第1章 第6話 「空を舞うSH-60J(シーホーク)前編」
第1章第6話 「空を舞うSH-60J前編」
▣ 2015年4月11日 8時10分 ▣
▣ 天売埠頭第1バース ▣
艦尾に国旗が掲揚されて、また1日が始まった。
寺井崎は、艦長室で事務整理を片づけていた。
「カタカタ・・・カタタ・・カタカタ」
パソコンを打つ音が、本に囲まれている部屋を包む。
「えーと、今日の訓練は何だったかな?」
度忘れしてしまったのか、手元の紙に目を通す。
今日の日付を見ると、午前に発着艦訓練・午後から
傷病者搬送訓練が予定されていた。
やくもは、常時2機のシーホークを搭載しているので、
頻繁に発着艦訓練が行われる。
寺井崎がこの艦に着任してから、これが初めての訓練となる。
したがって、パイロットたちを見るのも初めてという事だ。
どんなパイロットがいるのだろうか?少し楽しみだ。
▣ 天売島沖10㎞ ▣
「こちら、やくも所属SH-60J。着艦許可を願います。」
SHからの通信が発着艦指揮所に入ってきた。
「こちら、やくも。着艦を許可します、北寄りから進入願う。」
「SH-60J了解。北側から進入する。」
こう言い終わると通信が切られた。
この通信を合図に、後方の転落防止柵が水平上に下げられる。
着艦時の事故を防ぐためでもあるが、こうしないと場所がないのだ。
「バラバラララ・・・・」
プロペラの回る音が徐々に近づいてきた。
その音を聞いて、発着艦管制員が甲板に出てきた。
▣ SH-60J機内 ▣
「木村教官、着艦目標まで残り2㎞です。」
「了解。河野3曹、気を抜くなよ。」
教官と呼んでいるのは、河野 遥3曹で、配属されたばかりである。
一方、教官と呼ばれているのは、木村 卓2等海尉で、配属されて
5年目になる。
「教官、残り1㎞です。正面に、管制灯を確認。」
「よし。機器類、異常なし。最終進入コース固定。」
木村は、黙々と機器類の異常がないかチェックしていく。
河野も、木村の技を盗もうと必死である。
そうこうしている間に、500mまで近づいていた。
「残り500m。進入コース問題なし、接近物なし。」
河野が報告すると、木村が了解と呟いた。
「バラバララララ・・・・」
プロペラの風圧で、近くの海が波立った。
「間もなくやくも。レーダー、機器類オールグリーン!!」
「了解。河野、八雲との通信回線開け。」
木村の合図で無線の回線を開いた。
「こちら、やくも所属SH-60J。着艦管制を要請する。」
返答はすぐに返ってきた。
「やくも了解。発着艦管制員の指示に従って下さい。」
「了解。」
これを最後に、甲板の管制員に無線が切り替わった。
「ヘリダウン、ヘリダウン。そのまま。」
絶妙なコントロールで徐々に艦へと近づく。
「ヘリダウン、ヘリダウン、キープ、キープ3・2・1着艦!!」
管制員の声と同時に、ヘリが甲板上に着陸した。
航海科員が出てきて、ヘリを甲板上に固定する。
「よし、着陸完了。」
思わず声が出たのか、あわてて口をふさいだ。
「よし、降りるぞ。河野、フライト記録機を持ってこいよ。」
「はい、分かりました。」
河野もあわてて返事を返して、レコードを抜き取った。
「ふーぅ。神経使うなぁ~。あぁ疲れた。」
そう言って、SH-60Jのブリーフィーリング室へと向かった。
▣ やくも艦橋 ▣
「いやぁ~きれいに着陸するもんだな。だれだ、パイロットは?」
寺井崎が聞くと、水下が答えた。
「あれは、木村 卓3尉ですね。今回の教官を務めています。」
手元の紙に目を落としながら答えてくれた。
「木村3尉か、覚えておこう。」
言った通り、すぐ頭に記憶した。
「午後の訓練は誰が操縦するのだろうか?楽しみが1つ増えたな~。」
そう言うと、艦長室に事務整理に戻っていった。
ご拝読いただきありがとうございます。
ご意見やご感想お待ちしております。