第1章 最終話 「弾道ミサイルを迎撃せよ!!」
第1章最終話 「弾道ミサイル迎撃を迎撃せよ!!」
▣ 2015年4月13日 8時00分 ▣
▣ やくも艦尾掲揚台 ▣
「国旗掲揚!! 総員敬礼。」
先任伍長の声が艦内に響き、それぞれの場所で敬礼をする。
予定ならば三泊町の海自埠頭に帰還しているはずだったが、先の
ヘリのトラブルもあり予定が1日延長される事が正式に決定した。
SH-60Jと整備員を天売島に残して一路、訓練海域へと向かった。
▣ 艦長室 ▣
相変わらず寺井崎は自室で、報告書の整理をしていた。
しかし前より、棚がすっきりとしていた。
「あぁ、だいぶ片付いたな。今日は、1000からMD防衛の訓練だな。
試験艦にいたころ、映像だけは見た事があるけど・・・実際は初めてだ。」
この訓練は、イージス艦の必須というほどの訓練科目の一つとなりつつある。
数年前、自衛隊法82条の3「弾道ミサイル等に対する破壊措置」につけ加え、
迎撃精度維持を目的に、年2回以上の迎撃訓練を行う事が盛り込まれた。
その模擬弾道ミサイルの発射基地が、全国に5つ建設された。
北海道の第1防弾基地、小笠原諸島の第2防基、紀伊半島沖の第3防基、
呉基地50㎞沖の第4防基、そして佐世保基地45㎞沖の第5防基である。
今回「やくも」「しきしま」の両艦は、第1防基で発射された弾道ミサイルを
迎撃するのが主目的だ。
現在、自衛隊では3年前の「ちょうかい」の迎撃失敗以来、迎撃ミスは皆無
である。今回も、無事迎撃できるのか・・・。
▣ しきしまCIC ▣
CICは相変わらず、薄暗い中に海図を中央に映しだしていた。
「艦長、訓練海域までおよそ25㎞。同海域到着、0950予定。」
レーダー員が、海域までの距離を報告する。
「わかった。艦橋へ、巡航速度を維持せよ。副長、私は艦長室へ戻る。
後は頼んだから、到着10分前になったら連絡をくれ。」
「はっ。了解しました、副長指揮権を委任されました。」
副長がよく通る声で宣言した。
「よろしい。後は、頼むぞ!」
そう言うと、艦長室へ戻って行った。
▣ やくもCIC ▣
「副長、現在訓練海域付近で濃い霧が発生しているようです。」
気象士が、CICで副長に報告する。
「気象台からの発表は、何かあったか?」
「はい、先程この辺りの海域に「濃霧警報」が発表されました。」
副長の質問に淡々と、気象士が答えていく。
「わかった。ちょっと艦長室へ行ってくる。砲雷長、航海指揮を
一時委任します。」
「はい、了解しました。」
水下が了承の意を伝えると、今田はCICを出て行った。
▣ やくも艦内通路 ▣
「ご苦労様です!!」
艦内通路を通っていると、若い声がこだまする。
自衛隊は上下関係が厳しく、階級が少し上ならば敬う態度をとる。
今挨拶してきたのも、航海科の新任士官だ。
敬礼がピシッと決まって、なんだか様になっていた。
そうこうしている間に艦長室へ到着した。
「コンコン。すいません、今田です。よろしいですか?」
「はい。どうぞ入って下さい。」
ノックをすると、すぐに返答があり部屋に通された。
▣ やくも艦長室 ▣
「失礼します。」
そう言って、今田君が部屋に入ってきた。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
副長がここに来るのは大抵、何かあった時だからだ。
「いえ、訓練海域が濃霧で覆われていまして、出来ましたら艦長にCICへ
入っていただけたらと思いまして・・・。」
濃霧に覆われた海域での航海は、いつも以上の操艦技術を要する。大抵の場合
航海長がその任を負うが、まれに操艦が苦手な航海長も存在する。
つまり・・・そういうことだ。
「分かりました。一緒にCICへ降りましょう。」
了承の意を伝えると寺井崎は、残っていた事務資料を机の中にしまい艦長室の
外へ出た。
扉のところで指紋認証ステムに指紋をかざして、部屋をロックした。
▣ やくもCIC ▣
「艦長、入られます!」
入口の士官が、CICに通る声で報告した。
寺井崎がCICに入ったのを見て、水下が近寄ってきた。
「艦長、航海指揮権を返納します。」
そう言って敬礼した。
「航海指揮権、確かに引き継ぎました。」
そう言って寺井崎も自分の椅子に腰掛けた。
そこで、レーダー員がCICに報告した。
「訓練海域までおよそ10㎞。対水上見張りの強化を進言します!」
「進言を許可する。CICから艦橋、対水上見張りを厳となせ!!」
寺井崎が進言を受けて艦橋に見張りの強化を通達した。
そこで、砲雷長が口を開いた。
「艦長、只今よりブリーフィングを始めたいと思うのですがよろしいですか?」
「えぇ、いいですよ。」
「では、只今よりブリーフィングを行いますので中央海図に集まって下さい。」
水下の指示でCICの戦闘要員が中央の電子海図の付近に集まる。
「はい、では訓練の概要について説明します。ご存じの通り、MD防衛を行う
のですが、基本的にスタンダードでの迎撃に失敗するともう迎撃を行う事は
できません。なのでそれまでに決着をつける必要があります。」
弾道ミサイルは、打ちこぼしてしまうと大変な被害をもたらす危険が高い。
そのため、大変な練度を要する問題となりつつあるのだ。
こうしている間にも水下が話を進めていった。
▣ 同日10時00分 ▣
▣ 訓練海域 ▣
いよいよ、MD防衛の訓練が始まった。
最初は、やくもから始められた。
イージス艦は、最大探知距離450㎞以上・最大探知数200以上を誇る。
つまり、第1防基から発射された模擬弾道ミサイルは発射時点で既に、捕捉
していなければならない計算である。
捕捉から迎撃までのスピードが、これの分け目だろう。
▣ やくもCIC ▣
「1000時、対空目標探知。高速で本艦方向に接近、スピードから弾道ミサイル
と推定される。レーダー監視を厳となせ。」
砲雷長が、CIC全体を見回しながら指示した。
砲雷長に続いて、レーダー観測員が報告を急いだ。
「本艦迎撃範囲侵入予定、1005時。高速で本艦に近づく!!」
それには見かねて、砲雷長が落ち着かせた。
「観測員、落ち着け。落ち着かないと何もできないぞ~。」
どうやら落ち着きを取り戻したようだ。
時間は、無情に過ぎていく。
「弾道ミサイル、迎撃ラインに侵入。スタンダード発射管制始め!!」
砲雷長が令すると、前部甲板のVLSからスタンダードミサイルが発射された。
「ビシュュュュュュュュ・・・」
凄まじい爆風を残して空に舞い上がり、目標へ向かっていった。
「スタンダード目標に飛翔中。レーダーにその他目標なし。」
レーダー員が綿密に報告を繰り返す。
「インターセプト5秒前、4、3、2、1、マークインターセプト!!」
「ドン!!」
外で破裂音がした。
この模擬弾は迎撃すると、猛烈な光と破裂音を発するのだ。
という事は・・・。
「レーダ―より各員へ。弾道ミサイルのマーク消滅、迎撃成功です!!」
「わぁー・・・」
艦内に歓声が沸き起こった。
やはり迎撃できたというのは、練度が上がってきている証拠だからだ。
「艦長より各位へ、ご苦労だった。これより本艦は、天売島へ寄港後
留萌へ帰還する。現時刻を持って、第3哨戒配備を発令する。」
艦長の言葉でみんなが我に返り、自分の持ち場へと戻っていく。
先に天売島へ向かったやくもにのちに連絡が入った。
しきしまも打ちこぼすことなく、迎撃に成功したそうだ。
「(まぁ、あいつなら当然か・・・。)」
寺井崎は、心中そう思いながら艦長室へ戻って行った。
そして、「やくも」・「しきしま」両艦は合同演習を無事終了した。
二つの艦の航跡が、なんだか惜しんでいるようだった。
これで、第1章が終了しました。
次から第2章へと移っていくのですが、どうしようか考えていませんが数日中に
次話投稿を行おうと思いますので、どうぞお楽しみに。
それでは、また次回お会いしましょう。
さようなら・・・。