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護衛艦奮闘記  作者: SHIRANE
第6章 波乱
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第6章 第3話 『対立の向こう側』

◆ 2015年 8月 2日 15時00分 ◆

◇ やくも CIC ◇

「それでは――ブリーフィングを行ないます」

寺井崎の宣言に続き、水下が話を引き継いで話し始める。

「まず、海図をご覧下さい。本艦の位置は現在―-ここ。

 紀伊半島沖を航行中ですが、明後日夕刻までに海域へ到着します」

水下から周辺海域の状況などの説明が一通り行われ、

寺井崎に話のバトンが戻ってくる。

「航海科員の状況はどうですか?」

寺井崎は、副長兼務の一宮に問いかける。

「はい、現在の所体調不良者などの欠員は報告されていません」

寺井崎はそのまま船務長の石山に目線を送る。

「船務科員も欠員はなしで、装備も異常ありません」

寺井崎は一度咳払いをすると、改めて全員の顔を1人ずつ見ていく。

「多くの演習を積んできました――しかし、これは訓練ではありません。

 私達が万が一ミスをすれば、その分を陸上部隊がカバーをするが、

 その分多くの国民を危険に晒してしまう事になります。

 各分掌とも連絡を緊密にし、すぐに行動できるようにして下さい!」

「「はい!!」」

寺井崎の訓示に全員が意思を改めて統一し、作戦に臨む。

後がいるから……そんな言い訳は通用しない。

「CICは指示あるまで哨戒直第2配備、他は第3配備を継続。

 発射確認後はCICから順番に戦闘配備を発令、

 15分後までに全分掌の戦闘配備を完了し、迎撃に備える事。

 また、一宮と水下は発令解除までの間CICに2交代で詰めるように」

寺井崎からの指示の後、ブリーフィングは解散した。


◆ 2015年 8月 2日 16時00分 ◆

◇ 尖閣諸島周辺海域 ◇

「こちらは日本国海上保安庁である。貴船は日本国領海内を侵犯している。

 速やかに領海外へ進路を変更し、領海内から退去しなさい」

尖閣諸島沖では本日7回目の領海侵犯対処に追われていた。

日本語・中国語・英語と交代で巡視船のスピーカーから引っ切り無しに、

領海外への退去を求めるアナウンスが継続されている。

航跡を描きながら、その内側を巡視船も一緒になって回る。

状況が改善されている様子はなく、何回も繰り返されているようだ。


◆ 2015年 8月 2日 16時10分 ◆

◇ りゅうきゅう 船橋 ◇

「取舵一杯――舵戻せ」

船橋は小刻みに出される指示で、操舵員は常に緊張状態だ。

「ホンマ……これが漁船やったらすぐ停船させたるのに…」

そうぼやいているのは船長の倉橋だ。

「船長、そんなこと言ったら士気に関わりますよ」

やんわり注意したのが船務長の飯弩だ。

「ふん、こんなんで士気が落ちる奴は船橋におらん。

 ホンマ…ぶつけてきたら公務執行妨害で持ってたるからな!」

確かに、倉橋が憤慨しているのも十分理解できる範疇だ。

日本の海の安全に一役を買っている海上保安庁が管轄する管区で、

他国の船舶が好き勝手しているのに手出しする事を許されず、

あまつさえ武器の使用さえも制限されている始末。

これで、どうやって海の安全を守れというのだろう。

「そう言われても、本庁から直々のお達しですから……」

本庁とは、東京都千代田区霞が関2-1-3に所在する建物だ。

そうしている間にも状況は刻々と変わっていく。

「ほら……面舵30―-戻せ」

海監はジグザグに艦を動かし、巡視船をかわそうとしているのか。

「海上保安庁の操船技術の高さをなめるなよ!」

海監から一定距離を取りつつも、決して離れない。

膠着状態が改善され、平穏な海が戻ってくるのは一体いつになるのか…。


◆ 2015年 8月 2日 19時00分 ◆

◇ 東シナ海上空 ◇

日本と中国の境界線上をまたぐように位置するここ。

尖閣諸島問題以前からも防空識別圏を越える機は少なくなかったが、

最近では1時間に1回…ひどければ、3・4回というのもある。

日本では、領空手前に防空識別圏を設定し、このラインを越え、

予め飛行計画の出ていない機は国籍不明機として対処する。

特に、戦闘機はマッハで飛ぶ機も多く、領空侵入してからでは、

時間的に間に合わない計算になる。

そのため、防空識別圏に接近する機があれば即座にスクランブルするのだ。

そして今日も……。

『 Rader Contact ! 230/75, ALT 16. 』*1

『 That‘s Your Target. 』*2

東シナ海の上空に浮かぶ3機の機影。

機の側面には日の丸と特徴的な星形が見えている。

『隊長――今日でどれだけ来るんでしょうね!?』

隊長と呼びかけたのは芹沢2尉、そして隊長は…。

『芹沢! 作戦行動中に私語は慎めと何回言わせるんだ!』

第83航空隊隊長、樋田3佐の怒鳴り声が無線越しに聞こえる。

芹沢は少しおどけたようにして、目標機に視線を戻す。

そして、いつものように目標機に対して警告行動を始める。

『 Attention! Attention! Attention!

 Chinese Aircraft, Flying over East China Sea.

  This is Japan Air Self Defense Force.

 You are now approaching to Japanese air domain.

 Take reverse course immediately! 』*3

航空自衛官になるまであまり英語が堪能ではなかった芹沢だが、

仕事上で使用する機会が多いので一念発起した。

今では、隊内でも英語に精通した隊員になりつつある。

そうしている間にも、広域管制官から無線が入る。

『目標領空侵入、領空侵犯機と判定された。警告を開始せよ!』

芹沢が無線を受け、先ほどより少し強い口調で警告を行う。

『 Warning! Warning! Warning!

  Chinese Aircraft, Chinese Aircraft.

 You have violated Japanese Air domain!

 You have violated Japanese Air domain! 』*4

警告行動中も、樋田は冷静に状況に目を配り、写真採取も行っている。

この機が領空外へと退去したのは、これから更に1時間後のことである。


◆ 2015年 8月 2日 19時30分 ◆

◇ 市ヶ谷 防衛省 ◇

「よろしくお願いします」

入口の警衛に許可証を見せ、敷地内に自衛隊の車両が入っていく。

「オーライ、オーライ、オーライ――ストップ!」

隊員達が数名降車し、設備を展開していく。

特徴的な斜め方向を向いたシルエットが、迷彩色の車両に映える。

ここ市ヶ谷の防衛省には、発令に伴う首都圏防衛を目的として、

PAC3が配備され、敷地内への設営を開始している。

発令に伴い、BMD(=弾道ミサイル防衛)統合任務部隊が編成され、

航空総隊司令官を指揮官とし、やくももこの指揮下に置かれる。

ミサイル防衛に対して三自衛隊が一丸となって取り組むことになる。

1時間ほど経つと、ほぼ設営が完了した。

各種装備の操作は航空自衛官が行うとはいえども、

丸腰で自衛隊の装備をそのままに晒す事は出来ない。

PAC3の周辺を、陸上自衛官が武装して警戒に当たる。

こうして、防衛省のPAC配備が完了した次第である。

一方その頃……。


◆ 2015年 8月 2日 20時30分 ◆

◇ 万博記念公園 ◇

「高射装備の展開を完了しました!」

1人の航空自衛官が陸上自衛官に報告している。

「了解しました。これより、周辺の警戒に当たります」

お互いに敬礼し、それぞれの持ち場へと戻る。

その道すがら……。

「おい! 鹿山――鹿山じゃないか?」

鹿山と呼ばれた人物が振り返り、声をかけた人物に視線を送る。

「お前は――あっ、園川じゃないか!」

お互いに来ている服は違えども、同じ自衛官。

園川は陸上自衛官、鹿山は航空自衛官である。

2人は同期入隊で、前は同じ駐屯地に勤務していた。

「久しぶりやけど、まさかこんなところで会うとは思わんかった…」

「こっちもや! 元気そうで何より」

言葉を少し交わすと、再び持ち場へ向かって小走りになる。

陽は沈んでも、昼間に蓄えた熱が気温を保っている。

ただ一つ……星が少し綺麗に見えたような気がした。


◆ 2015年 8月 2日 21時30分 ◆

◇ ??? ◇

「…で……なので」

電話で話しているのか、声が少しだけ漏れている。

「だから……を融通してやるから……をしてくれれば」

とある部屋にはその人以外は居らず、電話の声だけが響く。

クーラーが回っているのか、冷たい冷気が部屋の中を満たしている。

「あぁ……だから……しくじったりしたら……だから」

そう言い切ると、電話を元あった所へ戻した。

椅子に深く腰掛け、タバコに火を点ける。

タバコの煙を吐き出すと、部屋が一瞬真っ白になり、直ぐ換気される

「それにしても、簡単な交渉だ…」

そうつぶやき、ふと天井をぼんやりと眺める。

タバコの火を消すと、その人は部屋を出て行ってしまった。

建物の外では車や人波が引っ切り無しに流れ、

ビルの灯りが嫌に目をチカチカとさせてくれる…そんな夜だった。


【小説に登場した英語の和訳 ※若干、異なる場合もあります…】


*1『方位230度、距離75マイル、高度1万6千フィートを

   飛行する目標をレーダーにて捕捉した』


*2『それが目標機である。目視確認を急げ』


*3『東シナ海上空を飛行する中国機に通告する。こちらは航空自衛隊である。

   現在貴機は日本の領空に接近中である。直ちに逆方向に変針せよ』


*4『中国機に警告する。貴機は日本の領空を侵犯している』


改めて――新年あけましておめでとうございます。

作者のSHIRANEです。

第6章 第3話を公開しましたが、この話は自分の中で、

何か楽しく書いた…そんな気がする回でした。


さて次回の更新ですけど、多分『アマオト』になるかな?

登場人物などを整理しておきたいですし、まぁお楽しみに!

最後に、今年1年皆さんを楽しませられるよう頑張りマスので、

応援を宜しくお願いします!

では、また次回の更新でお会いしましょう。


平成26年1月9日 SHIRANE

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