第5章 第2話 「ソマリアへの道程」
第5章 第2話 「ソマリアへの道程」
▣ 2015年6月19日 11時40分 ▣
▣ 首相官邸 4F 首相執務室 ▣
時の首相である野岸 馨その人は、首相官邸の執務室にいた。
12時から、ソマリア沖への派遣について記者会見を行う予定だ。
執務室で残っている書類に目を通しながら、音楽を聴いていた。
野岸は議員になった頃から、ウォークマンで音楽を聴くのが日課だ。
所謂、野岸なりの集中方法というところであろう・・・うん、そうでしょう。
そうこうしている間に、部屋の扉が2回ノックされる。
「秘書の樋上ですが、そろそろお時間です。」
「そうか・・・ありがとう、すぐ支度するよ。」
野岸はデスクの横にあるクローゼットから、スーツを1枚取り出す。
スーツを羽織ると、襟の所に議員バッジを差し込む。
執務室の扉を開けると、すぐに秘書室とつながっている。
扉の前では第1秘書の樋上が待っていた。
「野岸首相、ご準備はよろしいですか?」
「あぁ、いつもすまないね。」
樋上はいえいえという風に手を軽く振り、廊下の方へ歩き出す。
秘書室前では、数人のSP が待機していた。
野岸は手を軽く上げてSPらに挨拶を交わし、1Fの記者会見室へと向かう。
これから発表する事に少しの緊張を覚えつつも、エレベーターの戸が閉まった。
▣ 同日 12時00分 ▣
▣ 首相官邸 1F 記者会見室 ▣
記者会見室には既に5大新聞社やフリー、それにテレビも入っているようだ。
部屋の一番前には会見用のマイクが置かれ、準備は出来ている。
時間になり、司会が少しずつ話を進める。
「えぇー時間になりましたので、記者会見を始めさせていただきます。」
司会の声を合図にして、右側の扉から野岸は会見室に入った。
会見台の奥に掲揚している国旗に黙礼をし、会見台に上がる。
胸ポケットから会見の原稿を取り出し、会見台の上に置く。
「本日はお忙しい中、お集まり頂きましてありがとうございます。
内閣総理大臣の野岸 馨です。今回は、ソマリア沖への派遣について。」
そこで一呼吸おくと、再び話し始めた。
「1991年の内戦で無政府状態が続いているソマリアですが、
2005年を境に、アデン湾近海での海賊事案が多く報告されています。
アデン湾周辺にはわが国の船舶も多く往来しており、
日本の船舶を含めての安全を守る目的で、自衛隊の派遣を決定しました。」
そこまで話したところで、1人の記者が手を挙げた。
「はい、そこの記者の方はどこの方ですか?」
野岸がそう尋ねると、男性は立ち上がって話し始めた。
「毎日新聞社の平と申します。自衛隊の派遣部隊は決まっているのですか?」
「海上自衛隊 第5護衛艦群旗艦 「やくも」「しまゆき」「さきしま」です。
その派遣部隊に、司法警察活動を行う海上保安官数名が同乗します。」
記者の質問に野岸が答えると、記者は続けて質問をしてきた。
「旗艦である「やくも」を派遣しても、北海道方面の防衛に支障は?」
「派遣の間、同護衛艦群所属の「しらね」がその代行を務めます。
旗艦運用を目的に設計されているので、支障はないと考えます。」
野岸が答えると、満足したように記者は椅子に掛けた。
「続けても、よろしいですか?」
手が上がらなかったので、野岸は続けて話しを進める。
「派遣隊は先程お話しいたしましたが、派遣日は6月28日。
護衛船舶は、現在国土交通省の対策チームが調整をしています。
派遣隊はひとまず、当該海域への先遣調査を行い、
護衛船舶が決定次第、護衛活動を開始します。
当面の間は海上警備行動を発令し、臨時国会で関連法を議決します。」
人の隙間から、また手が上がる。
「フリーの伏田です。関連法というのは、どのような物なのですか?」
「自衛官や海上保安官の司法警察活動や、武器使用を規定した法です。
現行の海上警備行動では「緊急避難」と「正当防衛」の時以外、
武器使用が実質禁じられており、対処が困難を極めると考えているからです。」
フリーの伏田はメモを取ると、椅子に掛けた。
「以上がソマリア派遣の概要で、詳しくは後日防衛大臣の方から。
何か、質問はありますでしょうか?」
この日は珍しく、記者から手が上がらなかった。
「それでは、私からの記者会見を終了します。」
会見台を降りて国旗に向き直り、黙礼をして部屋を後にした。
野岸が部屋を出ていくのを見計らって、記者たちは部屋を飛び出した。
今日の夕刊のニュースになるのだろうか・・・。
なるんでしょうね~やっぱり。
▣ 同日 15時30分 ▣
▣ やくも 艦長室 ▣
寺井崎は、部屋で残った事務整理を片付けにかかっていた。
「カタカタカタカタカタカタ・・・」
パソコンを叩く音が、静まり返った部屋を支配していく。
先遣派遣を前に、書類を片付けて総監部へ提出しなければならない。
訓練もこなす反面、艦長にはこうした仕事もあるのが現実なのだろう。
事務整理が2/3以上片付いたところで、丁度よく部屋がノックされた。
寺井崎は部屋の前に取付けられた小型のカメラで誰か確認する。
「水下です、入っても宜しいでしょうか?」
「あぁ、ちょっと待ってくれよ・・・”カチャ”どうぞ。」
手元の端末で、扉の鍵を開錠する。
「失礼します。」
水下は部屋に入って扉を閉めると、寺井崎に軽く黙礼をした。
「各班の上陸の要望書と、これよかったら読みませんか?」
束になった書類と一緒に差し出されたのは、1つのあるもの・・・。
「これは、今日の”夕刊”じゃないのか?」
「はい、野岸首相のソマリア派遣の記事がありましたので・・・。」
「本当か!?」
寺井崎は新聞をめくると、お望みのページに当りを付ける。
目でさーっと追っていくと、詳しい内容の記事が書かれていた。
「そうか、海上警備行動での対処か・・・こりゃ、大変だな。
水下、もしもの場合にも備えて武器の整備はさせておいてくれないか?」
「はい、了解しました。すぐに、手配しておきます。」
寺井崎は礼を言いながら新聞を返し、ささやかなお礼にコーヒーを入れた。
「よかったら、一服していったらどうだい?」
「ありがとうございます。」
水下はコーヒーを受け取ると、椅子に掛けた。
「それにしても、私達がソマリア沖へ派遣されるんですね。」
「あぁ・・・。」
「今までとは段違いに部下を預かる身として、心配です。」
寺井崎も同じことを考えていた。
部下を預かる上で、国際派遣は緊張の連続である。
ちょっとした気の緩みが隊の安全を危ぶませ、国際問題に発展する。
そうした意味では、下士官にはわからない上に立つ者の憂鬱もある。
しかし、そう言ってもいられない。
「しかし、それをこなしてこそ自衛隊としての誇りなんだろう。」
「えぇ」
自衛隊としての誇り、25万の自衛官が積み重ねてきた信頼・・・。
国民に感謝されずとも、やらなければならない使命がある。
それが、自衛官の”仕事”なのだから・・・。
「では、艦長失礼いたしました。」
水下は、艦長に軽く黙礼して部屋を後にした。
「さて、書類整理を片付けてしまうか・・・。」
寺井崎は、文書ファイルが並んだ画面に目を移していった。
艦尾の自衛隊旗は、誇りを示すように波風に靡かれていた・・・。
皆様ご無沙汰をいたしております。
"護衛艦奮闘記"作者のSHIRANEです^^;
皆様からのご意見を頂きまして、ゆっくり更新をしています。
本当はもっと、もっと更新していきたいのですが・・・学校がね^^;
今年も、皆様にとって読みやすい作品を書いていけるように頑張ります!!
尚、学校モノの作品の連載もして行きたいと最近考えています。
投稿の際は、一度読んでみて下さい^^
それでは、また次回に会いましょう。