第4章 第2話 「強風、濃霧、そして大雨」
第4章 第2話 「強風、濃霧、そして大雨」
▣ 2015年6月15日 10時23分 ▣
▣ やくも第3区画廊下 ▣
「タッタッタッ・・・」
砲雷長の水下は、艦長室へ走っていた。
10時25分から会合があるのに、今日に限って・・・
「今日に限って、なんで時計が止まるのよ~!!」
走りながら、そう叫んだ。
艦長室へ向かう途中に、数人の下士官とすれ違った。
みんなも私を見ると、立ち止まって敬礼をしてくれる。
しかし時間に焦っている私は、走りながら敬礼をしている。
艦長室の部屋をノックしたのは、10時26分の事であった。
▣ 同日 10時26分 ▣
寺井崎は、コーヒーを飲みながら副長の今田と話していた。
「それにしても、水下来ませんね・・・。」
「来ませんね~。何かあったんでしょうか?」
そう話している時に、部屋が不意にノックされた。
「はい、誰ですか?」
そう尋ねると、一呼吸置いて返事が返ってきた。
「遅れて申し訳ありません。水下入ります・・・。」
そう言い終わると扉が開いた。
「ご苦労様です。走ってきたのですか?」
水下は、息を整えてから返事をした。
「はい、すみません。時計が止まっていまして・・・。」
「まぁ、席に掛けて下さい。コーヒーは、ブラックですか?」
寺井崎は水下を部屋に通すと、席に座らせた。
「はい、ブラックで結構です。」
コーヒーをカップに入れて、水下の前にそっと置く。
「ありがとうございます。」
コーヒーを飲んで気を落ち着けると、寺井崎から資料が手渡された。
題名には、「定期演習実施要綱」と書かれていた。
今回作成したのは、私こと・・・水下 恵であった。
「え~では、1ページ・・・は飛ばして5ページを開いて下さい。」
水下は内容を思い出しながら、ページをめくっていく。
「まず最初に予定している、対領空侵犯対処について確認します。」
領空侵犯は、絶対に許されるべきことではない。
イージスの後ろ盾には、多くの国民の命がかかっているのだ。
それに、北海道はロシアから近く一時期は領空侵犯も後を絶たなかった。
最近は、若干落ち着き気味ではあるが・・・気を抜いてはいけない!!
水下は資料を見ながら、そう思っていた。
「訓練実施は、翌0900からで問題はないですか?」
「はい、とくにないです。」
「私も同感ですね。」
寺井崎の質問に、今井と水下が答える。
「ダメコンは、どう組み込みましょうか?」
水下は、計画を練ってはいたが重要なところは空けておいたのだ。
「そうだな・・・右舷機関室にハープーン1発命中ってところかな。」
「そうですね・・・その位が妥当じゃないでしょうか。」
こんな風にして、演習実施要綱が確認されていった。
全ての確認と摺り合せが終わったのは、1時間後であった。
「それでは、これで演習実施要綱の確認を終えます。」
ご苦労様でしたと言って、寺井崎が立ち上がる。
軽く挨拶をすませると、水下と今井は制帽を被り直し艦長室を後にした。
外はまだ、激しい雨が甲板を打っていた。
▣ 同日 10時35分 ▣
▣ やくもCIC ▣
水下はCICに戻ると、自分のデスクに置かれた書類に目を通した。
今後の天候の変化や、ここ2時間の海域の変化などだ。
天候の事を詳しく知りたくなった水下は、手近の艦内無線を艦橋に繋いだ。
「艦橋、樋上2士が承ります。」
「砲雷長の水下だけど、気象長をCICに呼んでくれるかな?」
艦橋で出たのは当直の若い士官であった。
「はっ、了解しました。すぐに手配します。」
「宜しく。」
そう言って、艦内無線を元に戻した。
CICの中は、沢山のディスプレイに海図が映し出されていた。
数分すると走ってきたのか、気象長が到着した。
「砲雷長、およびでしょうか?」
「あぁ、ご苦労様。今後の天気を詳しく教えて欲しいんだけど・・・。」
「了解しました。今日は風速が強く、濃霧になるかもしれません。
明日以降は天気が戻りそうですが、風力はそのままのようです。」
「そうですか・・・ありがとう。持ち場に戻ってください。」
そう言うと、気象長はCICから出て行った。
再び書類に向き直ろうとした時、CICの扉が勢い良く開いた。
入ってきたのは通信長で、何か慌てている様子だ。
「通信長どうしたんですか?そんなに慌てて。」
「たった今・・・周辺海域で・・救難信号を受信しました。」
「場所とかは分かっているのですか?」
そう言いながら、目の前の海図に目を移す。
よく見ると、小さく点滅している船舶があった。
船名は・・・第三新栄丸、漁船だ。
「海士!! 至急、艦長を呼んできて。」
手近にいた海士にそう言うと、すぐにCICから出て行った。
「通信長、至急 第一管区海上保安部に緊急通報!!」
「はっ。」
通信長も海士に続いて、CICから出て行った。
「西村、第三新栄丸に救難マークを付けて!!」
「わかりました。」
西村がカタカタと入力して、新栄丸にマークがついた。
艦内がにわかにあわただしくなってきた。
「(どうか、無事でありますように・・・。)」
水下の願いを他所に、雨は一段と激しさを増していた・・・。
更新が遅くなりまして、申し訳ありませんでした。
東日本の大震災から、早くも1か月が経ちました。
現地では復興の兆しが見えたと思ったら、また余震・・・。
被災された皆様が、早く日常を取り戻されますよう遠くからではありますが、
祈っております。
定期演習に向かっていたやくもに突如飛び込んだ、救難信号。
一体、このあとどうなってしまうのだろうか?
続きを、期待しないでお待ちください。
最後になりましたが、読んでいただきまして本当にありがとうございます。
更新頻度が遅くなりつつありますが、これからも宜しくお願いいたします。