お伽噺に夢を見た
瑠依は流れていく景色を眺めていた。
軽音部員が機材を下ろしている。命を取り戻すように荒い呼吸をする三人が前室に足を下ろした。
入れ替わるように遥たちが背景素材をセッティングし始める。リハーサル後、備品はそのままステージ裏の決められたスペースに収めてあった。
緊張はない。心音は穏やかで耳に聞こえない。ただ、光だけが視線の先にあった。
「次は瑠依の番だよー」
その光に語りかけられる。ステージ上での叫びとはうって変わる口調だ。いつも通り、夕架璃は特有のテンポで間合いを詰めてくる。言葉がいつの間にか懐に宿っていた。
「期待してるからー」
手のひらを握り締める。もらったものを失わせないために。固く、強く。
〈ホエールフォール〉の三人は汗の道を残しながら、体育館へと抜けていく。その足跡を洗うべく後輩がモップをかけていた。忙しない。時間は休まることを知らない。
隣に気配を感じた。横目にすると、長く下りた黒髪が目に入る。櫻井早季であった。停止しているのは、ふたりだけ。世界の速度から隔離されたようだった。
「私ね、最初あなたのこと嫌いだったの」
突拍子もない言葉だった。不都合はないので特に反応はしなかった。
「転入初日の挨拶憶えてる? まるで自分だけが奏を大切に思ってると言わんばかりの口調……空閑さんにも、同じ理由でむかついてた。自分たちだけの世界だって信じて疑わない目つきが嫌だった」
「……早季も、奏が大切」
「今の私は奏に見いだしてもらった……向いてるって思えないし、今もしんどいときはあるけど……世界と繋がれている実感がある」
「瑠依も奏に命をもらった」
「この物語で、瑠依と私の役は相容れない。けど、演じる私たちは同じひとを大切に思っている……感情は背比べじゃない。同じだからこそ、違った道でも同じ場所にたどり着ける、はず」
「やりきろう」
瑠依は端的に告げた。早季は面食らったように目を見開いて、頷いた。
「そうだね。月に見せつけるんだ、私たちの生きざまを」
そうして早季はステージへの階段をのぼる。瑠依もまた、流れ出した。
すれ違う人々からエールが贈られる。脚本を担当した少女と目が合った。瞳の色が刻々迫る未来を予感させる。この舞台が終われば夜を待つこととなる。空に雲はない。月が見えるだろう。
何が証明されるのか。何を見つけることができるのだろうか。瑠依は思う。
見上げた景色に星がいた。
「行けそう?」
「やってみる」
「叶いそう?」
「見つけたい」
「見てるよ」
「見ていて」
星が降りた。照明が落ちた。幕が上がる。
光が。
鏡だ。
赤い。
〝鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのはだぁれ?〟
お伽噺が始まる。
☆ ☆ ☆ ☆
美姫が歩くたび、名乗りのようにヒールが鳴る。
暗いステージの上で、降りそそぐ淡い光をつき従えて長い黒髪が揺れる。
向かうのは、重ねられた赤。ともすれば不吉とも見れる、赤い輝きを放つように照明をあてられた、ふちの赤い鏡の前だった。
女は唱えた。
〝鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのはだぁれ?〟
〝それは姫、あなたです〟
女の頭上にそそぐ光が強さを増す。
再び唱えた。
〝鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのはだぁれ?〟
〝それは姫、あなたです〟
女の頭上にそそぐ光がやわらぎ白む。
三度唱えた。
〝鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのはだぁれ?〟
自らの名が呼ばれると確信する、揺らぎない音だった。
鏡は低く、感情など搭載されていない無機質な声で応じた。
〝深き深い森の奥。忘れ去られたお伽噺に囲まれて、真実なる美は存在します〟
舞台袖から、世界を溶かし込む色が姿を見せる。
銀。
揺れる髪の一本一本が、涙のような尾を引いて世界を切り裂く。
視界に入れたひとの涙膜すら鉛に変えて落とす。瞳孔を直接焼くその色彩は、あまねくを寄せつけない絶世を放っていた。
ワンピースに似たドレスが肩から膝までを覆っていた。夜よりなお深い、その虹彩のように海の奥暗い黒だ。
素足がぴたぴたと音を立てる。鏡をもてあそぶようにくるりと撫でる横顔が、照明の赤のせいか妖しく光っていた。世界を謳歌するように走り回り、袖へと消えていく。
〝あれが、私より美しき存在だと?〟
美姫は肩を怒らせる。
〝名をなんと言う〟
〝名はいまだありませぬ。忘れ去られたお伽噺には名がないゆえに、彼らは名前をつけることができません〟
〝そうだな。私が奪った名だ。幻想に意味はない。世界は、ただ私の美しさだけを認識していればいい――重ねて聞こう、鏡よ。世界でいちばん美しいのはだれだ?〟
〝最後に芽吹いたもっとも新しき物語です〟
〝その審美を許そう。これまでが真実であるのなら、これからも真実であるのだからな。同様に、不都合なのも真実だ〟
鏡を照らす光が引く。暗闇に穴開ける光の寵愛を一身に受け、美姫は天上に手を伸ばす。
降りそそぐ色が、血のごとき赤に染まった。
〝そうさな……物語とは現実に忘れ去られる運命だ。私が読みふけり、閉ざすのも一興か〟
明かりが消える。
場面が変わった。
天蓋を隠すように腕を広げる樹木に囲われた森のなかだった。しかし暗さはない。三人の小人が常に笑っているからだ。
〝我らは名を失くした妖精〟
〝我らは忘れ去られたお伽噺〟
〝でも寂しくなんてないんだ〟
その背には、蝶に似た羽を生やしている。練り歩く姿は、どこか空を飛んでいるふうに見えた。
〝さあ、目覚めの時間だよ〟
〝おはよう、深き眠りの物語〟
〝今日もボクらに希望を見せておくれ〟
くるくると手を繋ぎ輪を描く妖精が袖へと消えて、再び姿を見せる。
三人の中心で、目をつむる銀髪の少女がゆっくりと歩んでいた。
その足取りは徐々に早まっていく。浮上する意識のように。まどろみから覚めて、世界の真ん中で目を開いた。
〝あ――ぁあは〟
あくびだった。めいっぱい体を伸ばして、少女は息を吐いた。
〝おはよう、妖精さん。今日も笑顔がたくさんで嬉しいわ〟
鈴の鳴るような声で、無表情に言う。その顔は、色を知らない白紙の紙を思わせた。
〝今日も世界は平和かしら?〟
円をほどいた三人がそれぞれ言葉を綴る。
〝もちろん〟
〝ボクらを脅かすものはいない〟
〝ここはだれもが忘れた森の奥〟
〝ボクらは忘れ去られた物語〟
〝きみはだれも知らないお伽噺〟
〝さあ、今日もきみの命を聴かせておくれ〟
〝そうね。あなたたちの眠りのために。わたしの見た物語を綴りましょう〟
少女はやさしく喉を震わせる。
〝暗い空に大きな光がありました。劇しくて、まばゆくて。ほかの輝きなんて飲み込んでしまうほどに明るい光です。そしてそれは、赤い色をしていました〟
最後の情報に妖精たちがざわめきだす。少女は関係なしに続けた。
〝その光に照らされて、白い肌をした長い黒髪の女性が立っていました。彼女だけは色に染まりません。なぜなら、空の光こそ彼女だからです〟
森に赤い光が差し込む。
〝空の光はただ姿を映しているだけ。世界はただ彼女を映すために存在していました。――だから、もうすぐです。彼女は、想像の力を知っています。この世のものではない美しさを想像する、ひとの力を知っています。もうすぐ、物語を終わらせるためにここへやってきます〟
三人の妖精たちは慌てふためく。その感情を反映してか、辺り一面が赤い光で照らされた。
存在を証明するような甲高い靴音が響き渡った。
〝物語は自らを語る。それがおまえらの最後の希望か、名もなき妖精たちよ〟
長い後ろ髪がぴたりと背中に張りついた。立ち止まった美姫は、眼鏡のふちで囲うようにして四人を見据えた。
〝美しき銀色よ、名をなんと呼ぶ〟
〝わたしはいまだ、呼ばれる名を持ちません〟
〝名づけるものはいない。この世界から物語は消えた。私がそうした。美しきは想像されるものではない。存在するものだ〟
妖精たちは美姫が言葉を紡ぐたびに震えあがっていた。少女の後ろで小さくなっている。
その姿を見とがめるようにして眼鏡の内の眼差しを鋭くした。
〝忘れ去られてなお存在するのは、おまえらを綴る物語があるからか。夢、時、愛よ。想像に居場所はない。存在だけが確かな世界だ〟
妖精は青ざめた唇で弱々しく言葉を返す。
〝夢を見ずひとはどう現実を生きていくんだ〟
〝時の流れなくひとはどう変化していくんだ〟
〝愛のない世界でひとはどう自分を知るんだ〟
〝甘い理屈だな。子どもですらもう少し賢しいぞ〟
美姫はその、冬を閉じ込めたような冷たい黒髪をかきあげた。
指先が天上に向かい揃う。
〝空を見ろ。その皓々とした月を見ろ。光は常にそこにある。それがひとの運命だ。この私が、あまねくを照らす。想像なんて曖昧な羽は命を運ばない〟
熱した刃で積雪を切るような言論に妖精たちは音を失う。
美姫の瞳が少女を捉えた。
〝この世界で私より美しい存在は必要ない。ましてそれが、幻想ならば――もっとも美しいと呼ばれるお伽噺よ、ここで幕を引くといい〟
〝あなたがそれを望むのなら〟
〝物語は求められる変化を拒めない。残酷な性だ。そうして元のかたちは忘却されて、やがて存在すら忘れ去られるのだからな〟
美姫はその懐から球体を取り出す。赤い光に染まるまでもなく、小指に結ばれる運命の色をしていた。
〝これはおまえを幸福に導く〈運命の果実〉。食べれば永遠の眠りが訪れる。閉じた物語は、二度と開かれることはない〟
少女が歩み寄る。妖精三人が引き留めようとするが声にならない。
差し出される手に手を重ね、少女は果実を受け取る。
〝姫、最後にあなたに問いたい〟
〝許そう〟
〝わたしは……いったいなんのために生まれてきたのでしょう?〟
〝その問いは成立していない。存在に理由なんてないんだからな――生きることで答えが残る〟
〝わたしは、未完結のまま終わるのですね〟
〝この先は白紙であったと慰めよう〟
尊大な言葉に頷いて、少女は果実を口にした。
光が途絶える。
暗闇。静寂。
白。
光。
照らすのは。
鏡。
赤い。
どこかから、美姫の声がした。
〝鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのはだぁれ?〟
〝存在しません。美は失われました〟
〝一度は聞き間違いと流そう。二度はないと知れ〟
〝これはただ、真実を映す鏡にすぎません〟
〝ならばおまえも、遠のくお伽噺か〟
〝これはいつもこの場所にいます〟
〝私が旅立っていくのみか〟
〝ただ、忘れ去られるのみです。あらゆる物語は失われるのではありません〟
〝それが真実か〟
〝よき旅を。その先端でまた逢いましょう〟
〝二度はないと言ったはずだ――さようなら、幼き日の慰めよ〟
破砕音が鳴り響く。光に亀裂が入った。
その隙間に横たわるように、銀色が鏡の後ろから姿を見せた。
手折れた花のように横臥しながら、少女は口を開く。
〝ここはどこ?〟
応じて、姿のない声がみっつ並ぶ。
〝ここは物語の終わり〟
〝ここは記憶の最果て〟
〝ここはボクらの終幕さ〟
〝妖精さん? どうして姿を見せてくれないの?〟
〝終わった物語に光が当たることはない〟
〝忘れ去られた記憶に光が当たることはない〟
〝でも、ここにいるよ〟
〝わたしもここにいます〟
ふらふらと髪を揺らしながら立ち上がる少女に、低い声が重ねた。
〝そうだ、物語は終わらない〟
少女は傍らにあった鏡に今しがた気づいたように振り向いた。
〝あなたは……?〟
〝真実を映す鏡……しかし、そんな役割なんてどうでもいいことだろう〟
〝役割がなければ何があるのですか?〟
〝存在だ。役割なんてくだらなく、名前なんて意味がない。そんなものなくても、我らは存在する〟
〝しかし、必要とされなくなったから、わたしたちはここにいるのですよね〟
〝存在はだれに定義されるものではないだろう。ただ、あるのだからな――命とは、そういうものだ〟
〝命……物語にも、生命があると〟
〝運命だ。命を運ぶその運動を、生きると呼ぶ。その結果としての生命だ〟
〝ならば、どこへと運んでいくのですか?〟
〝ひとと共に、だ〟
〝忘れ去られたと、ある女性は言っていました〟
〝忘れ去ったものは存在しないとひとは思い込む。しかし、物語は常に傍らに存在するものだ。ひとと物語は、同じ命を運んでいる〟
〝どこへ向かってでしょうか?〟
〝どこまでも。終わることはない。再演だ。そして物語は、再び読み解かれる〟
〝だとしても、わたしは未完結で終わった物語です〟
〝いいや、きみはまだ結ばれている。〈運命の果実〉は、与えたものと与えられたものを結びつける。きみという美と、美しき姫は、赤い糸で繋がっている〟
〝その先端で、わたしはわたしを知ることができるでしょうか?〟
〝知るのではない。ただ、告げるのだ。物語は、きみ自身で紡ぐんだよ〟
赤い光が差し込む。か細く、それは月のように広大ではない。しかし、確かな道しるべとして、少女の足先を照らしていた。
手繰り寄せるようにして歩んでいく。その背中を聞き慣れた声が押した。
〝いってらっしゃい、ボクの夢〟
〝いってらっしゃい、ボクの時〟
〝いってらっしゃい、ボクの愛〟
〝いってきます。そしていつか、あなたたちが再び読まれますように〟
少女は別れを告げる。袖へと消えて、暗転。
白く、照らされた世界には、美姫と少女だけが相対していた。
黒髪の姫が長く息を吐く。
〝有終の美という言葉は知らないのか?〟
〝まだ終わっていないのです〟
〝繰り返してどうする。運命は、まっすぐ進めばいい〟
〝完結は定められた道ではありません。道を作ることこそ、命を運ぶ行為にほかならないのです〟
〝いいや、すべては月の光に照らされればいい〟
美姫は天上を撫でるように指を這わせた。
〝決定された運命こそ生命を美しくさせる。それこそがひとの真実たる美だ〟
〝その美しさをだれが見るのでしょう? ただ存在するだけの美を追い求めるのなら、比較は必要ないはずです。いちばんの美にこだわったのなら、あなたの美は観賞を求めるはずです〟
少女は小指をそっと美姫へと差し出した。そこには何もない。しかし、見えない繋がりがあると、この相対が証明している。
〝世界があなたを映す鏡なら、わたしにとっての鏡はあなたです〟
ふたりは歩み寄る。それは決して交わるためではなかった。結ばれた糸に引かれ合い、しかし重ならない。
通り過ぎ、もはや互いの顔は見えない。背中越しに体温すら感じない。
〝あなたを通じてわたしはわたしを知る――ゆえにわたしは、わたしの運命をこう名づけましょう〟
虚空に向けて少女は告げた。
〝美、と〟
それは世界に己を打ちつける、確固たる声音だった。
美の前に鏡が現れる。問うた。
〝鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのはだれ?〟
〝美が、ただ存在するのみ〟
美姫が呻くように言う。
〝開かれた物語は自由の証左ではないぞ。それはただの荒野だ〟
〝だからこそ、物語は傍らにいます〟
〝忘れ去るぞ〟
〝忘れ去られようと、あなたたちの幸福こそが至上の幸い。幕開けを待ちましょう〟
〝尽くすことが運命か〟
〝いいえ、至ることこそ運命です――さあ、共に〈運命の果実〉を〟
美が天上へ手を伸ばす。光が、赤く染まる。
〝わたしたちが運ぶ命の至る先端が、幸福であると信じましょう〟
〝信じるなんて……そんな空想でどこまで行ける? 幸福な終わりはお伽噺だ〟
美姫も指先を天の光に重ねた。
〝しかし、そうだな――そんな結末こそ、美しい〟
〝紡ぎましょう、この運命を〟
光は強さを増し、世界を包み込む。
そしてすべては途絶えた。
暗転した景色は静穏をもたらす。
暖色のライトがステージを照らした。
演者が並ぶ。
カーテンコールだった。
☆ ☆ ☆ ☆
まばらな拍手は物語への内容の不理解を指し示すようであった。
困惑が耳に痛い。不協和音が胸の奥をざわつかせる。
莉彩は叫び出したい衝動を胃に押し込めて、体育館の外へ走り出した。
道は開けない。乱れた赤髪がその美貌を隠していた。ひとの隙間に体をねじ込んでどうにか進む。時間がない。喉元まで嘔吐の予感がせり上がる。
室内に飛び込み、手近なお手洗いに駆け込んだ。どちらの性別を選んだのか判別はつかない。識別する余裕もない。手洗い器に感情をぶちまけた。
透明な液体が陶器の上を跳ねる。水しか口にしてなかった。固形物を最後に食したのはいつだったか。
妖精の夢を見る。自らを奪われる夢を。
否定する自己がなく――自分の貌がなければ失わないと思っていた。
違った。
「……とっくのとうに〈失貌〉してたんだな」
無垢なる自己は、生まれたその日に貌を潰され殺された。特徴を失った平面に思うままの顔を描かれた。それすらも否定して、残った血だまりで仮面したのが今の自分だ。
粗暴な口調も態度も、母の理想である姉にはほど遠い。ただの反発が生み出した反応に過ぎない。
本当の〈私〉なんてどこにも残ってはいない。
顔をあげる。
鏡に映る赤を見て、ふと疑問が浮かんだ。
「なんで死んでないんだ、こいつ?」
夢はとっくに叶えた。生きる理由なんてないはずだった。
生きながらえたのは、未練があったからか。
「違う――死ねなかったんだ、怖くて」
手首に置いた刃を引けなかった。自らの内側に流れる赤が失われるのを恐れた。
だから、
「ようやく気づいたよ、天音――あたしは、おまえに救われたかったんだ」
鏡が音なく割れる。
莉彩の瞳のなかで。
鏡にはもう、だれも映ってはいない。
あまねく色彩が失われた。
「一度くらい、幸せになりたかったな」
鏡面落下。
すべてが赤い鏡に落ちる。
☆ ★ ☆ ☆
そして。そして。そして。
「遥ー!」
空閑遥は、懐かしい声に振り返った。
胸の当惑を置き去りにして、糸の引かれるように体が従う。
黒い髪が季節の予感にそよいでいた。怜悧なまなざしが少女を打ち抜く。
「かな、で……?」
視線の先で、天音奏が笑っていた。




