第3章 第1話 「落ち着くな~留萌は・・・。」
第3章 第1話 「落ち着くな~留萌は・・・。」
▣ 2015年5月20日 7時20分 ▣
▣ 留萌地方総監部庁舎 ▣
寺井崎は、舞鶴への派遣終了後、2日間の休養が与えられていた。
その休養後、久しぶりにこの基地に足を踏み入れた。
入り口ゲートの所で、警衛に声を掛けられた。
「寺さん、お久しぶりです。どうでしたか、舞鶴は?」
「いや~、大変でしたよ。不審船とか・・・。」
「あれって、寺さんの担当だったんですか。お疲れ様です、どうぞ。」
世間話をして、入り口のゲートを通された。
こうして基地を歩くのも、2週間弱ぶりだろう。
懐かしい顔に、何名かすれ違う。
庁舎に入ろうとしたところで、水下が後ろから駆けてきた。
「寺井崎2佐、出張ご苦労様でした!!」
相変わらず、元気が取柄で隊内のムードメーカー的役割を担っている。
「久しぶりだね。何か、いない間変わった事あったかな?」
「いえ、特にありませんでした。訓練も順調でしたし・・・。」
「そうか・・・。」
寺井崎はひとまず、変わりがない事に安心し庁舎内に入っていった。
受付で、預けていたIDカードを受け取るとひとまず、更衣室へ向かった。
予備の幹部制服に着替えるためである。
(いつも着ている制服は、クリーニング中です・・・。)
幹部制服に袖を通すのも、2日ぶりだ。
服を着替えると、ひとまず基地司令室へ向かった。
▣ 同日 7時45分 ▣
▣ 基地司令室 ▣
「寺井崎、入ります。」
軽くノックして、寺井崎は部屋に入った。
そこには、基地司令の野々宮さんが椅子に腰かけていた。
「海将補、お久しぶりです。寺井崎、本日留萌に帰還しました!!」
「お疲れ様でした。舞鶴で、何か得るものはありましたか?」
菅田は、ねぎらいと同時に質問もしてきた。
「はい・・・、やはり練度はあたごに敵いませんね。やくもの隊員も、
あたごに負けぬよう、もっと練度を鍛えようと思いました。」
「そうですか・・・。それは、良い経験が出来て良かったですね。」
「はい・・・。」
話終えた寺井崎は、室内の敬礼をして部屋を後にした。
▣ 事務室 ▣
普段来る事のないこの部屋に来たのは、出張の報告を済ますためだった。
「はい、これにサインして下さい。」
事務担当から差し出された書類に名前を書いて印鑑を押す、
これを2・3回繰り返すと、事務からOKが出た。
「ご苦労様でした!」
軽くねぎらわれて、部屋を出て行った。
▣ 海上自衛隊埠頭 ▣
前にも言った事があっただろうか・・・?
ここ留萌自衛隊基地は、陸上自衛隊も駐屯している。
そのため、広大な土地のため慣れるまで苦労する事になる。
・・・話が逸れてしまった・・・。
「潮風が気持ちいいな~。」
風にのった潮の香りが、寺井崎の鼻を刺激する。
見慣れた場所に出た所で、また水下と一緒になった。
「お疲れさん。やくもへ行く所かい?」
「はい!!そうです。」
そう交わすと、一緒にやくもへ向かった。
やくもは、相変わらず立派に存在していた。
あたごとはまた違うやくもに、愛着を感じ始めていた。
「水下は、やくもが好きか?」
寺井崎は、ふと浮かんだ質問を水下にぶつけた。
「やくもをですか・・・。はい、もちろん好きですし隊員のみんなも好きです!!」
「それは良かった。」
正直、寺井崎は安堵していた。
嫌いとか言われても困るし、好きなら好きで返答にも困る。
まぁ、好きならいいか・・・。
そう、自分の中で締めくくり艦長室へ入って行った。
▣ 2015年5月20日 9時10分 ▣
▣ CIC ▣
停泊中の艦船でも訓練は行われる。
その中でも頻繁に行われるのが、防火訓練である。
8年前、当護衛艦群しらねが火災を起こし、CIC全損の被害があった。
いざという時の為にも、連携を図る事が一番の目的だ。
「ブーブーブーブーブー・・・」
艦内に低いブザー音が響く。
それに次いですぐに、指示が飛ぶ。
「第1機関室より出火!!応急部署を発動する。・・・」
指示を聞いた隊員達が、ラッタルを駆け下りる。
「第1応急隊、吸水管設置!!第2応急隊、消火開始!!・・・」
本番さながら、怒号が飛び交う。
しかし、訓練もやはり気休めでしかない。
本番に敵うものなど、ないのだから・・・。
そうこうしている間にも、火が消し止められた。
現場からCICに報告が入る。
「現在時、第1機関室を鎮火。残火処理も完了、指示を乞う。」
CICでは寺井崎がストップウォッチのSTOPを押した。
「13分21秒!!!」
鎮火までの時間を読み上げた。
「前より、3分弱早くなってるな~。よしよし・・・。」
鎮火までに時間をかければかける程、艦を危険にさらす。
時間短縮は、海上自衛隊内でも練度を要する一つになりつつある。
それを、さらに短くできれば安全にもつながるのだ。
寺井崎は、内心でそう思いながら副長に書類提出を命じ、
艦長室での職務に戻って行った。
留萌での勤務は落ち着いているが、緊張感が少し欠けている。
実際の戦闘になった時、この状態はまずい。
寺井崎は、士気の度合いに若干の不安を持ちながらも今日の終業を迎えた。
しかし、数週間後思いがけない事で出港する事になるとは、
誰も思いもしなかった。
そう、あのできことがあるとは・・・。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ここまで物語を書けているのも、一重にみなさんのおかげです。
次回掲載前に、この物語のあらすじを投稿しようと思います。
もう一度ストーリーを大雑把に理解していただくと、
読みやすくなるかと思います。
また、物語中でご不明な点や質問があれば・・・
感想コーナーでどんどん投稿してください。