第4章 第1話 「雨降る留萌」
第4章 第1話 「雨降る留萌」
▣ 2015年6月15日 8時20分 ▣
▣ 海上自衛隊第1埠頭前 ▣
防災演習からおよそ2週間たった今日、埠頭は慌ただしかった。
やくもは定期訓練へと向かうため、出向準備に追われていた。
「出港40分前!!! 出港準備急げ~!!」
副長の声が、インカム越しに埠頭に流れる。
その声に駆り立てられるように、隊員達は駆けて行った。
「ご苦労様。出航準備の方は、順調にいっていますか?」
そこへ、寺井崎が総監部への報告を終えて帰ってきた。
「はい、順調に進んでいます。このまま行けば、予定通りに・・・。」
「そうですか、僕は艦橋に行きますので何かあればそちらに・・・。」
「はっ、了解しました。」
寺井崎はそう告げると、手近の扉から艦内へ入って行った。
今田は、手に付けた防水の時計で時間をもう一度確認する。
「8時22分か・・・。」
▣ 同日 8時26分 ▣
▣ やくも艦橋 ▣
「艦長入られます!!」
入口付近の海士が、艦橋内へ向かって報告する。
その声と同時に、艦橋内の全員が行動を止めて入口を向いて敬礼をする。
「ご苦労様。出港準備を続けてください。」
その言葉を聞くと、各々が自分の仕事に戻る。
艦橋に入った寺井崎はまず、気象長にこれからの天気を確認する。
「今日の天気ですが、南西の風が強く昼から雨が降るらしいです。」
「雨ですか・・・。波高の方はどうですか?」
「はい、少し高く3メートルぐらいと予測されます。」
「わかりました。持ち場へ戻ってください。」
天気を確認すると、気象長を持ち場へと帰す。
「昼から雨で、波高が3メートルか。今日は、哨戒配備のままかな・・・。」
天候が悪くなると、どうしても視界が悪くなるが、護衛艦には高性能なレーダーがある。しかし、通常監視ではカバーできない点もある。
数年前に起きた漁船衝突は天候ではなかったが、
レーダー監視や引き継ぎの行き違えで発生したものである。
「まぁ、後で副長達と協議して考えるか・・・。」
寺井崎は、帽子を被り直してCICへと向かった。
▣ 同日 8時35分 ▣
▣ やくもCIC ▣
CICでは、各種レーダーなどの調整と点検が行われていた。
「水下いるか~?」
寺井崎は、後で艦長室へ来るように伝えるためCICを訪れていた。
「艦長、砲雷長はただいま席を外して居られます。」
近くにいた3尉を呼び止めて聞くと、そう言われた。
「そうか・・・。じゃあ、後で艦長室へ来るように伝えて貰えるかな?」
「はい、そういう事であれば喜んで。」
「じゃあ、頼んだよ。」
そう言い残すと、艦長室へと戻った。
▣ 同日 8時41分 ▣
▣ 艦長室 ▣
艦長室へ来る間に、数人の士官とすれ違った。
士官達は皆、敬礼をしてくれたのでそれに敬礼を返す形だ。
寺井崎は艦長室にICカードを通すと、室内へと入った。
室内は片付いていて、同年代の部屋と比べるとその差は歴然だ。
室内に入った寺井崎は、椅子にかけてノートパソコンを立ち上げた。
「えーと、ポチ・ポチ・ポチ・ポチ・っと。」
パスワードを打ち込みデスクトップに出ると、一つのファイルを開いた。
ファイル名は「演習実施要綱」と書かれていた。
「一番新しい日付は・・・あった、これだ。」
最近では、電子化が進みあらかたの書類はサーバー提出されるようになった。
今回の演習実施要綱の作成担当者は、確か水下だったはずだ。
文書ファイルを開くと、文字が綴られた報告書が画面に現れた。
「今回の演習の種類は・・・全部やるのか・・・。」
今回の演習では、1週間かけて全ての訓練を実施するらしい。
具体には、対水上・対空・対潜戦闘・遭難者捜索訓練なども含まれる。
「まぁ、詳しい打ち合わせは砲雷長と副長が来てからにするか・・・。」
そうこうしている間に、出港の時間が迫っていた。
「おっと、のんびりしすぎたな。艦橋へ急がなければ。」
寺井崎は、パソコンをシャットダウンすると、制帽を被り部屋を後にした。
▣ 同日 8時55分 ▣
▣ やくも艦橋 ▣
「出港5分前。出港用意!!最終チェックを急げ~。」
今田の声が、艦内へと響く。
その声に続いて、若い士官が復唱する。
寺井崎は艦橋に入るとまず、艦長席から双眼鏡を手に取った。
今田も寺井崎を見つけると、近寄ってきた。
「出港準備の状況はどうなっている?」
「はい、間もなく全ての準備が完了します。」
「そうか・・・。」
1分程すると、準備完了の連絡が入った。
寺井崎はインカムを手に取り、艦内へ向けて令した。
「舫い放て!!出港、両舷前進微速!!!」
舫いが放たれると、アンカーも上がり艦が少しずつ進み始めた。
岸壁から脱した所で、また令した。
「両舷前進半速、取舵50度!!」
艦が出口を向いたところで、航海長に操艦を移した。
寺井崎は艦長席に掛けて、一息ついた。
艦は、留萌港を出ると礼文島に向けて進路をとった。
出港して少しすると、予報通り雨が甲板を打った。
やくもは少しずつ、留萌の町を離れて行った・・・。
更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
受験の方も無事終わり、4月からはいよいよ高校生です。
更新の方も見てくれる人がいる限りは、書き続けたいと思いますので、
これからも応援よろしくお願いします。
また、よりよくしていくという意味でも、感想やご意見をお待ちしています!!