第5章 第1話 「国際派遣へ向けて」
第5章 第1話 「国際派遣へ向けて」
▣ 2015年6月18日 9時30分 ▣
▣ 留萌総監部 基地司令室 ▣
寺井崎はやくもで事務整理をしている時に、総監部へ呼ばれた。
手近の物を手早く片付け、服装を正して艦長室をロックした。
艦を出る時に数人の士官とすれ違い、それぞれに軽く手を挙げて返す。
埠頭に降りると、総監部の方へ歩いていく。
その途中で、しまゆき艦長の横田2佐と一緒になった。
「横田は、何処行くんだ?」
「えぇ、なんか総監部に呼ばれまして・・・。」
どうやら、横田も同じ所へ行くらしい。
「そうなのか、俺もなんだよ。何かしたかな・・・。」
寺井崎は少し考えながらも、歩みはやめない。
そうこうしている間に総監部の施設についてしまった。
数年前から自衛隊施設のほとんどに「IC認証」が必要となった。
理由としては、警衛の負担軽減と警備体制の強化にあるようだが・・・。
胸ポケットからICカードを取り出してかざすと、ガチャっと言う音がする。
扉を開けて中に入ると、また自動的に扉が閉まる。
少しして横田も扉の中へ入った。
3回まで階段を上って、基地司令室の前へ到着する。
自分の服装を正して、基地司令室を3回ノックする。
「寺井崎2等海佐、横田3等海佐入ります。」
扉を開けて中に入ると、横田が扉を閉める。
目の前のデスクに掛けているのはご存知、野々宮基地司令である。
「あぁ、よく来てくれたね。楽な姿勢にして下さいね。」
「はい、お気遣いありがとうございます。」
そう言って、足を休めの姿勢に持っていく。
「呼び出したのは他でもありません。今から、ある任務について貰います。」
野々宮はそう切り出した。
「任務・・・ですか?」
横田がそう聞き返す。
「はい、では姿勢を元に戻して聞いて下さいね。」
休めを取っていた姿勢を、再び気をつけの位置へ戻す。
「辞令、寺井崎 護2佐以下`やくも` 横田 道形2佐以下`しまゆき`。
以上の者、ソマリア沖海賊事案対処の為、ソマリアへ派遣する。」
野々宮は厳粛な空気の中、2人にそう令した。
少しの沈黙の後、寺井崎が聞き返した。
「野々宮司令、それは海外派遣という事で間違いないのでしょうか?」
「えぇ、そうです。今日正式に、本省の方から辞令が届きましたので。」
野々宮は再び、辞令に目を落とす。
「派遣日は1週間後の6月28日、海上保安官8名も同時派遣されます。
4名ずつ割ふり、各艦に乗船させて任務に当たる予定となっています。」
寺井崎はふと、浮かんだ疑問を野々宮にぶつけた。
「と言う事は、当面の間は自衛隊法と警職法での対応という事でしょうか?」
「えぇ、当面の間はそうなるでしょうね。」
寺井崎は先行きの不安を一抹に感じながらも、再び身を正し敬礼をした。
「寺井崎2等海佐、ソマリア沖派遣拝命します!!」
横田も続いて敬礼をした。
「横田2等海佐、同じく拝命します!!」
野々宮は返事に満足したようで、辞令を渡すと部屋を出るよう促した。
寺井崎は辞令を受け取ると、扉の前で一礼し、部屋を後にした。
▣ 同日 10時10分 留萌総監部庁舎 ▣
辞令を脇に抱えながら、総監部の廊下を2人で歩いていた。
「横田、今度は大変かもしれないな・・・。」
2人とも海外に派遣されるのは初めての経験だ。
自衛官でも海外派遣されるのは、ホンの1握りしかいない。
「えぇ、しかも自衛隊法内での対処ですしね・・・。」
そう、まだ有効的な法が制定されていないので、有効的な対処が出来るか。
両者とも不安が頭をよぎっていた。
そうこうしている間に、入り口のゲートについていた。
入った時と同様にICをかざして総監部を後にする。
「まぁ、とりあえずは艦内ミーティングだろうな。」
「ですね。」
自艦までの短い道のりを考えながら歩くと、すぐ着いてしまった。
「では、またちょっと話そう。」
「そうですね、では。」
そう言うと、横田もしまゆきの方へ歩いて行った。
艦内に入った寺井崎は、ひとまずCICへ向かった。
▣ 同日 10時25分 やくもCIC ▣
CICに入ると水下と士官数人しかいなかった。
「水下、副長を見なかったかな?」
水下は首を横に振りながら「見てません」と言った。
「水下すまないが、各部署に1100から重要な艦内放送をするから部署待機
する様指示を回しておいて貰えないか?」
水下は嫌な顔を一つもせず「了解しました。」と言って、端末へ駆けて行った。
寺井崎は一度書類を置く為に、艦長室へ戻ることにした。
艦長室でひと段落していると、すぐに指示した時間になってしまった。
部屋にICで鍵をかけると、急ぎ気味にCICへ向かう。
CIC内へ入ると既に、殆どの科員が集合を済ませていた。
寺井崎は中央の海図付近の椅子に腰かけて時間を待った。
1100ギリギリに、副長もCICへ入ってきた。
そこに水下が、寺井崎に声をかける。
「艦長、お時間になりました。艦内へ接続済みです。」
「ありがとう。」
そう言って艦内インカムを手に取ると、一度深呼吸して話し始めた。
「では、予告した通り只今より艦内放送を行います。
本艦は本日防衛省より、1週間後の6月25日を以てソマリア沖へ派遣される事が正式決定した。派遣人員は`やくも` `しまゆき` `さきしま`が派遣される。
本艦はその準備の為、各員に至急の上陸期間を設ける事が決まった。
各部署内で話し合い、本日1800までに艦長室まで提出するように。
以上、質問があるものは各所属長を通して上申するように。」
そう言い終わると、インカムをもとに場所に戻した。
「水下、ありがとう。もう、接続は切ってかまわないよ。」
水下も突然の事に放心気味である。
「・・・・・・。」
まぁ、当然と言えば当然だろうけど。
自衛官の中で海外派遣されるのは・・・(以下略)ですからね。
「・・・あっ、はいわかりました。」
魂が戻ってくると、敬礼をして持ち場に戻ろうとした。
しかし、ある事に気づく。
「ちょっと待て、水下の持ち場はここだろう?」
CICを出ていこうとした水下を、寺井崎は呼び止めた。
「えっ、あっここCICでしたね。忘れてました・・・。」
CIC内に笑いが溢れていく。
少し緊張から解かれたのだろうか。
まぁ、あまり硬くなられるのも困りものだけどね・・・。
後は、水下が上手い事やってくれるだろう。
寺井崎は近くの士官に伝言を頼み、艦長室へ戻って行った。
その頃しまゆきでも・・・・・・同じような事をしていた。
海外派遣への準備が整うには、まだ役者が足りない。
誰だろうか・・・?
そう、あの人の会見です。
それは、次のお楽しみ・・・。
ここまでご拝読を頂きありがとうございます。
お馴染み作者のSHIRANEです。
やっと、話らしい話になりそうな予感ですね^^;
未熟な点もありますが、温かく見守って頂けると幸いです。
まだまだ分かりませんが、これからも宜しくお願いしておきたいと思います。
次話も、ぜひお願いします^^




