第2章 第5話 「対領海侵犯対処~前編~」
第2章 第5話 「対領海侵犯対処~前編~」
▣ 2015年5月17日 2時27分 ▣
▣ あたご 艦長室 ▣
「・・・・・・・・!!」
寺井崎は、夢の中から目を覚ました。
時刻は丁度2時30分前、丑三つ時の時間帯であった。
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・」
荒い息を吐きながら、ここが現実だと言い聞かせた。
「・・・・夢・・か。」
寺井崎は、ベッドから降り顔を洗いに洗面所へ向かった。
艦長室には、お風呂と一緒に洗面所も備え付けられている。
まぁ、艦長の特権といったものだろうか。
・・話を戻そう。
「バシャ、バシャ・・・」
水の流れる音が徐々に緩まり、寺井崎も落ち着いてきたようだ。
ベッドに再び戻り、一度落ち着いて夢を思い出した。
「これで・・4度目だぞ・・・。」
そう、寺井崎はこの夢を見続けているのだ。
なにかを、予言するかのように・・・。
「まぁ、何も起きなければいいけどな・・・。」
不安があったが、もう一度寝ることにした。
▣ 同日 3時00分 ▣
▣ CIC ▣
「・・・・・・・!?」
一人の電測員が、CICのレーダーと睨めっこしている時であった。
領海ぎりぎりを航行する船舶を確認したのだ。
不思議に思った電測員は、一応艦橋へ連絡を入れた。
「・・CICより艦橋どうぞ。」
「・・艦橋です、何かありましたか?」
応対したのは、当直の任に就いている航海士であった。
「副長が居られれば、CICへ来て欲しいと伝えてもらえますか?」
「はい、了解いたしました。」
そう言って無線が閉じられた。
数分後、谷副長がCICに入ってきた。
電測員は、敬礼をしながらもレーダーのモニターに目をやった。
「副長、領海ぎりぎりに不審な船があるのですが・・。」
「どれだ?」
谷もモニターに目線をあわせる。
「これです。」
電測員が、不審船を指でさす。
「確かに、ちょっと変だな~」
和やかな副長の口調が、若干濁った。
「そこの君、ちょっと艦長を起こしてきてもらえるか?」
そう言って谷が指さしたのは、近くにいた海士であった。
「はい、了解しました。」
その海士も、促されるまま艦長室へと向かって行った。
▣ 同日 3時03分 ▣
▣ 艦長室 ▣
丁度、眠りに就いた時刻であった。
誰かが、艦長室をノックした。
「はい、誰ですか?」
そう聞くと、CICで副長が呼んでいるという事であった。
「分かった。服を着たらすぐ行くと伝えてくれ。」
そう言って、海士を持ち場へ戻らせた。
寺井崎もクローゼットから服を取り出して着替えると、
急いでCICへと向かった。
▣ CIC ▣
「谷、何があったんだ?」
身支度を済ませた寺井崎が、CICの扉を開けて入ってきた。
「はい、領海付近に不審な船があるのですが・・・。」
「どこだ?」
先程と同じように寺井崎が尋ねる。
「ここです。」
寺井崎は船の位置を確認すると、通信長を呼んだ。
「通信長、今すぐ総監部と通信を結べますか?」
「はぁ、まぁ~結べますけど・・・。」
「すぐにつないでくれないか?」
「了解しました、こちらにお繋ぎしますか?」
「そうしてくれれば助かる。」
そう話すと、通信長はCICの端末を使って舞鶴に通信を試みた。
「DDG177-ATAGOより舞鶴地方総監部へ。」
3時過ぎなので繋がるのに時間がかかるかと思ったが、案外早く繋がった。
「こちら舞鶴地方総監部通信科、田中2尉です。何かありましたか?」
通信科の田中2尉に状況を伝えると、基地司令が無線に出た。
「寺井崎君、この件は念のため防衛省に報告する。貴艦は燃料補給後、
当該海域付近のパトロールに移ってくれ。現時点を持って、訓練は延期する。」
状況を受けた寺井崎は、了解の意を伝え総員起こしにかかった。
「総員起床!!」
インカムで艦内に、副長の声が響いた。
3時過ぎではあったが、総監部の命では動かないわけにいかない。
「繰り返す、総員起床!! 総員第2哨戒配備に着け!!!」
副長の声と共に、就寝していた隊員達が目を覚まし、持ち場に走っていく。
寺井崎は総員がそろい始めたのを見計らって指示をとばす。
「沓島の給油施設を用いて、あたごの給油を急げ!!給油が終わり次第、
本艦は出港して現場海域付近の警らに移る!!」
しかし、あたごはあくまでもパトロールが目的である。
不審船が領海に侵入すれば、海上保安庁の管轄になる。
国土交通省から、防衛省へ応援要請が入らなければ実質的行動に移る事は
出来ない事になっている。
しかし、不審船が最近活動を強めている北朝鮮という可能性も含めて、
現場海域の警らについておくのだ。
まぁ、今頃海上保安庁の巡視船が現場海域に向かっているだろう。
事態があまり大ごとにならない事を、ただ願うばかりであった。
しかし、寺井崎の不安は的中してしまう事になる。
その、不安要素が・・・。
▣ 2015年5月17日 15時26分 ▣
▣ 兵庫県沖35km沖 ▣
今朝の状況について、続報が艦に届いた。
朝を待って、P3-Cが飛ばされ航空写真を撮影した。
状況からみるとまだ、領海を侵犯している様子はない。
しかし海上保安庁の船舶はまだ到着しておらず、
いつ侵犯してもおかしくないということであった。
しかし、間もなく海保の船舶が当該海域に到着するという事である。
本艦も当該海域に後、4時間程度で到着できそうであった。
その間も、第2哨戒配備のままである。
そうこうしている間にも動きがあった。
不審船から、不明な電波が発信されている事を確認したらしい。
この艦がつくころには、状況が何か変化しているかもしれない。
何もない事を祈りながらも、あたごは当該海域へと向かって行った。
▣ 同日 16時36分 ▣
▣ ??????????????? ▣
「艦長、攻撃機器の点検完了しました。」
下っ端であろう男の報告を受けて、次の指示を出す。
「よし、本日22時に日本国領海に侵入する!!
接近する船舶は、攻撃対象として扱え!!」
「「「了解!!!」」」
そう言って、その船のエンジンは一度切られた。
現場へ向かっている海上保安庁の船舶は、
第6管区「たかつき」・第7管区「ほうおう」・第7管区「あそ」3隻。
海上自衛隊からは、
舞鶴地方隊所属「あたご」・P3-Cが現場海域へむかっています。
前話で出てきた、「対領空侵犯対処」はどうしたの?という方がいらっしゃると思います。
その話は、申し訳ありませんが第3章へ先送りとさせていただきます。
あしからず、ご了承ください。
話の中で、不明点・疑問点があれば些細なことでも結構ですので、
感想欄にてお知らせください。
よろしくお願いいたします。