表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スターリィシネマ・ダイアローグ  作者: 綾埼空
Fairymirror Festival
14/50

化粧台の魔法

「鏡に映るのは、自分が見たいと思っている姿だよ」


 毎朝毎晩、鏡に向かって自分の名前を言う。

 そこに、だれも顔も知らない姉の姿が映るように。

 三面鏡に逃げ場はない。左右に目を逸らしても、自分の顔が見える――言葉を話せるそのときから繰り返してきた習慣に、疑問を持つことはなかったが。

 後方、鏡越しに笑顔の母が座っている。


「ねえ莉彩」


 振り返らない。ただ、鏡のなかの自分に向けて名前を繰り返す。

 莉彩、と。

 姉の名前を。


「生まれてきてくれてありがとう、莉彩。一度、莉彩がいなくなってるから、私はあなたがかけがえないと実感してるの。愛しているよ、莉彩。私のお腹から、ちゃんとでてきてくれてありがとう、莉彩」


 寝物語よりよっぽど聞いた言葉が首元に絡みつく。浮き上がってきた喉仏(、、、、、、、、、、)を押し込めるように、息を詰まらせる。

 何が正しいのがわからなかった。

 少なくとも、男子が女子の姿をしているのは排斥の原因になるとは知っていた。

 この環境が――母が普通ではないのも、理解した。父がいない理由も想像できた。

 けれど、わからない。

 自分が何者なのか。

 機能は男でも、精神は性別を決定していない。

 生まれたときから、死産した姉であると決められていた。

 それがあたりまえだった。世間の言う普通が、潔癖症の排他に感じる。

 美しくないものと掃き清められる。

 居場所はここにしかなかった。

 三面鏡に自分を見る。

 透き通る白い肌は、暗所に座る日本人形のよう。日焼け止めを欠かした日はなく、外で遊んだ記憶はわずかだ。屋外競技の体育はいつも見学で、修学旅行には一度も行ったことがない。

 輪郭はどこか骨張って、最近食卓から野菜が減った。そもそも栄養はサプリメント依存だ。カロリーだけが管理されている。

 腰まである黒い髪は漆のように艶やかで、癖ひとつない。

 要素を切り抜けば女性的で、母は姉の部品を作るのに成功していた。

 でも組み合わせた瞬間に、行方知れずの父が重なる。写真すら処分されてようと知れないが、身体的特徴にその影を見る。

 整形をできれば話は早かった。骨を削り肉を切り、肌を整えれば母の理想に描き変えられた。

 選択肢にあがらなかったのは、天然素材であることに母がこだわったからだ。莉彩なのだから、削ぐことも足すこともせずとも、自然と理想の姿に整っていくと信じていた。

 化粧台にメイク用品が並んでいる。

 自らを、自らで描き変える。

 それで母が笑うなら、それこそが成りたい姿だった。

 性別ではなく――姉に。

 莉彩に、成りたかった。

 だから化粧は魔法。祝福だった。

 今日、自分は描き変わる。

 今朝、精通をした。母には言わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ