第3章 最終話 「大規模防災演習in北海道 後編」
第3章 最終話 「大規模防災演習in北海道 後編」
▣ 2015年6月3日 12時50分 ▣
▣ 北海道ピーチホテル2階 ▣
「隊長より野田。応答されたい。」
一階部検索の結果、要救助者の存在は確認できなかった。
中央階段を通り、二階部の検索を行っている。
「ガガガ・・・、こちら野田。どうぞ。」
「要救助者の有無と酸素残圧はどうか、どうぞ。」
白石らは酸素残圧に余裕があるが、野田の方はどうだろう?
「ガガ・・、要救助者は確認できず、酸素残圧は大丈夫です。」
「了解した。引き続き、要救助者の捜索を続けられたい。」
「了解しました。」
無線を肩に掛け直すと、ライトで再び前を照らし直した。
「誰かいませんか~!!」
北村が、所々で声をかけまた面体を装着する。
このホテルは元々、16階建ての建物である。
既に、8階から上階は1隊が捜索に入っている。
しかし、依然と要救助者発見の無線は入っていない。
何処にいるのだろうか?
救助に慣れているはずの隊員達も、若干の焦りが襲う。
そこに一報の無線が飛び込んできた。
「災害対策本部より捜索作業中の各隊員へ告ぐ。
ホテル名簿によると、5名の詳細が不明である事が判明。
内、2人が女性である。発見次第、一報入れられたい・・。」
ここで、要救助者の数が判明した。
(女性が含まれているのか・・・。)
白石は、捜索作業を急ぐことにした。
▣ 同日 12時55分 ▣
▣ やくも艦橋 ▣
「両舷微速、投錨用意。沖合にて、停船する。」
寺井崎は、副長に指示を出した。
「両舷微ー速、投錨用-意!! 沖合にて停船する。作業部署の発動を急げ!!」
副長の指示で、艦内が慌ただしく動き始める。
艦の速度が、20ノットから10ノット以下まで落とされる。
そこに、シーホークから通信が入ってきた。
「SH602よりやくも。後10分程で、災対本部へ到着する。
帰署時の、受け入れ体制の準備を具申する。」
「やくもよりSH602。現在本艦は、沖合に投錨準備中。
現地到着次第、一報願いたい。以上、やくも。」
河野は、了解と告げて周波数を戻した。
ヘリは、もうすぐ北海道内に入ろうとしていた。
▣ 札幌ピーチホテル2階 ▣
先程より、少し煙幕が薄れたと思ったらまた濃くなってきた。
「誰かいませんか!!」
北村が、面体を外して呼びかける。
すると、
「・・・・助・・・け・・て・・・・・」
かすかに、女性の声が聞こえた。
白石達は散開して、周囲の部屋を探し始めた。
「・・助け・・・・て・・・」
声の部屋に白石が到着し、部屋を慎重に開ける。
建物全体の電源が落ちているので、頼りはハンドライト一本だけだ。
少しずつ前を照らしていくと、人影が現れた。
「大丈夫ですか!!」
白石が駆け寄って、女性を支える。
女性に面体を装着させると、煙の比較的少ない階段付近へ避難した。
「あなたの名前を教えて頂けますか?」
白石が、階段に着き女性を落ち着かせると名前を聞いた。
「は・・い、吉・・中・・・佐代・・里です。」
「吉中佐代里さんで間違いないですね。」
女性は、弱々しく頷く。
「ちょっと待っていて下さいね。」
白石はそう言うと、無線を手に取り周波数を合わせる。
「中央901より捜索中の各隊員宛、2階にて要救者一名確保。
名前は、吉永佐代里。至急、応援願いたい。
場所は、2階中央階段付近。どうぞ!!」
少し間をおいて、返答が帰ってきた。
「災対本部より、中央901宛。面体着装の自衛隊員がそちらへ急行中。
他の隊員も含めて、2階中央階段付近へ集合させられたい。
なお、8階より上捜索中の隊員より緊急入電があり、要救助者5名の内
3名を確保したとの連絡あり。ボンベ交換後、引き続き捜索に当たれ。
以上、災対本部。」
無線によると、上の隊員達も要救者を確保したようだ。
残りは一名だ。何処いるのだろうか・・・。
「中央901了解。」
端的に告げて、無線周波数を小隊に変更した。
「隊長より各隊員へ・・・・」
そう言おうとした時、緊急を知らせる無線音が鳴り響いた。
「北側捜索野田より、隊長宛。要救助者を発見。救出を試みた所、
男性が突然倒れた!!酸素マスクを着装させ、階段へ急行中。
至急、指示を乞う!!」
何と、一名が実際に倒れたようだ。
「隊長より野田。至急階段へ集合せよ!!他の隊員へも厳命、以上。」
返答を聞く前に、災対本部へ緊急連絡を取る。
「至急、中央901より災対本部!!もう一名の要救者を発見。
しかし、要救者の意識がない模様。至急、搬送の手配を要請する。」
無線を入れた所で、北側の隊員達が階段へ到着した。
「どうしたんだ!!」
白石が、野田達に尋ねると野田が答えた。
「どうやら、煙幕の主成分を多く吸い込んだようですね。
早く搬送しないと、危険かもしれません・・・。」
状況を把握した白石の判断は早かった。
「北村、かばんから簡易担架をだせ!!搬送するぞ!!」
男性を担架に乗せると、残りの隊員を待機させ下り始めた。
「もう少しで、外に出られますから・・・頑張って下さい!!」
白石と北村は、階段を駆け下りていった。
▣ 同日 13時04分 災害対策本部 ▣
白石からの緊急連絡を受けた災対本部は、慌てていた。
演習で、実際の要救者が出るとは思わなかっただろう。
そこに一報の無線が飛び込んできた。
「やくも所属SH602より災対本部。応答願いたい。」
緊急搬送訓練の為、急行していたヘリが到着したのだ。
「こちら災対本部。SH602どうぞ!!」
「間もなく、災対本部へ到着する。着陸指示を願う。」
「災対本部、了解。」
ヘリの無線を受けて、応急手当をして病院へ搬送する事になった。
また、慌ただしく本部内が動き始める。
ヘリの羽音がだんだんと低くなってきた・・・。
▣ 札幌ピーチホテル1階 裏口付近 ▣
階段を下っている途中、緑色の服とすれ違った。
階段を出し得る最高速で降りて、裏口を目指した。
白石は、先程の要救者に呼吸器を渡したのでボンベを持っていない。
「(少し苦しいな。早く外へ出ないと・・・。)」
白石は、最高速で裏口を蹴り飛ばした。
少し薄暗い雲が、白石の気持ちを代弁しているようであった。
外へ出た白石は、そのまま救護所へ直行した。
▣ 救護所 ▣
白石は、土足のまま救護所へ駆け込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・要救者をお願いします!!」
息を切らしながら、白石自身も酸素ボンベを渡される。
大きく息を吸い込むと、思い切り噎せた。
「ゲホ、ゲホ、ゲホ・・・」
「白石さん、大丈夫ですか!?」
「あぁ、なんとか大丈夫だ。」
そうこうしている間に、手当を済ませヘリで搬送されようとしていた。
「(助かってくれよ・・・。)」
白石は、心の中でそう呟いた。
▣ 同日 13時10分 SH602機内 ▣
木村と河野は、コックピットで待機していた。
その間にも、河野は緊急案件をやくもへの報告を済ませていた。
「木村さん、要救助者搬入完了!!離陸準備整いました。」
後ろに乗っている隊員が、扉を閉めながら報告する。
プロペラの回転数が徐々に上がっていく。
一気に上昇すると、白石中央病院を目指した。
木村はいつも以上の集中力で、安定させつつ高速で移動した。
数分足らずで、病院のヘリポートへ到着した。
「ヘリダウン、ヘリダウン、ヘリダウン、もう少し、ストップ!!」
ヘリが、病院のヘリポートに着陸する。
ヘリから担架が運び出され、要救助者が病院の中へと消えていった。
木村と河野達は、報告を済ませるとそのまま帰署した。
札幌の街を出ると、また蒼い海が広がっていた。
▣ 同日 18時00分 ▣
▣ 札幌市内 ▣
「ウーウーウーウーウー・・・・」
始まりと同じサイレンが、札幌の街にこだました。
札幌ピーチホテルでも、あのトラブル以外は順調に進み、
無事、終了を迎えていた。
道庁前では、知事がお礼を込めた挨拶をしている。
やくもはと言うと、SH602の帰署を待ち、留萌港へ入港した。
余談だが、緊急搬送された要救者は無事命を取り留めた・・・。
こうした日頃の積み重ねが、いざという時に役に立つ・・・
本当にそうだと実感する事になるのは、この演習の1月後のことであった。
まさか、あのような事になるとはだれが想像しただろうか・・・。
まだ何も知らぬ、寺井崎たちは留萌で束の間の休息を得た。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
作者の、SHIRANEです。
ここまで読んでみて、いかがでしたでしょうか?
自分は、表現するのが苦手な面もあるので、
上手く伝わらないということもあり得ます・・。
何か疑問やご意見がありましたら、またお願いします。
それと、2つの理由から少し更新をしなかったり遅れるかもしれません。
1つは、今年高校受験のため。
2つは、他の作品の執筆にも力を入れたい。
この2点からです。
ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします。
それでは、お体に皆さん気をつけて!!
また会いましょう。




