第2章 最終話 「不審船事案のあと~留萌への帰還~」
第2章 最終話 「不審船事案のあと~留萌への帰還~」
▣ 2015年5月18日 12時00分 ▣
▣ 舞鶴地方総監部庁舎 基地司令室 ▣
寺井崎は、海上警備から帰還したあと基地司令室へ来ていた。
今回の不審船事案の報告と引き継ぎを行うためだ。
「コンコン」
扉をノックすると、「開いてるよ」と言われた。
「失礼します!!」
扉を開けて中へ入ると、基地司令と幹部制服を着た一人の男性がいた。
「まぁ、掛けたまえ。」
促されるまま、応接椅子に腰かけた。
「・・・・・・」
静かな空気を破ってしゃべり始めたのは、基地司令の菅田であった。
「先に紹介しておこうか、隣にいるのがあたご艦長の十和田君だ。」
「この度はご迷惑をおかけしました。十和田 賢治3佐です。」
菅田に続いてしゃべり始めた声は、案外軽そうな物であった。
「いえいえ、寺井崎 護2佐です。」
自己紹介を終えて、気が軽くなった寺井崎は報告を始めた。
「まず、不審船事案の報告は報告書の通りですが・・・。」
報告書を手に説明を始めた。
「つまり、攻撃はあちら側からで正当防衛によるものでいいですね?」
「はい、間違いありません。6管にもご確認いただければと思います。」
そう言って、報告書をパタンと閉じた。
「では、離任式を始めます。」
「寺井崎2佐、ご苦労様でした。留萌への帰還を許可します。」
「はっ、了解いたしました。有難うございました!!」
寺井崎は室内で立ち上がり、敬礼をした。
菅田も敬礼をして、寺井崎は部屋を後にした。
▣ 同日 13時00分 ▣
▣ 舞鶴基地第1運動場 ▣
「懐かしいな・・・。」
寺井崎は、ほんの18日前の事を懐かしく思い出していた。
初めは、あがってしまった事を思い出していた。
そして、また同じ場所で今度は別れを告げなければいけない。
そう決心して、朝礼台の上に立った。
「え~、18日間という短い時間でしたがお世話になりました。
復帰した艦長のもとで、訓練に励んで下さい!!
僕自身、色々な経験をさせていただき、とても有意義でした。
留萌へ帰っても、この経験を生かせるよう頑張ります。
あたご隊員の皆さん、有難うございました!!!」
寺井崎は後半、目に涙を浮かべていた。
短い間でも、愛着は湧くという事だ。
挨拶が終わって、敬礼をすると数名の隊員が泣いていた。
それにつられて泣きそうになるのを堪えて、笑った。
(最後の顔が泣き顔って言うのは良くないよな・・・。)
内心、そう思ったからである。
庁舎の陰に入ったところで、地面に数滴の水が落ちた。
寺井崎にとって、良い経験になった18日間でした・・・。
▣ 同日 16時25分 ▣
▣ 旅客機内 ▣
予定よりも13日早い帰還となった寺井崎であったが、
内心少し不安な気持ちがあった。
留萌の仲間達は、大丈夫だろうかなどだ。
チェックインする前に買った新聞を開きながらそう思った。
その新聞の見出しは、今朝の不審船事案の事であった。
「北朝鮮、日本領海内に侵入か!? 海上保安庁巡視船たかつきに発砲!!」
たかつきの被害状況等が、刻々と記されていた。
それに引き換え、あたごに被害がなかったのは良かった事だ。
これも隊員の熟練のなせる技だろうと、内心思っていた・・・。
これで、第2章が完結しました。
次に短編を挟み、3章へ入りたいと考えっています。
もしかすると、短編がとぶかもしれません・・・。
3章は、また留萌へ戻ります。
懐かしい顔ぶれにご期待ください。