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護衛艦奮闘記  作者: SHIRANE
第6章 波乱
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第6章 第1話 『波乱の幕開け』

◆ 2015年 8月 1日 6時00分 ◆

◇ 某テレビ番組 ◇

「おはようございます。6時のニュースをお伝えします」

最初のニュースという前置きの後、画面が切り替わる。

「本日午前4時頃、尖閣諸島沖に中国の海洋監視船の領海侵入が確認されました。

 11管区海上保安本部によりますと、現在も巡視船と膠着状態にあるとの事です」

テロップが一頻出終ると、次のニュースへと移っていった。


◆ 同日 6時30分 ◆

◇ 11管区巡視船『りゅうきゅう』 ◇

「海洋監視船の航路に変更なし!依然、領海侵入を継続中」

「警告を継続、海洋監視船の行動記録を継続せよ!」

りゅうきゅうの艦橋内は大慌て…という事はなく、いたっていつも通りであった。

その理由というのも、この領海侵犯が先月から20数件に上るからである。

海上保安庁も事態を重く受け、各管区より巡視船が数隻応援に来ている。

それに加え、海上自衛隊のP-3C哨戒機が警戒を続けている。

海洋監視船(=海監)の領海内への侵入が判明したのが午前4時頃のこと、

現在2時間30分が経過しているが未だに退去の兆しは見えない。

海監に並走する形で、巡視船が領海外へ退去するように警告を続ける。

「こちらは日本国海上保安庁である。貴船は日本国領海内を侵犯している。

 速やかに領海外へ進路を変更し、領海内から退去しなさい」

日本語だけではなく、中国語でも同様の警告が続けられている。

これが漁船であれば違法操業の疑いで停船させる事も不可能ではないが、

海監は一応「中国」の保有する官船である。

カードを切り間違えれば、国際問題に発展する可能性も否めない。

事実、本庁から銃器の取り扱いには厳重を期すようにと通達が入っている。

この場合の厳重とは、「撃つ機会でも撃つな」という方が正しいのだが。

巡視船にできる事は、こうして警告を続ける他ないのである。

この警告は、海監が領海を退去した11時00分まで続いたのであった。


◆ 同日 11時25分 ◆

◇ 内閣総理大臣執務室 ◇

野岸は、山の様に積み上げられた書類に目を通していた。

これは全て、内閣に関連する書類である。

内閣の長たる内閣総理大臣は、全国務大臣を統括する立場にある。

そのために、任免権が与えられているのであるが…。

やっとのことで1束目の書類に目を通したところで、部屋をノックする音が響いた。

「空いているよ!」

入ってきたのは、官房長官の安 郁であった。

律儀に扉を閉めてから一礼し、野岸に近づいてきた。

「何かあったのか?」

野岸は書類に目を向けながら、そう投げかける。

「実は、アメリカより先程連絡がありまして…」

野岸は書類を捲る手を止めて、顔を上げる。

「アメリカ? 沖縄関連の続報でも入ったのか?」

沖縄関連で揶揄されているのは、普天間基地の問題の事である。

「いえ、そうではなく北朝鮮に関するミサイルの情報が回ってきました…」

「ミサイル…そんな情報は上がっていないな」

これまでに確認した書類にはなかったはずである。

「先程でしたので、首相への報告はこれが最初という事になります」

野岸は少しだけ思案して、安に次の指示を与える。

「12時30分から安全保障会議を招集する。それと、各幕僚長にも召集を」

「了解致しました!」

安は一礼をすると、調整の為首相執務室を後にした。

また1人となった野岸は、書類の手を止めて呟いた。

「何で…こんな時に行動をするのだろうかね…」

残っている資料に急いで目を通し、次の安全保障会議の準備に取り掛かった。


◆ 同日 12時00分 ◆

◇ やくも 艦橋 ◇

「艦長、入られます!」

作業をしていた隊員達が立ち止まり、扉の方を向いて敬礼をする。

寺井崎もそれに倣い、艦橋中央の自席へと足を進める。

艦はというと、今何処に居るのか…。

実は、横須賀港のドックで最終点検を受けている最中であった。

寺井崎も艦に入るのは2週間ぶりのことである。

自席付近に置かれている双眼鏡を手に取り、少し懐かしく感じる。

前回の戦闘から4週間ほど経っているが、決して少ない被害ではなかった。

艦橋ガラスは全損し、副長が重傷を負った。

そして……。

「失礼致します。本日付で『やくも』副長に任ぜられました一宮 厳です。

 至らぬ点も多々あると思いますが、ご指導の程宜しくお願いします」

副長の今田3佐が艦内勤務から療養のため、内務へ異動となった。

内務異動と入替に、副長への人員補充が行なわれたわけである。

新たな副長を迎え、今日の夕刻には全ての点検が完了する予定だ。

寺井崎は双眼鏡をいつもの場所へ納め、一宮と共に艦を後にした。


◆ 同日 12時30分 ◆

◇ 総理会議室 ◇

急を要する懸案事項は「首相官邸 総理会議室」で行われる。

高級だが落ち着いた色合いのテーブルを挟んで、11人の人物が座っている。

「それでは、只今から安全保障会議を開始します」

中央に座って開会を宣言したのが、内閣総理大臣の野岸である。

「では、私の方から。今回は、北朝鮮のミサイルに関してですが…」

その左側に居るのが、官房長官の安。

「その件に関してですが…」

そして、防衛大臣の奈川である。

この他に総務・外務・国交大臣、国家公安委員長が主要なメンバー。

加えて、今回の事案対処の為に統合・陸上・海上・航空幕僚長が参加している。

「では、自衛隊法82条3項の対処という方向でよろしいでしょうか」

安が改めて、主要な委員に対して多数決をとる。

「問題ありません、即座に対応できるように準備を進めましょう」

こう返事を返したのは国交大臣の池澤だ。

池澤が差しているのは、主に海上保安庁の方だろう。

他の委員に目を向けてみても同意見の様である。

「では…総理、ご命令をお願い致します」

21の瞳が一様に野岸の方を注目する。

野岸は1度大きく深呼吸をしてから、落ち着いた口調で令した。

「現時刻を以て、自衛隊に自衛隊法に基づくミサイル破壊措置を命ずる!」

野岸の命令を受け、各幕僚長は調整の為部屋を後にする。

「これで、安全保障会議を終了します、お疲れ様でした」

野岸の言葉を合図に、残りの委員が部屋を退室して執務室に急いで引き返した。

特に、安と奈川は記者会見資料の作成に忙殺されることだろう。

自衛隊で制定後初となる「ミサイル破壊措置命令」の発令であった。


◆ 同日 13時30分 ◆

◇ 自衛艦隊司令部 ◇

神奈川県は横須賀市、海上自衛隊横須賀基地の船越地区にそれはある。

自衛艦隊司令部の他、護衛艦隊、潜水艦隊などの司令部も常駐している。

そして、寺井崎はこの司令部庁舎の前に立っていた。

遡ること30分ほど前…。

やくもの艦内を回っている時に、司令部より呼び出しを受けた。

艦長室で制服を着直し、急いで司令部に出頭した…という成り行きである。

「何かやったかな…」

ここ数日の出来事を頭に思い浮かべてみる。

「いや、何もない…はずだ。覚悟決めて、行ってみるか」

庁舎入口の警衛詰所前でIC認証を受けて、中へと足を進める。

庁舎の中は自衛官と防衛省の一般職員が慌ただしく動き回っている。

それらを横目に、階段を数回上り、司令官室のある階にたどり着いた。

3回ノックをして部屋に入ると、中にいた自衛官に司令官執務室へと通された。


◆ 同日 13時40分 ◆

◇ 自衛艦隊司令部 司令官執務室 ◇

「失礼致します!」

制帽を取り、室内様式の敬礼を部屋中央の人物へと向ける。

「あぁ、よく来てくれた。まぁ…そこに掛けなよ」

「ありがとうございます!」

応接椅子にその人物が座るのを見てから、寺井崎も椅子に腰を下ろす。

第44代自衛艦隊司令官、杉江 聖二海将。

護衛艦隊司令官を歴任し、優しい面持ちの男性…というのが寺井崎の第一印象である。

第一印象というのは、そうそう司令官と会う機会などないから…というのは別の話だ。

「さて…寺井崎君は、着任してから多くの出来事があったね…」

「はい、とても濃い時間であったと思います」

それはさておいて、と前置きをして寺井崎の前にA4サイズの紙束を置いた。

紙束の表紙には「部外秘」の印の下に、「MD防衛実施要領」と書かれている。

「一度は見たことがあるかな?」

「はい、着任前に資料として戴いたのを覚えています」

MD防衛、すなわち「ミサイル防衛」は敵国のミサイル等から国民を防衛する事を指す。

日本のMD防衛構想は、1998年の北朝鮮の中距離弾道ミサイル発射が契機である。

海上でイージス艦から射出されたSM-3等で第1段階の迎撃を試み、

万が一迎撃に失敗した場合、陸上配備のPAC-3で迎撃するという仕組みだ。

「先刻、海上幕僚長の方から連絡が入り、ミサイル破壊措置命令が発令された。

 直ちに海上配備の準備を整え、整い次第展開するようにとのことだ。

 やくもの最終点検は本日中に完了するという事でいいのか?」

寺井崎は少し姿勢を正して、杉江に向き直る。

「はい、本日夕刻には全ての点検が完了するとの報告が入っています」

杉江は一度咳払いをして、寺井崎に令する。

「よろしい。では、寺井崎2佐」

「はい!」

寺井崎は立ち上がり、椅子の横で不動の姿勢を取る。

「寺井崎2佐以下、やくもにミサイル破壊措置命令に伴う対処を命ずる。

 展開場所は太平洋側、点検完了後直ちに出港し警備に従事せよ。

 尚、本件は自衛隊法82条3項に伴う命令である」

「了解致しました。本艦は点検完了後、直ちに太平洋側に展開します!」

「よろしい、では頼むよ」

退室する前に室内中央に向き直り、室内様式の敬礼をして部屋を後にする。

庁舎を出ると、目の前の波間に光が反射してきらきらと光っていた。

光に目を少し細めて深呼吸をすると、いつもの潮の香りが鼻をくすぐる。

「さて、一度戻るか…」

寺井崎はやくもの方へと歩き始めた。


◆ 同日 17時00分 ◆

◇ やくも艦橋 ◇

やくもは点検を受けていたドッグを後にして、手近の桟橋へと艦を寄せた。

寺井崎は艦橋のインカムを手に取り、慌ただしく動く艦内に指示を飛ばす。

『艦長より総員に達する。本艦はミサイル破壊措置命令発令に伴い、

 準備が整い次第出港し、太平洋側へ展開し警戒態勢を取る。

 各員出港準備、艦内警戒閉鎖並びに航海当番配置に!』

副長の一宮が再度復唱し、艦内が更に慌ただしさを増す。

艦橋には艦内各所から休む間もなく連絡が入る。

艦内警戒閉鎖が全て完了し、航海当番が配置に就くと出港用意の号令が掛けられる。

『出港用意! もやい放て、両舷前進微速』

寺井崎の号令と共に艦内にラッパの音色が響く。

『出港・航海保安部署発令、各員警戒を厳に!』

水道へと出ると、一般船舶との事故を防止するため保安部署が発令される。

見張り台から、近くを航行する船舶の情報が逐一艦橋にあげられてくる。

暫くすると水道を抜け、太平洋上へと出た。

『出港・航海保安部署別れ』

保安部署が解かれ、寺井崎は改めてインカムを取り艦内令する。

『指定海域まで艦内哨戒第2配備、第2直哨戒員は残れ』

艦内に哨戒第2配備が発令され、当直員は2交替で配置に就く。

「航海指揮を航海長に委任、所定海域まで指揮を」

「航海指揮、委譲されました!」

航海長に指揮権を委任し、寺井崎は艦長室へと1度戻る。

やくもが出港した時は晴れていたのに、今は曇天の空模様だ。

寺井崎は艦橋を後にし、艦長室へ続く通路を歩いて行った。


皆様、お久しぶりです…。

作者の SHIRANE です。

公務員試験の方が慌ただしく、何かと更新できずにいました。

私の進路の話はさておきまして、

いよいよ第6章へと話は移り変わります。

緊迫を強めつつある尖閣諸島情勢と隣国感情。

この6章では、そうしたことを描ければ…と思っています。


また、作品に対するご意見も頂いております。

勉強不足な所もありまして、識者の皆様にはご迷惑をお掛けしております。

今後少しずつでも改善して参りますので、

これからもお付き合いいただければ…と思います。


他の小説の更新予定を少しだけ…。

「僕が役員でもいいんでしょうか?」は、近日中更新したいと思います。

護衛艦奮闘記も、少しずつ書き進めていきたいと考えています。

大変長らく更新が遅れたことに対しお詫びするとともに、

これからもお付き合いを頂ければ幸いに思います。

では、次回の更新作でお会いしましょう…。


平成25年11月 4日 SHIRANE

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