幼馴染ざまぁに憧れる俺が、フラれる前提で幼馴染に告白したら……!?
「千笑、大事な話があるんだ! 聞いてくれ」
「ん? なあに翔琉?」
いつもの放課後の帰り道。
そこで俺は隣を歩く幼馴染の千笑に、満を持して切り出した。
「俺は……『幼馴染ざまぁ』に憧れてるんだッ!」
「幼馴染ざまぁ……?」
「何それ?」とでも言いたげなキョトンとした顔で、千笑が俺を見てくる。
「ふふん、幼馴染ざまぁというのはな、最近ネット小説で流行っている一大ジャンルなんだ!」
「ほうほう、それでそれで?」
ふむふむと頷いて、続きを促してくる千笑。
「大まかな流れはこうだ。――まず主人公の男が幼馴染の女の子に告白するも、すげなくフラれてしまう」
「あ、フラれちゃうんだ」
意外そうな顔をする千笑。
「ああ、だがここからが重要なんだよ! フラれた翌日からあら不思議! 実は主人公のことが好きだったけど幼馴染に遠慮してた、メガネの美人委員長とか、バスケ部エースのスポーツ女子とか、若干ヤンデレ入ってる前髪メカクレ美少女とかに、モテてモテてモテまくり、リア充街道まっしぐらッ! そして幼馴染はそんな主人公を見てハンカチを噛むというのが、幼馴染ざまぁの概要だ」
「ほほーぅ、そういうのが流行ってるんだぁ。ネット小説の世界もなかなかに業が深いねえ」
うんうんと深く頷く千笑。
どうやら理解してくれたようだな。
「と、いうわけなんだ。俺はどうしてもリア充になりたい。協力してくれるか千笑」
「ふふ、昔から翔琉は言い出したら聞かないんだから。――いいよ、付き合ってあげる」
「おお! 恩に着るぜ千笑!」
「いえいえ、どういたしまして」
やっぱ持つべきものは幼馴染だよな!
「――じゃあ、早速いくぜ千笑」
「うん、いつでもどうぞー」
居住まいを正し、真剣な表情で千笑に向き合う。
そして――。
「――千笑、好きだ。俺と付き合ってくれ」
「うん、いいよー」
「――!!!」
あっれっ???
「ち、千笑、俺の話聞いてたか? そこでお前がオーケーしたら、幼馴染ざまぁにならないだろ?」
「うーん、でも私翔琉のこと好きだし、断るのはもったいないっていうか」
「えっ!?!? お前俺のこと好きだったの!?!?」
「あはは、そうだよー。やっぱ全然気付いてなかったんだね。ま、そんなニブいところも可愛いんだけどさ」
小悪魔のような顔で、俺の鼻先にツンと指を向けてくる千笑。
そ、そうだったのか……。
「だからさっき『付き合ってあげる』って言ったでしょ?」
「あれはそういう意味だったのか!?!?」
てっきり幼馴染ざまぁに付き合ってくれるという意味だとばかり……。
「で、どうなの? 翔琉は私のこと好きなの?」
「――!?」
キスできそうなくらいの距離に、グイと顔を近付けられた。
ポニーテールにした栗色の髪が、ふわりと揺れる。
確かに改めてよく考えてみれば、千笑はラノベの表紙に載っててもおかしくないくらい可愛いし、優しくて料理上手で、そのうえおっぷぁいも大きい――!
あれ? 千笑ってひょっとして百点満点じゃね?
「……うん、俺も千笑のこと、好き」
そっか。
俺、千笑のこと好きだったんだ――。
「あはは、じゃあ晴れて両想いだね。――これからは恋人としてよろしくね、翔琉」
「オ、オウ」
満面の笑みで俺の左腕にギュッとしがみついてくる千笑。
二の腕あたりにとても柔らかいものが当たっている気がするが、敢えて指摘はしないでおこう。
――拝啓 お父さん お母さん
――幼馴染ざまぁは果たせなかった俺ですが、その代わり可愛い彼女はできました。