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護衛艦奮闘記  作者: SHIRANE
第6章 波乱
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第6章 第5話 『ダブルスタンダード』

◆ 2015年 8月 3日 15時30分 ◆

◇ やくも CIC ◇

「目標数4、速力55kt、距離34000、さらに近づく!」

「北から発射された目標は弾道ミサイルと確定。

 本艦迎撃射程範囲内までおよそ90秒!」

CICはひっくり返した様に、慌ただしくなった。

北朝鮮の弾道ミサイル発射に加え、無線警告を実施中の潜水艦より

魚雷らしきものの攻撃を受けたのだ。

日頃から訓練を積んでいる隊員達とはいえ、

弾道ミサイルと魚雷の両方を相手にする日が来るとは思わなかっただろう。

「北発射の目標情報の続報。目標数2。

 国内への飛翔は確実、以後ターゲットはアルファ及びブラボーと呼称!」

電測員の報告を受け、寺井崎と水下が目線を通わせ、水下が指示を飛ばす。

「システムをBMDモードに。CIC指示の目標、撃ち方始め!」

レーダーで捕捉された目標の値がSM-6に転送され、

発射管制システムとリンクし着々と発射の準備が進められていた。

「SM-6、リコメンドファイア、発射用意――撃て―っ!」

号令と同時に前後部のVLSから迎撃ミサイルが発射される。

CICの中に居ても、音と発射の振動が艦内を少し揺らす。

「魚雷位置とアスロックの状況!」

寺井崎が魚雷の位置を確認するため、今度は水測員に指示が飛ぶ。

「目標数変わらず4、速力55kt、距離23000、さらに近づく!」

「両方の交点でアスロックを自爆、海中を乱せ!

 速力そのまま、取舵一杯」

「了解! 取―舵一杯、よし!」

魚雷とアスロックが正面から交わるポイントで、

指示通り射撃管制員がアスロックを自爆させる。

海中が乱され、方向を見失った魚雷が相次いで爆発する。

「目標3反応消失、さらに目標1が本艦に近づく。距離11000!」

「よし、両舷全速、舵戻せ―!」

「全―速、もーどーせー!」

高速で迫る魚雷に隊員が息をのむ。

魚雷のコースから考えて、一歩間違えば推進機能の喪失は免れない。

「魚雷接触まで残り5秒、4、3、2、1……魚雷本艦を通過!」

「よし! 再度無線通告を開始、通信長は緊急電」

「了解!」

魚雷は何とかすべてかわす事に成功した。

防大での知識がこんな所で役に立つとは思わなかった。

「 (実戦で試すのは……無論始めてだが) 」

そうしている間にも、状況は刻一刻と変化していく。

「SM-6インターセプトまで10秒、9、8……2、インターセプト!」

正面のモニターには海図の他に、SM-6の状況も映し出されている。

「本艦のSM-6、目標アルファの撃破を確認!

 “ちょうかい”も、目標ブラボーを撃破。迎撃成功!」

2008年の迎撃実験に失敗した同艦が、雪辱を果たした形だ。

「さて、どう出る……」

寺井崎と水下は海図をにらみ、次の一手を待つ。

“専守防衛”を掲げる以上、防衛目的外の攻撃は重大な決断を迫られる。

つまり、撃つ事が出来ても、撃つ環境にないということだ。

しかし、それがこれまでの日本を守ってきた一因でもある。

寺井崎はこの先、難しい判断を迫られる事になるだろう。


◆ 2015年 8月 3日 16時00分 ◆

◇ ?????? ◇

「鱼雷是命中的吗?」*1 

「不,全子弹脱落了.目标依然健在.」*2

「是什么!」*3

「没办法。使用那个」*4

「好吗?」*5

「不介意。因为如果反正不被沉下,我们是结束所以。」*6

会話はそれっきりなくなり、当りは静かになった。


◆ 2015年 8月 3日 16時30分 ◆

◇ 首相官邸 ◇

北朝鮮のミサイル発射と不審船からの攻撃情報を受け、

閣僚がここ、首相官邸に集結していた。

安は一足早く、国民に情報を伝えるべく会見を行っていた。

と言っても、入ってくる情報はまだ少ないので伝えることも少ない。

安が会見を終え戻ってくると、全閣僚が集まっていた。

自席に座ると、野岸が奈川に説明を促す。

「奈川、説明を頼む」

「はい、それではスクリーンをご覧下さい」

奈川はスクリーンに画像を映しながら、話を進める。

「本日15時、北朝鮮から日本に向けて弾道ミサイルの発射を確認、

 海上自衛隊のイージス艦が全弾撃墜しました。

 同時刻国籍不明潜水艦の情報を受け、同海域に展開中の”やくも”、

 これが同潜水艦から攻撃を受け、現在対応中であります」

簡単に説明をすると、野岸が割って話に入る。

「ミサイルに関して、北のミサイルについて情報は入っているのか?」

「いえ、まだ詳しい事は不明です。北の公式発表もありません」

安が話を受けると、そのまま話を引き継ぐ。

「現在、ミサイル措置に関して海上警備行動が発令中でありますが、

 不審船対応においても同発令を求めます」

安の発言に、数人の閣僚が異を唱える。

「しかし、相手が既に攻撃を行っているという情報もあるが、

 海上警備行動の範疇で対応は難しいのではないか」

「これは自衛権の過度な行使に当たるのでは……」

閣僚の意見も割れ、なかなかまとまるに至らない。

そういう時に頼りになるのが、この野岸だ。

「安、後で会見を開こう。見解として相手の攻撃を受けている事から、

 現在対応中の”やくも”は正当防衛の範囲内で対応し、専守防衛の概念から

 逸脱しないように。また、付近の艦艇も現場に向かわせ、

 事態の早期解決を図るようにすること。奈川、通達を」

野岸の言葉で場はまとまり、会見の為に野岸は部屋を後にした。

残された閣僚も、野岸の見解を受け関係省庁に指示を出している。

一方、現場は新たな危機にさらされようとしていた。


◆ 2015年 8月 3日 17時00分 ◆

◇ やくもCIC ◇

「攻撃の次は、だんまりか……」

最初の攻撃からまもなく、2時間を迎えようとしている。

あれ以来音沙汰もなく、何の行動も起こしていない。

無線による通告を続けているが、一切返答もない。

「付近の艦艇の状況は?」

「はっ、1番近くの艦艇でも1時間はかかると思われます。

 先程から天候が悪化し始めておりますので、

 到着にはさらに時間が掛かる可能性もあります」

レーダーでは、依然として不明潜水艦を捕捉している。

集中力を切らす訳ではないが、隊員達も苛立ちを感じ始めている。

そうした時、通信長がCICに入ってきた。

「艦長、同不明潜水艦対応に海上警備行動が発令されました。

 本艦には、正当防衛の範囲内で対応し、専守防衛の概念から

 逸脱しない様にとの事です」

「了解した。インカムを全艦に」

インカムを手に取ると、艦内に令する。

「本艦は現在、国籍不明潜水艦から不特定の攻撃を受けた。

 これを受け1700時、同対応にも海上警備行動が発令された。

 なお、直近の艦艇到着まで1時間以上かかる可能性が高く、

 しばらくは本艦のみで対応に当たる。戦闘配備を継続したまま、

 対潜及び対空見張りを厳となせ。以上」

寺井崎は軽く伸びをし、再び正面のモニターに目線を戻した。


◆ 2015年 8月 3日 17時25分 ◆

◇ ?????? ◇

「准备好。」*7

「不要紧。」*8

「好,射击!」*9

その声と同時に、大きな音と振動が艦内から鳴る。

そして、徐々に遠ざかって行った。


◆ 2015年 8月 3日 17時30分 ◆

◇ やくもCIC ◇

不明潜水艦の攻撃からお互いにかなりの距離を取った。

初撃から2時間、ついに状況が動いた。

「高速飛翔物接近、目標数3。距離100000、更に近づく!

 以後、目標はアルファ、ブラボー、チャーリーと呼称!」

報告に、寺井崎がすぐさま令する。

「対空戦闘用意! スタンダード発射管制始め!」

「対空戦闘! スタンダード発射管制、CIC指示の目標!」

艦内にサイレンが鳴り、発射管制員が慌ただしく動き始める。

「発射管制、スタンダード発射準備よし!」

「発射用意! 撃ち方始め!」

「スタンダード、リコメンドファイア、撃て―っ!」

VLSからミサイルが打ち出され、真っ直ぐ目標に向かう。

正面のモニターには、移動していくミサイルが映し出される。

「インターセプト10秒前、9、8……スタンバイ!」

3つの内2つの光点にミサイルが交わり、そして消える。

「目標ブラボー及びチャーリーの撃破を確認。

 アルファが更に近づく、スタンダード防空圏を突破!」

「目標アルファ、短SAM防空圏まで残り10秒」

水下も状況を判断して、直ぐに指示を飛ばす。

「短SAM発射用意、CIC指示の目標!」

「発射管制短SAM、リコメンドファイア、撃て―っ!」

VLSから再び短距離用のミサイルが射出される。

戦闘の幕が再び開く。

寺井崎たち”やくも”のクルーは、まだ気づいていなかった。

この出来事が全て仕組まれ、そして歯車に巻き込まれている事に。

この戦闘の本当の目的とは……。


*第6章 第5話に登場した中国語の日本語訳*

*1 「魚雷は命中したのか?」

*2 「いえ、全弾外れました。目標は依然健在です」

*3 「何だと!」

*4 「仕方ない。あれを使え」

*5 「いいんですか?」

*6 「構わん。どうせ沈められなかったら、俺らは終わりだからな」


*7 「用意はいいな」

*8 「大丈夫です」

*9 「よし、撃て!」


昨日に引き続きまして、皆様いかがお過ごしでしょうか?

作者のSHIRANEです。

連夜更新するのは、小説を書き始めて以来久しぶりですね(笑)


さて、この話のモデルはお気づきの方も居られるかもしれませんが、

2004年の「漢級原子力潜水艦領海侵犯」です。

まぁ、この話の方がはるかに過激ですが(笑)

日本に対して脅威を募らせて久しい隣国ですが、

日々鍛錬を続ける自衛官の皆様には脱帽です。

次の話でこの章は完結し、番外編を1本挟んで、

いよいよ最終章に突入すると思います。

私が小説家になろうで書き始めて以来、1番長い連載作です。

それがもう少しで書き終わると思うと、

何だか少し寂しいですね。

まぁ、いつ完結できるかはわかりませんが(笑)


さて、残りまだ更新していない『アマオト』。

これも順次書いていきたいと考えています。

職業系の小説が多かった中で、自分では初めての試み"恋愛"です。

書きたいけど、中々手が出せなかったナンバーワンです。

読んで良かったと思って頂ける作品に、仕上げていきたいですね!


長々と書き綴ってしまいましたが、ここまで読んで頂き有難うございます。

暑い日が多くなってきましたので、

適度な水分補給と、適切な冷房利用などを心がけて下さいね。

くれぐれも、熱中症にはご注意を!

それでは、また次回の更新でお会いしましょう。


2014年7月17日 SHIRANE

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