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逆行令嬢と執事  作者: 嘉ノ海祈
本編
9/14

9.運命の時

 そそくさと会場へ戻っていくセシリアを見送ったアランは、今後の予定について考えながら庭園を眺めていた。ふと、何者かの不穏な気配を感じ咄嗟に気配に向かって剣を抜いた。


「ひゃっ!」


 だが、聞こえてきたのは想像より甲高い声で、剣の先にいる人物が敵ではないことに気づき、アランはすぐに剣を下ろした。


「っ!すまない!…マリアか」

(先ほど感じた殺気は気のせいか…?)


 マリアは驚いた様子ではあったが、剣が下ろされほっとしたような表情に戻るとアランに頭を軽く下げた。


「いえ、こちらこそすみません。まさか庭園に殿下がいらっしゃるとは思わず。驚かせてしまいました」

「いや、私が悪い。少々気を張っていたとはいえ、気配の区別がつけられなかった」

「怪我もしていませんし、お気になさらず。…それにしても、お城にはこんなに素敵な庭園があったのですね。初めて知りました」


 感動しましたというように綺麗な笑顔を向けるマリアに、アランはああと言葉を返す。


「気に入ってもらえたようで何よりだ。専属の庭師が腕によりをかけて作り上げたからな。ここには他国から取り寄せた希少な植物もある」

「それはすごいですね。…あの、殿下―」


 ふと、見知った人物の気配を感じ取ったアランはそちらへと視線を向けた。マリアが何かを聞こうとしたが、アランの耳にはすでに入っていなかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 結局、会場にはマリアは既にいなかった。もしかしたら既にアランと合流しているかもしれないと思ったセシリアは庭園へと戻ってきた。


 すると、アランの隣にはマリアがいて既に話しているのが見えた。どうやら前回と同じ流れ通りになったようだ。そのことにセシリアはほっと息をついた。


(流れが元に戻ったようでよかったわ。…でも、ここから刺客に襲われるのよね。マリアをなんとしてでも守らないと…)


 マリアを守れば嫉妬によりマリアを殺そうとしたという疑いは晴れる気がするのだ。そうすれば死を回避できるのではないかとセシリアは考えた。


「来たか…」

「え?」


 かなり遠くにいたのにセシリアが戻ってきたことに大分早く気づいたアランは、セシリアに視線を向けた。彼と話していたらしいマリアはきょとんとした様子で彼の視線を追っている。


「遅かったなセシリア」

「殿下。お待たせして申し訳ありません。…もしかしてお話のお邪魔をしてしまいましたか?」

「いや、いい。大した話はしていない。それよりも用事は全部済んだのか?」

「はい。おかげさまで」

「そうか」


 セシリアの言葉にアランは目を細めた。てっきりマリアと会話しているうちにマリアに心が移り、邪魔扱いされるかなと思っていたのだが、特にそういった様子はなさそうだ。


(やっぱり、前回と比べて殿下に何か変化があったのかしら…)


 ふと、植木の奥から金属のかすれる音がした。その音にセシリアは我に返る。はっと気づいた時にはアランが二人の前に出て、襲ってきた刺客の剣を受け止めているところだった。


「っ!下がってろ」

「ひゃっ!」

「っ!」


 突然の刺客にマリアは青ざめた表情で悲鳴を上げる。一方のセシリアは本格的に最後の記憶に近づいていることに緊張で息を飲んだ。


「ち、やはり来たか。衛兵っ!」

「「は!」」

(え!前回はこんなにたくさんの衛兵なんていなかったのに!…というか、殿下、今やはりって言わなかった?まさか、この事件を予想していたの…?)


 セシリアの記憶では前回は衛兵が少なく守りが薄かったのだ。それで守り切れず怪我を負うことになるのだが…。


(でも、衛兵も増えたけど敵の量がそれに比例して増えているような…)


 庭園は低い植木で囲われているため死角が多い。なのでこれくらいの量が隠れられてもおかしくはないのだが、想像以上に刺客の量が多く、衛兵は苦戦しているようだった。衛兵だけでは守り切れずセシリア達の方を襲ってきた刺客をアランが必死に倒している。


「想像以上に量が多いな…。セシリア、それからマリアも、私から離れるな」

「え、ええ」「は、はい!」


 あいにくセシリアは武芸のたしなみがない。一度、戦うすべを覚えようとしたことはあったのだが壊滅的にセンスがなかった。もともと筋肉が付きにくいタイプだし、ひ弱な令嬢の腕では剣さえふるうのは難しかったのだ。


 おとなしくアランの後ろに控えていた二人だったが、二人の背後から突然植木を乗り越え刺客が襲ってきた。刺客はそのままマリアに攻撃をしようとする。セシリアは咄嗟にマリアを庇おうと前に出た。


(腕ならそう簡単に死なないわよね)


 痛みを覚悟のうえで腕を前にだし剣を受け止めようとしたその時―


「そうはさせませんよっ!」


 聞きなれた声がしたかと思うと、キィンと剣が交わる音が聞こえた。恐る恐る目を開けるとそこには見間違えようのない頼もしい背中がそこにはあった。


「クラウス!」


 王宮で開かれる社交界には専属の側仕えを連れていくことができない。防犯の都合上、王宮で用意した使用人しか会場に入ることができないのだ。だからクラウスは今日の社交界には出席していなかったはずなのだが、今はそれを気にする余裕はなかった。


「お嬢様、遅くなり申し訳ございません。お怪我はございませんか」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう」

「もう少しご辛抱ください。すぐに片づけますのでっ!」


 剣が激しくぶつかり合う音がする。クラウスがここまで戦えることを知らなかったセシリアはただただ彼の戦いぶりに見惚れていた。


 しばらくして、応援が駆け付けたこともあり刺客は全て捕らえられた。静かになった庭園にアランの声が響く。


「社交界は中止だ。出席者を速やかに送り返せ。私たちはこのまま犯人を炙り出す」


 こうして成人して初めての社交界は幕を閉じ、セシリアはクラウスに連れられて屋敷に急いで戻ったのだった。

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