第2章 第6話 「対領海侵犯対処~後編~」
第2章 第6話 「対領海侵犯対処~後編~」
▣ 2015年5月17日 19時35分 ▣
▣ 不審船事案当該海域 ▣
予定していた時間通り、当該海域へ到着した。
既に、第6管区海上保安部所属の「たかつき」が現着していた。
あたごもそれに続いて、当該海域の警備に移る。
寺井崎は、最悪の状況も想定して艦内に命令を下す。
「本艦は、当該海域へ到着した。現在発令中の第2哨戒配備から、
総員に第1哨戒配備を発令する。繰り返す・・・」
艦内に寺井崎の声がこだまする。
第1哨戒配備が発令されて間もなく、P3-Cから最新情報が入った。
「情報によりますと、不審船の甲板上にミサイル発射機らしきものが
確認されたとのことです。その他、44mm機銃が装備されている模様!!」
通信長が報告内容を読み上げていく中、寺井崎が「たかつき」と通信を
つなぐよう指示した。
通常、海上保安庁と海上自衛隊は管轄が違うので周波数も違う。
しかし、こういう事態に備え周波数が整えられているのだ。
「艦長、繋がりました。」
通信長の声と共に、通信用の受話器に手をかけた。
「ご苦労様です、あたご艦長の寺井崎です。」
受話器から、重みのある深い声が流れてきた。
「6管保安部所属たかつき艦長の柄本です。ご苦労様です。」
「いえ、P3-Cからの情報なのですがミサイル等の兵器が搭載されている
ようでして、もしもの時は本艦にお任せ下さい。」
寺井崎は、P3-Cからの情報をたかつきにも伝えた。
「わかりました、もしもの時には貴艦にお任せします。迎撃練度の高い
イージスさんを信用します。乗員の命を預けます。」
「了解しました。本艦にお任せ下さい、では!!」
そう言って、通信はとじられた。
それと同時に艦内に向かって下命した。
「艦長から各位へ!対空・対水上見張りを厳となせ!!」
その指示と同時に、艦橋から数人の見張り員が増員される。
夕方を過ぎ、辺りは薄暗かったが暗視型の見張り台が設置されているので
それほど苦にはならなかった。
▣ 同日 21時35分 ▣
▣ 不審船内部 ▣
「おい、日本の領海には何隻の船がいるんだ!!」
艦長らしき男が、レーダーを監視している男に問いかける。
「見た限りでは、2隻の様です。」
そう返答すると艦長らしき男は、「そうか・・・今何分だ?」
「はっ、21時35分であります!!」
「よし、持ち場に戻れ!!」
「はっ!!!」
そう言い残して、再びレーダーを監視し始めた。
▣ あたごCIC ▣
「不審船に変化はないか?」
寺井崎が、電測員に問いかける。
「はい、今のところ変化は見られません。」
「そうか・・・。」
そう言って寺井崎は、中央付近に置かれた海図の前の椅子に腰かけた。
寺井崎は、正直心の中で震えていた。
そう、自分の見た夢に何処となく似ているからだ。
しかし、その夢通りには進んで欲しくないものだ。
なぜなら、夢の通り行けばこの艦は沈むのだから・・・。
▣ 同日 22時00分 ▣
▣ 不審船内部 ▣
「艦長、時間です。」
「うむ、ハープーンミサイル発射用意!!」
「了解!!」
諸元入力され、甲板の発射機から勢いよくミサイルが打ち出される。
それと同時に、高速で機関が始動し始めた。
▣ あたごCIC ▣
「艦長、不審船から高速飛翔物2確認!!高速でたかつきに近づく!!!」
電測員の報告より早かった。
「対空戦闘用意!!シースパロー攻撃始め!!! 通信長、総監部に緊急連絡!!」
寺井崎の声と同時に、艦内が慌ただしくまわり始める。
「スタンダード発射準備よし、スタンダード発射!!!」
前部甲板から勢いよく、2発の対空ミサイルが打ち出された。
「目標へ順調に飛翔、接触まで58秒!!」
「迎撃後、たかつきと合同で不審船を追跡する。」
寺井崎が、艦内に矢継ぎ早に指示を飛ばす。
そうしている間にも、ミサイルは目標へと向かう。
「インターセプト5秒前・・・スタンバイ・マークインターセプト!!」
「ドーン!!!!!」
激しい音が艦外で響き渡る。
「目標1発迎撃、残弾1発さらにたかつきに接近!!」
電測員の非情な声がCICに響く。
「128mm主砲及びCIWS迎撃始め!!たかつきに当てさせるな!!!」
「ウィーン、ドン!ドン!ドン!・・・・・・」
前部と後部に備えられた主砲が一斉に火を噴いた。
そのうちの数発が、目標をかすめていく。
たかつきにさらに迫った時、
「ドーン!!!!!!!」
耐えきれず爆発した。
寺井崎が、たかつきに被害等の確認を急がせる。
「艦長、たかつきより報告。先程の戦闘で被害はなし!!」
「よし、わかった。たかつきに通達、不審船の追跡を開始する。」
「了解!!」
寺井崎は、間髪をいれず艦内に再び指示を出す。
「総員戦闘配置を発令する!!対空、対水上見張りを厳となせ!!!」
こうして、不審船との戦いが今始まった。
▣ 2015年5月17日 22時10分 ▣
▣ 第6管区海上保安部たかつき船内 ▣
「こちらは日本国海上保安庁です。前方の不審船ただちに停船しなさい!!」
これを先程から、日本語・英語・中国語・朝鮮語で繰り返されている。
しかし、既に私達の船は攻撃を受けたのだから正当防衛での攻撃も良いの
だが、6管本部から許可が下りない。既に対処不能という事で、国交省にも
防衛省への移管上申をしているのだが・・・。
そう愚痴をこぼしている間に、6管から連絡が入った。
「6管よりたかつき、正当防衛における射撃を許可する。繰り返す・・・」
ついに、6管から射撃の許可が下りた。
「前方の不審船に告ぐ、ただちに停船しない場合攻撃を実施する・・・」
しかし、それでも止まろうとする気配はない。
「12.7mm機関砲、威嚇射撃始め!!」
船長の声で、機関砲が撃ちだされる。
この様子は記録の為、船上部のカメラで撮影される。
「ダダダダダダダダダダダダダ・・・・・・」
しかし、一向に止まろうとしない。
「仕方ない、船体に照準!!撃ち方はじめ!!!」
「ダダダダダダダ、ダン! ダン!ダン!・・・・」
数発が命中するが、一向に止まらない。
この船で、不審船を食い止めるには力不足か・・・。
▣ あたごCIC ▣
「艦長、たかつきが射撃を開始した模様です。」
見張り台からの報告が、刻々と伝えられる。
しかし、現段階で防衛省への移管要請が入っていない。
そのため、攻撃を加える事が出来ないのである。
「くぅ、早く移管要請を出してくれれば・・・。」
もどかしい気もあったが、その状況を見守るほかなかった。
それにしても、不審船はそれほど速くはなかった。
そうはいっても、34ノットは出ているだろうが・・・。
「タタタタタタタタ、ダン!ダン!ダン! ・・・・」
先程とは違う機関砲の音が聞こえた気がした。
そこに艦橋の見張り員がCICに入ってきた。
「艦長、たかつきが不審船より砲撃を受け機関に損傷!!これ以上の、
追跡は不可能です。」
たかつきが攻撃を受け機関に被害を負った。
これで、たかつきは最高速で追跡が出来なくなった。
どうしたものか・・・。
少し寺井崎は考えて、通信長に伝えた。
「通信長、総監部に射撃の許可を取れ。それと、たかつきの救援も!!」
「了解しました。」
しばらくして、総監部から威嚇射撃の許可は下りた。
しかし、船体射撃の許可は下りなかった。
「128mm主砲、手動モードにて威嚇射撃を行う。警告始め!!」
航海科員がマイクに向かって警告を発する。
「前方の不審船に告ぐ、ただちに停船しない場合攻撃を実施する・・・」
しかし数回の警告にも停船をしようとはしない。
「128mm主砲手動モード、撃ち―方始め!!!」
「ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!・・・」
数発の砲弾が打ち出されると、海面に水柱ができた。
「ただちに停船しなさい!!」
航海科員が繰り返し警告を発する。
少し間合いがあいた所で、再びミサイルが襲ってきた。
今度は、前より距離がない。
「対空戦闘、主砲・CIWS迎撃急げ!!!」
「ドン!ドン!ドン!ドン!・・・」
主砲の音がCICにも響く。
「正面90度よりミサイルさらに接近、距離2300m!!!」
電測員の声が悲鳴に近くCICに響いた。
「ドン!ドン!・・・・バーン!!!!」
衝撃波が伝わり、寺井崎は転びそうになった。
「おっと。」
なんとか持ちこたえ、CICの海図の角をつかむ。
いつまで続くのだろうか・・・。
▣ 2015年5月18日 24時30分 ▣
あれから1時間近く追跡を続け、遂に不審船は領海外に抜けた。
したがって、警備行動は終わりを告げた。
不審船から10発のハープーンと機関銃掃射を受けたが奇跡的?被害は
軽微であった。
6管本部のたかつきは、エンジン部の損傷が激しく6管に曳航される予定だ。
しかし、これほどの攻撃にもかかわらずこちらからの攻撃は、
128mm主砲による威嚇射撃75発のみである。
終始、船体への射撃許可は下りなかった。
あたごは警備行動を終え、舞鶴港へ帰港する。
それと同時に、寺井崎の帰還も早められる事になった。
入院していた艦長の傷が思ったより浅く、明日退院するらしい。
あたごはこの後、ドックで点検を受けることになっている。
寺井崎は、CICの椅子に腰かけたままうつらうつら夢の世界へ入って行った。
小説を見ていただきありがとうございました。
次回で、第2章あたご編の最終回とさせていただきます。
続編の、第3章もご期待ください。
ありがとうございました。