第3章 第3話 「大規模防災演習in北海道 前編」
第3章 第3話 「大規模防災演習in北海道 前編」
▣ 2015年6月3日 7時00分 ▣
▣ やくもCIC ▣
「DDH182より留萌総監。現在、沖合15km地点を25ノットで航行中。」
やくも通信士が、定時連絡を留萌総監部へ報告する。
「留萌総監よりDDH182。了解しました、航行を続けて下さい。」
留萌総監からの返答を聞くと、ひとまず安心だ。
今日は、昨日より通告があった防災演習が実施される予定だ。
昨日、留萌を出港したやくもは、沖合で演習を行っていた。
演習を実施している最中に、直下型地震が発生したという想定である。
この想定を把握しているのは、寺井崎と副長だけである。
したがって、他の科員はなにも知らないのだ。
果たして、実際の災害を想定して行動できるのか・・・。
▣ 艦長室 ▣
寺井崎は、昨日送付されてきた計画要綱に目を通していた。
「想定震度は、7・・・津波は・・なしか・・・。」
呟きながら、一か所一か所確認していく。
「今回のやくもの仕事は、津波の観測及び要救者の搬送だな。
航空科にも、通達しなければいけないな。後で、航空科長を呼ぶ・・と。」
どうやら、今回はヘリが最大限に活用されそうである。
日頃の訓練の成果をみせてくれると思うが、なぜか不安が頭を過った。
なにも、不安な要素はないはずなのに・・・。
▣ 同日 8時30分 ▣
▣ 札幌市消防局 ▣
ここ札幌市消防局では、演習に向けて装備品の再点検が行われていた。
「ホース・・・良し!!酸素ボンベ・・・残圧良し!!」
隊員達が、装備品の点検を一つ一つおこなっていく。
機関員は、消防車両の点検をおこなっているところだ。
「ウーーーゥ・・・・・」
サイレンアンプが鳴らされ、正常に動作している事を証明する。
しかし演習当日でも、他の災害は待ってくれない。
その証拠に・・・、
「ピピピピピピピピピ!一般救急指令。中央区北五条西7丁目・・・」
出場指令を受け、準備を整えると消防署から出て現場へ向かった。
「ホント、救急出場多いよな~」
愚痴のようにこぼしたのは、特別高度救助隊隊長の白石であった。
「ホントですね。減ってくれれば、いいんですけど・・・。」
それに答えたのは、昨年入隊したばかりの北村である。
特別高度救助隊が発足した大きな理由として、阪神淡路大震災の教訓がある。
この部隊は、政令指定都市を中心に19か所に設けられている。
「それにしても、演習上手くいくのかな~。」
「やってみなきゃ分からんでしょう。」
白石と北村が会話していると、また指令が入った。
「ピーピーピーピ―!交通救急救助指令。中央区西十九条9丁目・・・」
指令が入るとともに、白石と北村は駆けだし出場準備を始めた。
2分足らずで準備を済ませると、車両に乗り込み現場へ急行した。
▣ 北海道庁 知事室 ▣
福田は、席に座って今日の想定をもう一度確認する作業をしていた。
詳細な想定では、本日12時15分に道内陸を震源とするM7.0の地震が発生。
道庁は直ちに関係各所へ通達を行うと同時に、危機対策管理室を設置し、
被害状況の収集・対策に当たる。
また、今回の地震で全体の過半数の救急指定病院の機能が喪失。
傷病者を診察する、診察室を各避難所に設置し、重病者はヘリコプターにて、
海上待機中の「やくも」へ緊急搬送する予定である。
道警察・札幌消防では、倒壊した建物内部から要救者を捜索し救助する予定だ。
また、今回は津波襲来の予定は特に立てられていない。
「ざっと、こんなものか・・・。」
資料を机に置いて、一度一息ついた。
「はぁ~。上手くいくのだろうかな?なんせ、初めてだからな。」
独り言を呟いていると、木田がお茶を持って入ってきた。
「知事、お茶が入っていますけど飲まれますか?」
「あぁ、頂こう。すまないな~。」
「いえ。」
木田が福田にお茶を差し出すと、忠告を入れる前に飲んでしまった。
「熱っつ!!」
女性とは思えない声だが、言おうとする前に飲むもんだから・・・。
「知事、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないだろう!!」
そう言うと、手近にあった水を飲み干した。
本当に、大丈夫かな・・・?
▣ 2015年6月3日 11時30分 ▣
▣ やくもCIC ▣
「開始まで、後1時間ほどだな。」
寺井崎は、呟きながら目の前の海図に目をやった。
やくもは、北海道沖15km地点を25ノットで航行中だ。
CICには、常時10人は必ず詰めている。
今は、副長もCICに待機している。
30分後に、このCICの大画面に知事からの挨拶が映る予定だ。
他の科員は、交代で昼食を取っている。
航空科は、今ヘリの整備で手いっぱいだろう。
「あぁ~、早く時間にならないだろうかな。」
「どうしたんですか、艦長?」
声を掛けてきたのは、砲雷長の水下だった。
「いや~、なんか不謹慎だけど楽しみなんだよな。」
「確かに、こんな事滅多にないですからね~。」
水下が話していると、通信長が紙を持って入ってきた。
「艦長、留萌総監から演習の詳細が届きました。」
持ってきたのは、詳細な演習経過書であった。
「ありがとう。あっ、通信長インカムを回してくれ。」
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
寺井崎は、インカムを受け取ると経過書を開封した。
そして、艦内に向け放送を始めた。
「艦長より総員に告ぐ。
本艦は、1215より北海道で発生した大規模災害への対処を行う。
航空科は、1215よりSH-601を発艦させ状況の確認を行う。
その後、道庁からの要請でSH-601、602を避難所へ急行させ、
傷病者の緊急搬送を行う。
搬送後、札幌港に入港。接舷し、消防局・警察の援助に向かう。
今回の、想定は以上だ。質問があれば、寺井崎の所まで出頭。以上。」
寺井崎は、インカムを元に戻すと一度艦長室へ戻った。
鉄帽と作業制服に着替えるためだ。
少しずつ、準備が整ってきたようだ。
▣ 同日 12時00 ▣
▣ 北海道庁前 ▣
そして、いよいよ演習の準備が整った。
間もなく、火蓋が切って落とされる。
それは、福田だけでなく皆同じだろう。
果たして、上手くいくのだろうか・・・?
果たして、初めての試みはどうなるのでしょうか?
前のように、ヘリのトラブルがなければいいですけどね・・・。
ご意見やご感想、お待ちしております。