第5章 第3話 「所属長出頭」
今回よりあとがきで、ミニラジオを行います!!
よければ最後までご覧下さい・・・。
第5章 第3話 「所属長出頭」
▣ 2015年6月20日 10時00分 ▣
▣ やくも 艦長室 ▣
艦長室には、それぞれの所属長が出頭していた。
やくもは、他の自衛隊艦艇と同じように7つの部署で成り立っている。
戦闘の要「砲雷科」、電子機器の要「船務科」、航海の要「航海科」、
ダメコンの要「機関科」、艦内の要「補給科」、衛生の要「衛生科」、
航空の要「飛行科」の7つの部署で、やくもにはそれぞれに長がついている。
他の艦艇では、いくつかの科長を兼任するケースもある。
やくもは、旗艦機能を効率的に運用出来るようにという目的があるらしい。
・・・話を艦長室に戻そう。
この中で一番年輩の飛行科の木村が、寺井崎に報告する。
「飛行科所属、木村3尉以下全所属長出頭しました。」
「ご苦労様です、まずそれぞれ書類を渡しますね。」
寺井崎は予め刷っておいたA4サイズの紙を所属長に手渡していく。
紙のタイトルは「臨時の上陸期間告知書」と書かれているようだ。
「皆さんもご存じの通り、本艦は6月28日より先遣隊として派遣されます。
それに伴う、臨時の上陸期間の要望書を吟味した結果で、こうなりました。
所属長は部署に戻り次第、各科員に告知し上陸を行って下さい。」
紙を目で追っていくと、各科員が1回は上陸が出来るよう設定されている。
「艦長、あれだけの資料を昨日だけで作られたんですか?」
水下は、昨日持って行った束になった要望書の事を言った。
「あぁ、まぁ・・・見てまとめるだけだからね。」
平然と言ってのけているが、これは骨の砕ける・・・折れる大変な仕事だ。
「では、各所属長は部署に戻って下さい。
尚、告知書に基づいてこの後の1100から順次上陸を始めて下さい。
以上です。ご苦労様でした。」
寺井崎が室内礼をすると、他の科長もそれに倣う。
そして、また1人1人と部屋を後にして寺井崎だけが残った。
「さて、書類整理も終わったし艦内を周ってみるかな・・・。」
棚に入った制帽を手に取って頭にかぶせると、机からICを取り出した。
主な部屋へ入るには、このICが必要になる。
総監部などの全ての施設では、数年前に完全IC化がなされているが、
このやくもは試験的にほとんどの場所にIC認証が必要となる。
非常時は、艦長室かCICで認証を解除等の一括操作をすることが可能だが、
現在は普通にICカードを通さないと開けることが出来ない。
しかも、幹部のICと下士官のICでは効果が少し異なる。
例えば、非常時で水密壁を手動で封鎖する場合、下士官のICで一度施錠し、
その後で幹部のICをCICの端末でかざす事で、完全にロックされる。
また、艦長室には艦長のICでしか入ることが出来ない様になっている。
寺井崎は部屋を出ると、扉を閉めてICを端末にかざす。
「ピッ、ピッ、ピー “ガチャ”」
短い電子音2回の後に、長い電子音が鳴って初めてロックされる。
ICを胸から下げ、艦長室を後にして歩き始めた。
▣ やくもCIC ▣
「ピッ、ピッ、ピー “ガチャ”」
CICの鍵が開く音が空間に響き、入室する。
CICと艦橋の扉には、内側の扉上部にLED式の電光掲示板が設置されている。
ICと連動し、誰のICなのか確認できるように名前と所属が表示される。
中のLEDには、今の認証でこのように表示されている筈だ。
「寺井崎 2佐 艦長 」という感じだろうか。
また、緊急時には現在の指示がテロップとして流される。
例でいうと、「対空戦闘用意 水密壁 ヘイサカンリョウ」という感じだ。
その操作は、このCIC・艦橋・艦長室でしか行うことが出来ず、
情報の錯綜を防止する為、艦長と各所属長にしか行うことが出来ない。
水密壁には現在の状況が表示されるようになり、
艦内各所の廊下には小型LEDで指示が表示される。
こうして日々、艦内の設備も新しくなっていっている。
・・・話がそれていたが、話をCICに戻そう。
CICの中は、当直を除いてほとんどが上陸に当たっている。
そのため、CICにいつもの喧騒はなく、静寂が広がっている。
CICを見渡すと、電子海図には現在の周辺の状況が映し出されている。
AIS(=自動船舶識別)とIFF(=敵味方識別)の結果が自動的に算出され、
海図には自動表示されるようになっている。
やくもはイージスシステムを搭載しているのはご存じの事と思うが、
200km以上の目標まで探知することが出来る。
こうしたシステムが、日本の国防の責を担い始めているのは言うまでもない。
CICを見終えた寺井崎は、CICを後にして艦橋へと歩き始めた。
▣ やくも艦橋 ▣
「ピッ、ピッ、ピー “ガチャ”」
先程も言った通り、艦橋にもIC認証をしないと入室が出来ない。
ICをかざして部屋に入ると、ここも当直以外はいなかった。
しかし、艦橋の外の見張り台に誰かがいるのが見えた。
「うん? 誰だろうか・・・。」
今は停泊中で錨も下している、だから特に監視は必要ないのだが。
寺井崎は見張り台につながる扉を開け、見張り台へと出た。
「これは艦長、ご苦労様です。」
人の気配を感じて振り返ったのは、船務長の石山だった。
「石山、艦内の指定場所以外は禁煙だぞ~。」
そう、石山が手にしているのは煙草であった。
「すみません、外の空気がおいしかったもので・・・。」
煙草を灰皿に戻そうとして、寺井崎はそれを制する。
「いや、次から気を付けてくれたらいい。気持ちはわかるからな・・・。」
寺井崎も石山と同じスモーカーなので、気持ちはわかるのだ。
「はい、ありがとうございます。」
灰皿をポケットに直し、再び空を見上げた。
「どうだ、艦内の雰囲気は・・・?」
寺井崎もポケットから煙草を1本取出し、火を付けながら言う。
「正直、初めての海外派遣で浮足立っている感は否めないですね・・・。」
「やはりそうか、お前はどうなんだ?」
吐き出した煙で輪を作り、石山の答えを待つ。
「・・・不安がないかと言われると嘘ですが、光栄な事だと思います。」
「そうか、まぁ艦内の士気には十分に気を配ってくれよな。」
「はい、了解しました。」
寺井崎は吸い終わった吸殻を灰皿に入れ、ポケットに戻した。
「じゃあ、俺はまだ艦内を周るから・・・ここは頼んだぞ。」
石山も吸殻を灰皿に入れ、姿勢を正した。
寸分の狂いもない敬礼をして、返事の代わりにした。
寺井崎も敬礼で返し、艦橋を後にした。
▣ 2012年6月20日 12時00分 ▣
▣ 海上保安庁 長官室 ▣
東京都千代田区に所在する、ここ「海上保安庁」。
海上保安庁を統括するのは、上位組織の「国土交通省」。
そして、今の長官である須藤 博次は8名の人員を集めていた。
ご想像の通り、懲罰なんかで長官室に呼ばれることはまぁない。
という事は、必然的に名誉なことになるだろう・・・。
「白川3等海上保安正以下7名、長官の命により出頭しました!!」
そう、ここに集まっているのはソマリア派遣される海上保安官8名。
先遣隊としてやくも等に分乗する隊員たちだ。
「ご苦労様!! 本日諸君らに集まって貰ったのは既に聞いていると思うが、
6月28日より先遣隊としてソマリアへ派遣される事が決定した。
全国の海上保安官の代表として派遣される事を誇りに思い、
全力を尽くして任務を全うしてほしいと思う。」
須藤長官からの訓示の後、1人1人に辞令が手渡されていく。
全国1万2千人の代表・・・それぞれに思う所もあるだろう。
任務を全うしてくれる事を、心より願っています・・・。
▣ 2012年6月20日 19時00分 ▣
▣ やくも艦長室 ▣
夕食を食べ終えた寺井崎は、艦長室で資料を見ていた。
資料には「ソマリアの近況」と書かれている。
国内情勢は勿論、周辺国の状態も書かれている。
やくもは日本でも最新鋭のシステムを備えた新鋭艦・・・。
あらゆる事態に対処出来る様、常日頃から訓練も積んでいる。
しかし、やくものクルー達は”実戦”を経験した事がない。
無論ながら、国民の安全に関わる事だからない方がいい。
しかし、これから行く所は国の管轄でない”国外”である。
何が起きるか判らないし、些細な事が危険に繋がる可能性もある。
だから、少しでも近況を知ることは大切なのだ。
今回の派遣は前例のない・・・言わば、後ろに派遣される部隊の礎だ。
寺井崎は資料から目を離して、天井を仰いだ。
「(クルー達に危険が及ばなければいいのだが・・・。)」
彼は、みんなの北極星・・・。
自分に出来る事は、全力を尽くす事。
個々に煌めく星々が、いつも以上に輝いている様に見えた。
寺井崎 「皆さんこんにちは!」
「第5護衛艦群旗艦やくも艦長の、寺井崎 護 2等海佐です。」
水 下 「皆さんこんにちは!!」
「同じくやくも砲雷長の、水下 恵 3等海尉です!」
「これから、この2人でラジオをしていきたいと思います。」
2 人 「よろしくお願いします~!!」
寺井崎 「ところで、ソマリアってどんな国なんだっけ?」
水 下 「えっ!? さっき熱心に資料を読んでいたのでは?」
寺井崎 「いや!? ・・・まぁ、クルー達の勉強具合のテストだよ。」
水 下 「本当ですか?」
寺井崎 「・・・スミマセン、実はまだ半分も読んでないです・・・。」
水 下 「まぁ、素直に認めたので少しご説明しましょう。」
「ソマリアは、アフリカの角と称される国家です。」
「首都はモガディシュですが、暫定政府と争っています。」
寺井崎 「そうなんだ・・・有名なものはあるのかい?」
水 下 「そうですね・・・結構多方面にありますね・・・。」
寺井崎 「そうかい・・・水下3尉、海上勤務はどうですか?」
水 下 「かなり優遇して頂いているので、快適ですね・・・。」
寺井崎 「それはよかった、これからも頑張って下さい。」
水 下 「はい、頑張って行きましょう!!」
「それでは、そろそろお別れのお時間の様ですね~。」
「お相手は私、水下 恵3等海尉と・・・」
寺井崎 「寺井崎 護 2等海佐でお送りしました!」
「次回の提供は、小説を更新した時となります。」
水 下 「ご期待下さい!!」
2 人 「では、作者さんにお返しします・・・。」
皆さん、少しはお楽しみ頂けたましたでしょうか?
作者のSHIRANEです。
久しぶりの更新となりましたが、読者さんにとってどうなのでしょう?
自分では正直・・・物語的にはどうなのかな^^;
こんな小説ですが、これからも読んで頂けると幸いです^^
もう1つの連載作品「蒼学生徒会!!」も宜しくお願いします。
それでは・・・次回の更新でお会いしましょう^^
平成24年4月2日 SHIRANE