表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
護衛艦奮闘記  作者: SHIRANE
第6章 波乱
43/49

第6章 第2話 『平穏を望んで』

このお話には、一部事実と異なる内容が用いられている場合があります。

出来るだけ事実に基づくように勤めて参りますが、

その点をご了承頂けますと幸いに思います。

◆ 2015年 8月 2日 3時25分 ◆

◇ やくも CIC ◇

当直の引き継ぎまで残すところ5分となった。

その頃、水下はラッタルを勢いよく駆け下りていた。

「しまったな――何でCICに資料置いてきたかな…」

水下は艦橋で当直士官として詰めている時に、ふと手元が軽いのに気付いた。

持っているはずの資料類をどうやら、CICに置き忘れてしまったようだ。

夜風に当たるからと外に出ていた、次に当直の石山に早めに引き継ぎを頼み、

こうして今CICに向かっている最中という訳だ。


「砲雷長、入られます!」

入口付近に居た当直の若い海曹が、CICに入室を告げる。

入ったところで立ち止まって敬礼をし、直ぐに持ち場へ戻る。

「どこに置いたかな…」

水下がきょろきょろと室内を見回していると、ある隊員が横に立った。

「砲雷長、これですか?」

手に持っていたのはバインダーと20枚程度の資料束だった。

「ありがとう! 重いでしょ、そこに置いていいよ」

「そうですか…では失礼して」

資料の束を置くと、改めて水下に向き直る。

「川星3曹だよね?」

川星と呼ばれた隊員は不動の姿勢を取り、はいと返事を返してくる。

「本当にありがとう、助かったよ」

「いえ、それと別件ですが…艦長が至急艦長室まで来るようにと…」

水下は少し首を傾げて、自分の頭の中を整理する。

「その連絡が入ったのはさっき?」

「はい、本当についさっきです。お手数ですが、よろしくお願いします」

「わかりました、では引き続き当直に戻って下さい」

「了解しました!」

川星を持ち場に戻すと、目の前の資料を胸元に抱えCICを後にした。


◆ 2015年 8月 2日 3時40分 ◆

◇ やくも 艦長室 ◇

「失礼致します!」

部屋をノックしてから、扉を押し込んで部屋に入る。

「あぁ、当直明けに悪かったな…まぁ、そこに座ってくれ」

室内には、新しく着任した副長の一宮が既に来ていた。

一宮の横の椅子に腰かけ、寺井崎を目線で追う。

寺井崎はというと…2人にコーヒーを用意していた。

水下と一宮の前にコーヒーを置くと、寺井崎も椅子に腰を下ろした。

「改めてだが、当直明けで集めて悪かったな。

 水下、今の警戒監視の状況を簡単に報告してくれるか」

寺井崎からそう振られると、水下は先程までの当直時の状況を話し始める。

「私が当直士官を引き継いだ時から、大きな行動変化は認められません。

 常に本艦レーダーが警戒態勢を継続し、不測の事態に備えています」

寺井崎は2人の方に姿勢を正すと、ゆっくりとした口調で話し始めた。

「これはあくまでも俺の勘だから、あまり気にせずに聞いて欲しい。

 この任務に就いてから、何か嫌な胸騒ぎがするんだ…」

水下は複雑な心境で、この話を黙って聞いていた。

何せ、この勘が当たって先の戦闘が実際に起こった訳だ。

「2人は悪いが、今回の作戦中は私と一宮、そして水下で交代していこう。

 誰かが不測の事態に指揮を取れるよう、各々心構えはしておいてくれ」

無言で頷くと、冷めかけているコーヒーを一気に呷って部屋を後にする。

水下は当直明けで、一宮は当直待機の状態である。

「やっぱり、2時間ばかり寝ようかな…」

水下は自身の区画へと足を向け、少しばかりの仮眠を取る事にした。

艦内は静まり返り、足音が妙によく響いている気がした。


◆ 2015年 8月 2日 10時20分 ◆

◇ 内閣官房長官 執務室 ◇

「この資料のここだけど……」

安は12時から予定されている会見資料の作成に追われていた。

「はい、ここはこの様な背景からですね…」

一緒に作成に当たっているのは、秘書官の東雲 梢。

幼少からの幼馴染で、今では安の右腕として支えてくれる大事な人だ。

「では、ここをこのようなニュアンスにしたらどうでしょう?」

「そうしようか」

阿吽の呼吸で、予定していた時間の半分以下で資料作成を終えてしまった。

資料を自分のデスクに置き、一息ついていると、梢がコーヒーを入れてくれた。

「いつも本当に悪いね…休みも十分とれていないでしょ?」

「そんなこと、気にせんといて! アンタと居れてこっちも楽しいし!」

仕事をしている時は普通の標準語を使うのだが、

プライベートになると、地元の大阪弁に変わってしまうのが特徴的。

「そう?」

「うんうん、任しといて!」

安の気が休まるのは、家に居る時と梢と話している時だけだ。

それだけ大きな存在で、お互いに信頼し合っているからだろうか。

5分ほどの休憩を終えると、野岸の所へ向かう為に執務室を後にした。


◆ 2015年 8月 2日 10時50分 ◆

◇ 内閣総理大臣 執務室 ◇

部屋を3回ノックして、執務室の扉を内側に開く。

「失礼します。会見資料が出来ましたので、お持ちしました」

野岸は、机に積まれた書類に目を通していた。

ゆっくりと立ち上がり、応接席に安を迎え入れる。

「ご苦労様。まぁ、座ってくれ」

安は資料を応接卓に野岸の前と自分の前に1部ずつ置き、椅子に掛ける。

秘書官がコーヒーとお茶菓子をすっと置いて、静かに去っていく。

「この発令を実際に出すことになるとは、想像の域を出なかったが…」

野岸は感慨深げに会見資料に目を落とす。

「これを提言されたのは、時の防衛大臣であった野岸さん…でしたね」

「あぁ、将来必要になるとは考えていたが、こんなに直ぐとは」

安はコーヒーに口をつけると、自身も資料に目を通し始めた。

資料に目を通しながら、自然と野岸が口を開いた。

「なぁ安、俺はこの一連の北の流れが不自然で仕方ないんだ…」

「不自然とは?」

安が資料から目を離すと、野岸は資料を置いてこちらを一点に見つめている。

「手際と言うか、これまでは北から衛星打ち上げと称する警告が入っていたが、

 今回は何も音沙汰がない。加えて、北と中国が連動している節がある。

 アメリカからも北の発射準備は最終段階であるとの見方が強い。

 北の発射に合わせて、尖閣周辺で何か動きがあるかもしれない」

安は資料を応接卓に置き、少し考えてから話し始める。

「私も確かに、今回の北の動きは性急…むしろ、誰かが画を描いている、

 そんな感想を覚えます。護衛艦を四国沖に移動させておきましょうか?」

「そうしよう、加えて海上保安庁にも警戒を促しておいてくれ」

「了解致しました、直ぐ手配しておきます」

そうこうしている間にも、定例会見の時間が来てしまったようだ。

こうして話している間にも資料の見分はちゃんとしていたようで、

お互いに服装を正して安は会見室へ、野岸は控室待機である。


安は野岸の執務室を後にすると、隣で待機していた梢と合流する。

「東雲、この内容に関して関係各所に手配しておいて」

「わかりました、直ぐ手配しておきます」

会合時に簡単にまとめた紙を梢に渡しておく。

梢は段取り上手なので、直ぐにでも防衛省と海上保安庁に通達がいく。

「……。よし、行くか!」

自分の中で気合を入れ直し、会見室へ続く扉を内側に押し開いた。


◆ 2015年 8月 2日 11時20分 ◆

◇ 首相官邸 記者会見室 ◇

記者会見室の中は、いつもより人が多いように感じた。

キー局は相変わらずなので、恐らくフリーが多いのではないだろうか。

いつもと同じ手順で国旗に一礼し、壇上に立つ。

記者にも一礼し、一呼吸置いてから話し始める。

「本日もお忙しい所お集まり頂きましてありがとうございます。

 私から閣議の概要に関してお話を申し上げます。

 本日は、千葉総務大臣から『平成27年度消防白書』…」

安が話し始めると、記者たちがパソコンやノートにメモを取っている。

記者会見室は静かで、安の声とキーボードを叩く音が響いている。

「……野岸内閣総理大臣から防衛案件に関して1件ご報告させて頂きます」

安が話す内容を話し終えると、そう締めくくり一礼して部屋を後にする。

入れ違いに野岸が会見室に入り、一礼し壇上に上がる。

「私から、北朝鮮動向に関するご報告を1件させて頂きます」

そう前置きをして、手元の会見資料に目を落とす。

 「昨日、米大統領・国防総省より北朝鮮のミサイル発射に関する情報を受信、

  確認を致しました。その件につきまして、昨日付で防衛省・自衛隊に対し、

  自衛隊法に基づく『ミサイル破壊措置命令』の発令を致しました。

  発令に伴い、海上自衛隊のイージス艦は日本海・太平洋に展開しております」

そこで会見室内で手がいくつか挙がる。

司会の職員が指名し、指名された記者が話し始める。

「朝日新聞の横寺です。野岸首相、宜しくお願い致します。

 昨日発令という事ですが、なぜ昨日中に会見を開かれなかったのですか」

当然起こりうる質問として、既に安が回答例をメモしてあった。

「信憑性の高い情報ではありましたが、防衛省に情報の再精査を命じたためです。

 自衛隊には万が一に備え、早急に発令いたしましたが、国民の皆様にご報告が

 遅れましたことに関しまして、改めてお詫び申し上げたい所存であります」

記者が座ると、挙手が落ち着き話を先に進める。

「尚、パトリオットミサイル―通称PAC3を各地に配備致します。

 本日中に、防衛省・朝霞・習志野・大阪・沖縄に展開し、

 破片等が日本に落下する場合は随時迎撃措置を行います」

そこで記者からまた手が上がる。

司会に指名され、先ほどと同じように話し始める。

「フリーの飯塚と申します。野岸首相、お願い致します。

 配備される場所を、もう少し詳細にお話頂けますでしょうか」

これも安が先回りして内容をメモしてある。

「東京都市ヶ谷の防衛省、埼玉県朝霞市の朝霞訓練場。

 千葉県八千代市の習志野演習場、大阪府吹田市の万博記念公園。

 沖縄県那覇市・南城市の那覇基地の計5基配備致します。

 首都圏に3基、関西圏に1基、沖縄に1基配備し、

 イージス艦とPAC3により日本国民の安全を守る所存であります」

会見場は記者が慌ただしくキーボードを打つ音が響き、

カメラのフラッシュも目が眩むほど焚かれている。

時間的には、夕刊差し替えが間に合うか…。

ニュース番組のトップに持ち上がる事は間違いないが、

どちらにせよ明日の朝刊を賑わせる事を間違いなさそうだ。

同時に、自衛隊反対の声も上がる事もあるが…。


◆ 2015年 8月 2日 13時00分 ◆

◇ やくも 艦橋 ◇

「艦長、総監部から至急電です」

艦橋で航海監視に当っていた寺井崎に通信長が書類を持って来た。

「えーと……」

A4用紙一杯に記された内容を頭の中で整理し、目で追っていく。

要約すると、展開先を四国沖から沖縄周辺の東シナ海に変更する旨である。

通信長を配置に戻し、インカムを手に取り令する。

『艦長から総員に達する。現在、本艦は四国沖へ向け航行中であったが、

 総監部からの命令により沖縄・東シナ海への展開を命ぜられた。

 よって、周辺海域まで哨戒直第2配備からCICを除き第3配備へ移行、

 CICは引き続き哨戒直第2配備を継続し警戒監視に当たる事。

 尚、各科所属長は1500からCICにてブリーフィングを行う。

 該当時刻までにCICに出頭する事、以上』

インカムを元に戻すと、放送を聞いていた科員がそれぞれ持ち場に戻る。

「まだしばらく――長い航海になりそうだな……」

寺井崎は一言つぶやき、艦橋の外へ続く扉をくぐった。

海は穏やかだが、時折激しく波打つ仕草を見せ、波間に寄せては消えていく。

曇った天気の合間に晴れ間が差し込み、海を明るく照らす。

しかし、すぐ雲に陰ってしまった…。


気付けば年の瀬…2013年も残す所10日と少しですね……。

皆様いかがお過ごしでしょうか?

覚えておられますよね…作者のSHIRANEです。


更新する、更新する、そう言っていましてこうなりましたw

本当に申し訳ない、何かと書けないでおりました…。

今何かと問題の多い内容を手掛けようと一念発起したのが8月後半、

そのない様に依然としてたどりつけていないこの現実。

こんなつたない文章でも待って読んで頂いている読者の方々、

本当にありがとうございます。

少しずつですが、書き進めていきます!


さて今後の更新予定ですが、

友人と少し前にこんな話がありました。


「おい!いつになったら『僕役』の続き書くんだよ?」

「うん? 『僕役』って何?」

「『僕が役員でもいいんでしょうか』だろう?

 続き読みたいから早く、完璧に、全壁に書け」


というような会話がありまして、更新しようかと思います。

それと並行して『護衛艦奮闘記』、新作小説も書いていきたいなー。

何にしましても、皆様に楽しんで頂けると私も嬉しいです^^


いつも感想や評価をしていただいております皆様。

本当にありがとうございます!

これからも自分も楽しみながら書いていきたいと思いますので、

お付き合い頂けますと嬉しく思います。

それでは、次回の更新でお会いしましょう…。


平成25年12月19日 SHIRANE


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ