろから語りかけてくるのは、支倉老だった。遥は困り眉で応じる。


「仲直り……なんですかね?」

「絡まってただけで結び目なんてひとつもなかったって知っただけだよ」


 補足する奏は、遠い前。最前の中央に座していた。


「寂しいこと言うのね。瑠依ちゃんがふたりに仲良くしてほしいからって、どれくらいがんばったと思うの」

「瑠依のことはいい」


 遥の隣に座る銀髪の少女が、その藍の瞳で老女を捉えた。


「それより、あなたの夢」

「そうねぇ……ま、ちょっとばかり都合がよくて、どうしようもないくらいに奇跡が繋がっただけだけど、今日はクリスマスだものね」


 支倉は深く座りなおした。クッション生地の座席が沈み込む。


「もう一度、この劇場でやっていくわ」


 パンダの石膏が見つめる安普請な建物。流行りや新作なんて流れず、ただただそんなビジョンに馴染めないひとたちの宿り木、憩いの場だった映画館に、遥たちはいた。

 終わった夢。燃え尽きた夢。夢を見送る夢は、そうして終わったはずなのに。


「夢を叶えても、叶え終わっても、熱が残ってたの。未練って言うよりね、まだこうしたいことがあるって思いが、言葉にならないまま胸にあった。見送った夢が、いつかだれかの夢の理由になった……そんな風景が、まぶたの裏に焼きついて離れなかったの。だから、そう……死ぬまで、そういうことがしたかったのよ」

「それで、コンセプトはどういうものなんですか?」


 赤い声が響き渡った。最後列の端に莉彩が居座っていた。

 老女は振り向くことなく滔々と語った。


「夢を叶えるために、それを受け入れる場所は多いほうがいいでしょ……ただ、休むだけじゃない。羽ばたくための場所でありたい。映画と舞台。そのふたつがあれば、無敵だって思わない?」

「いい話ですね、それは。たしかに、なんでもできそうです。叶わない夢であればあるほど、映画と舞台で叶えられる……荒唐無稽だけど、案外笑い飛ばせない」

「名前は?」


 瑠依の問いに、支倉はひとつ頷く。


「夢想の劇場――スターリィシネマって」


 かつて魔法少女だった四人は、拍手でその夢のはじまりを祝った。




 ☆ ☆ ☆ ☆




 終業式の日に金魚鉢の話を早季に振った奏が怒られていた。飼い主である遥も呼びつけられて怒られた。


「あんなの一時しのぎの借り家よ! よく半年も生きてるわね。鈍感なのか、生きる実感がない子なのか……」


 溜息混じりに告げられて、そこまで深刻な話かと遥は落ち込む。瑠依が差し込んだ。


「大きい水槽に移したら、瑠依の子はだめだった」

「ちゃんと酸素循環させてた?」

「水槽だけ買った」

「金魚だって息して生きてるの」


 叱られたその足で、エアーポンプを買い、瑠依の押し入れに押し込まれた空の水槽を遥の家に移した。

 金魚は世界の広がりなんてなんのその。特に気に入った様子も、気にした様子もなく、ゆうゆうとひれをたなびかせていた。

 その赤い命の様子に、後から来た莉彩が笑った。


「大物だな。ここにいるだれよりも、よっぽど生きるのがうまいんじゃねえか」


 瑠依が餌をやると食いつく。奏は遠巻きにそれを眺めていた。


「で、なんだよ、わざわざ年末近くに呼びつけてきやがって」

「忙しかった?」

「おまえらが大変だろ、学生さん」

「そうでもないよ」

「そうならないために親御さんががんばってくれてるんだろ。だから、孝行しろって意味で大変だって言ってんだよ」

「瑠依に親はいない」

「あたしも似たようなもんだからな。つまりどいつもこいつも師走だろ」

「やりたいことができてさ」


 遥の言葉に、沈黙が降った。足首までをひたす静寂は必然とも言えた。

 夢がなく、夢に夢見る魔法少女だった、遥の夢。

 だれも促さない。語ると決めたからこの場があると知っている。何が語られるのかはわからなくても、何かを語ろうとしてると信頼があった。

 言う。


「カメラ……映そうと思ってさ、いろいろな夢と希望を」


 遥は懐から携帯端末を取り出した。


「お金を貯めなきゃだから今はこのカメラしか使えないんだけど……まず、みんなのことを撮らせてほしいんだ」

「どうして?」


 奏の問いに遥はもごもごとつぶやく。


「思い出……かな」

「物質的な思い出に縋っても意味なんじゃないの?」

「だー、くだらねえ」


 しびれを切らした莉彩が奏の肩に腕を回す。


「だれだって夜空の星を見上げるもんだろ。見えてても、見えなくても――そいつを、おまえは否定できんのか」

「……まあ、そっか。私たちは、かつての光に希望をもらう生き物だったね」


 奏が瑠依を手招く。

 黒と銀の髪が交わる。鈴の音のような声が遥を呼んだ。

 重ねる手。ふれ合う温度が心音を伝える。

 命の律動を奏でる。

 重ならない音が、だからこそ、音楽を生む。

 散り散りになっても、違う貌をしていたとしても、きっとまた逢えると信じさせる音。

 心が奏でる音色が世界を描き変える。彩っていく。

 心とは可能性。ひとは、可能性の世界を生きている。

 だから、不可能なんてない。

 信じる限り、それは叶う。

 叶えられる。

 画面に四人の姿を収め、遥はシャッターを切る。

 フラッシュは焚いていないのに、虹彩のうえを星のような光が転がった。




 ☆Star Mine End


 そして、いつかたどり着く交点。

 ただ、中指がふれ合うだけのすれ違い。

 その道で、揃った四人。

 欠けることなく――失われることなく。

 星を心に宿して。

 たわいのない人生に、ただ笑う。

 四人をいまだ結ぶ、写真の中の表情(かお)のように。

 夢見た未来は、現在(いま)

 世界は輝いていた。

Idolight Imagine “Supernova END of story”

“Hope” is the thing with feathers――

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